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参加型社会宣言(橘川幸夫の新刊)は、2020年6月に発行します。


参加型社会宣言(橘川幸夫の新刊)は、2020年6月に発行します。


まえがき


 2020年。社会の構造が停止した。
 私たちは、今、むきだしの時代の上で生活している。

 社会とは、人類の歴史の時間の流れの上に形成された幻想のコミュニティである。時の流れの上で、そこに生きた多くの祖先や先達の体験や発見や知恵や技術を形にしながら、最適な生活環境としての社会を築いてきた。人は、胎児から子ども、子どもから大人になり、社会建設の一翼を担ってきた。社会は時代の大きな流れの上を推進する巨大クルーズ船のようなものである。

 2020年の新型コロナウイルスの渦は、世界の人々を凍りつかせた。進化の頂点で完全無欠に全てを制御出来ると思っていた人類が、微細なウイルスに蹂躙されている。そして、コロナ渦は人類の歴史を、強制的に一時中断を迫った。都市機能は停滞し、世界交通は機能しなくなった。ただ、通信だけがウイルスの影響を受けずに、逆に、これまで大半の人が触りもしなかったZOOMというオンライン会議システムを体験することになった。

 私は、本書の構想を2019年に決めて、クラウドファンディングで支援を求めて出版した。執筆の時期が、まさにコロナ渦の最中になってしまった。本書の執筆意図は「近代ビジネス社会が、やがて情報化社会になると、何が変わり、何が変わらないのか」ということの追求と、具体的に情報化社会における社会システムは、どういうものが考えられるのかという企画具体案を考えることであった。

 そしてコロナ渦において、ウイルスが未来からの意志であるかのように、人類に、あらゆるものがオンライン環境で完結するという情報化社会を垣間見せた。この人類史的な体験は、いつかコロナ渦が収束した時に、人類に新しい時代の可能性を促した出来事として記憶されるだろう。ZOOMをやったこともない人が、いきなりZOOM宴会をはじめて「くだらないな、と思ったが、意外と楽しいな」とかいう発言がSNSのあちこちから聞こえてくる。

 これまでの会社組織は、内部調整や根回しや派閥抗争が活性化のエネルギーだったと言えなくもない。しかし、在宅のオンライン業務になれば、そうした村的コミュニティは意味を失う。ZOOMで会議をすれば「発言」の価値だけが意味を持つのであり、社内の力関係や、上司・先輩などという体育会的な支配関係が無意味になる。情報化社会とは、あらゆるものがデータ化され、それはすなわち可視化されるということだ。コミュニティの中のブラックホールがなくなる。部下の成果を上司が盗むというようなこともなくなる。すべての業務や行動を全体が共有し、オープンになっていくからだ。誰が何を発言し、誰が何を提案したかが、瞬時に共有される。パワハラもセクハラも、会社の内部的のことではなくなり、白日の下にさらされる。

 組織を強く大きくすることが近代の方法論だとしたら、次の情報化社会は、一人ひとりの個人が自己権力を持ち、他の個人と、1対1の関係(P2P=Peer to Peer)を結びあうネットワーク社会になる。オンライン・コミュニケーションの場に、旧来のヒエラキーやマナーを持ち込むコンサルを信用してはいけない。オンラインの環境の中では、自然に、流れの中で、新しいマナーが生成されていくのである。

 私たちは、田舎から都市に出てきたように、リアルな社会から情報共同体の世界に進む。そこでは、上意下達の一方通行の意志で全体が動くのではなく、一人ひとりの意志が有機的に結合し、全体の意志を形成する、参加型社会になる。その未来の社会構造を、カプセルの中に閉じ込められたコロナ渦の人々は、体感しているのだと思う。コロナ渦で一時的に垣間見えた未来を、私たちは、次の時代の社会建設のコンセプトとして学ばなければならない。

 私たちの祖先は、かつては弱い猿であり、洞窟の中で凶暴な野獣の襲来に怯えて震えていた。明かりもない深夜の洞窟の奥で、家族は震えながら抱きついていた。洞窟の入り口で「ガサッ」と音がすると、自分たちを襲って食い殺す野獣がいるのではないかと、怯えた。それが人類の想像力のはじまりだという説があった。今、私たちは、家の外に出れば、不可知のウイルスに襲われて殺される不安の中で震えている。この不安の中でこそ、新しい時代への想像力が生まれるのだと思う。

 今は停止している宇宙船地球号。やがて、晴間が見え、太陽と青空が広がっていけば、人類の多大な経験と知恵の延長線上の、新しい方向に向かって進んでいくだろう。それを、推進するのは、もはや、特別な天才でも、権力者でもなく、現在の状況の中で、この時代の流れと向かい合った、一人ひとりの人間の意志と想いである。

 2020年のコロナウイスルは多くの人間を殺すだろうが、同時に、私たちの古い社会構造も破壊する。殺されるのは、近代社会の構造であり、その方法を先鋭化した戦後社会の構造である。今は、古い社会構造から切り離されて、とても寂しいけど、それは自分たちが強くなるための大事な時間だ。いつか、地球を温める太陽の下で、あなたと一緒に、新しい社会の設計図を議論したい。

 やがてコロナ渦が過ぎて、復興の時代が開始されるだろう。元のように戻す必要のあるものと、荒廃した大地の上にこれまでとは違った新しいシステムを建設しなければならないテーマもあるだろう。いずれにしても大切なことは、多くの人々が、それぞれの役割を与えられて生活の糧を得ることである。新しい産業構造と、新しい職業を開発する必要があると思っている。

 新型コロナウスルスの世界的感染という状況があってもなくても推進しなければならない未来への人類の意志というものがあった。私はそれを「参加型社会の創設」という具体的なテーマにして、若い時から一筋に追求してきたつもりだ。コロナ渦において、その動きが促進されるのかも知れないし、もしかしたら、再び権力の一極集中の魅力に人々が揺り戻されるのかも知れない。そうした混迷のプロセスも含めて、私は、一人ひとりが自発性を持って生きながら、他者と有機的に交流していく、参加型社会の像を描きながら生きていくしかない。

 コロナウイルスは、有名無名の差なく無差別の絨毯爆撃のように世界中の人たちを襲った。世界の多くの犠牲者の皆様の霊の安寧を祈りつつ、生き延びた者は生き延びた喜びと責任を感じて、生きていこうと思う。


 本書は、新しい情報共同体を一緒に建設する、あなたへの企画提案書であり、ラブレターである。


                2020年4月 東京 橘川幸夫

*一般的には「コロナ禍」と表記するが、私は、最初から「コロナ渦」と書いていた。コロナウイルスによる、人類の新しい「渦」の創出だと思ったからである。渦中にいる人たちの無事を祈りつつ、今後も「コロナ渦」と表記することにする。

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