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幻想の音楽通信 Vol 10

Kiko Dinucci - Rastilho

Kiko Dinucciの3年ぶりのアルバムは前作の動的なノイズは後退し、変わりにPablo Saboridoが手掛けるカバーアートに示唆される精神的なノイズ(気候変動やオピオイドクライシスを彷彿させる)に伴い様々なブラジリアン・ミュージックと異質でエクスペリメンタルな要素が全編に亘り鳴り響く作品になっています。彼の広汎で豊かな音楽性は共演したアーティストや彼が所属するバンドMetá Metáの音楽性にも共通している部分がり、アルバム全体に影響しています。

また、複雑な音楽の要素の中でとりわけカンドンブレやそこから影響されたジャンルであるアフォシェ(ペルナンブーコ州とバイーア州発祥とされるジャンルで宗教色が強いカンドンブレに対してその要素を取り除いたヨルバ族考案のリズムを基に構成された音楽で、彼らが奴隷貿易のプランテーションシステムの為にアメリカに渡った事が今日のジャズやブルースに大きな影響を与えている)が基軸となり、MPB(1960年代にボサノバやサンバに多くの海外スタイルの融合を経て確立したジャンル)のサウンド性が加味された事で商業性にも対応した作風になっている事も前作の違いとしての特色だと思います。Metá Metáはカンドンブレの要素とジャズ・ロックを組み合わせたサウンドが特徴的でカナダのアフロ・ファンクグループThe Souljazz Orchestraのような世界観にも通ずる部分とは別にKiko Dinucci名義ならではの独立した音色も顕著です。

Kiko Dinucciは概要欄で様々なアーティストの音色の中で自身独自の表現に適用する方法を見付け出したと述べている事と関連して、自身のもう一つのプロジェクトであるPasso Tortoに現れるようなヴァングアルダ・パウリスタ(1979年に起きた大規模ストライキの全国波及に呼応してサンパウロで起こった文化運動で、実験的かつ前衛的なサウンド性を特徴とするジャンル)を現代に刷新させた側面との差別化にも成功した重要作品です。


Soho Rezanejad - Honesty Without Compassion is Brutality (Volume 2)

Silicone Recordsの設立者であるSoho Rezanejadの2019年の作品「Honesty Without Compassion is Brutality」に関連した2作目に当たる作品がリリースされました。Soho Rezanejadはデンマークのコペンハーゲンを拠点に活動するアーティストです。デンマークと聞くと福祉の国、環境政策の国としても知られ、コペンハーゲンと聞くと14歳の時に上京した童話作家であるアンデルセンを思い浮かべますが、ポスト/ブルース・パンクバンドのアイスエイジやエレクトロニック方面でもカスパー・ビョルケ(Kasper Bjørke)もデンマーク出身として知られています。

(両アーティスト共にSoho Rezanejadとの共作あり)2018年のファースト・アルバム「SixArchetypes」に比べてインストゥルメンタルな楽曲が多く構成され、新たな側面に魅せられます。ペルシャ語と英語そしてデンマーク語を話す彼女にとって言語は「表現の為の手段」と捉えていることからも音楽も同様に自然な変化としての移行なのかもしれません。「Two Women Bucolics」からは、ローリー・アンダーソンを彷彿とするエクスペリメンタル/アート・ポップなサウンドの中に「You and I, we share the same」が示唆する同化あるいは抱擁に見られる人の営みを包蔵した歌詞が特徴的です。その歌詞を見てケン・ローチ監督作品「家族を想うとき(Sorry We Missed You)」や是枝裕和監督が作り出す作品に包蔵されるテーマにも通ずるように思います。Croatian Amorのアルバム「Isa」の「 In Alarm Light 」ではミュージック・コンクレートとサウンドコラージュの広い空間の中の均一性にSoho Rezanejadの暗然なテイストが添えられたのが今作「Honesty Without Compassion is Brutality (Volume 2)」ではフィールドレコーディングやエレクトロアコースティックを用いてより空間の広さを備えた作風になっているが魅力です。






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