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(連載1)僕が、クラウドファンディング出版を始めた理由。


クラウドファンディングを使って、新刊を発行することにした。

橘川幸夫の新刊「企画書ver2020」(仮)プロジェクト


1.出版界の現状

 僕は1981年に単行本を出して以来、たくさんの本を出してきた。自分で書いた本も多いし、企画・編集した本も多い。自分の著作は、たくさん売れる本はない。それでも、出版社に声をかけられたり、こちらから相談したりして、本を出してきた。81年にはじめて出した「企画書」は初版が1万部だった。当時は、8000部ぐらいが普通だったと思う。今は、4000部からのスタートだ。

 印税は印刷部数の10%だから、1000円の本であれば、1万部で100万円である。4000部だと40万円。新規に1冊の書き下ろしを書くには、僕の場合、4年はかかる。なので、印税だけで食べていくことは出来ない。

 逆に言うと、10万部なら、1000万円なので、多作が出来て、10万部作家であれば充分に食っていけると思う。1000部の本を書くのも、10万部の本を書くのも、執筆行為という労働作業は同じものなのに、報酬は、全く違ってくる世界である。

 取次を通して販売される新刊書籍は、現在でも、年間70000冊ぐらいあるから、毎日130冊ぐらいの新刊が作られていることになる。これほど多品種の商品を生産する業界は他にはなく、それがまた書籍の魅力でもある。しかし、この商品のうち、どれだけ著者が満足する対価を得ているだろうか。

戦後の雑誌と書籍の発行点数をグラフ化してみる(「出版年鑑」など編)

 昨今の出版界の構造不況によって、初版部数の削減と、印税率の低下の勢いが激しい。新人であれば、印税は10%から8%へのカットを要求されるだろうし、印刷部数ではなく実売部数になったりする。再版が決まって喜んだら、再版も実売部数だという。再版というのは、初版が完全に売れたから再版するのではなく、市場在庫が残っていても、書店から注文があった場合の出版社側にストックがなければならないので、行う。再版部数が実売になると、初版の返品が帰って来るので、計算する時の実売数は、数量的にはものすごく少なくなってしまう。

 出版社もコストカットで、懸命に延命策を講じているのだろうが、これでは出版社に依存してるわけにはいかなくなる。雑誌の方も原稿だけで食べてるライターは、原稿料の切り下げと経費が認められなくなって大変みたいだ。ベストセラー作家ではない、専門書や学術書の著者たちは、最初から印税を期待していない。学者としての評価のために本を出してもらえれば満足という状況になっている。出版業界は、もうビジネス(生きるための生業)ではなくなっている。

2.僕の本

 さて、売れない物書きである僕は、それでも、これだけ出してきた。考えるのが好きで、文章を書くのが好きだから、結果的に本を出したくなる。そういう僕のような著者に機会を与えてくれた出版界には感謝している。また、持続的に読んでくれている読者にも、感謝しかない。

『企画書』 宝島社、1980年。 ISBN 978-4944098163
『メディアが何をしたか?』ロッキング・オン、1984年。 ISBN 978-4947599094
『なぞのヘソ島』アリス館、1988年。ISBN 978-4752060017
『一応族の反乱』日本経済新聞社、1990年。ISBN 978-4532096069
『創業夢宿-Remix』たま出版、1993年。ISBN 978-4884812997
『生意気の構造』日本経済新聞社、1994年。ISBN 978-4532161088
『シフトマーケティング』ビジネス社、1995年。ISBN 978-4828405742
『21世紀企画書』晶文社、2000年。ISBN 978-4794964342
『インターネットは儲からない!』日経BP社、2001年。ISBN 978-4822242350
『暇つぶしの時代』平凡社、2003年。ISBN 978-4582831672
『やきそばパンの逆襲』河出書房新社 2004。ISBN 978-4309016276  『風のアジテーション』角川書店 2004。ISBN 978-4048735506    『自分探偵社』メタブレーン、2004年。ISBN 978-4902950007
『深呼吸宣言3』オンブック、2006年。ISBN 978-4902950342
『微力の力 おバカな21世紀、精神のサバイバル』エンターブレイン、2007年。ISBN 978-4757737563
『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。 』バジリコ、2008年。ISBN 978-4862380845
『ホントに欲しいものを、言ってみな!深呼吸和歌集』 日販アイ・ピー・エス、2009年。ISBN 978-4930774361
『希望の仕事術』バジリコ、2009年。バジリコ、2009年。ISBN 978-4862381576
『万年野党宣言』Amazon Services International, Inc.、2013年。
『Dearモンスター時代 ~橘川幸夫のほんと探し~』ソニー・デジタルエンタテインメント・サービス、2013年。[13]
『森を見る力』晶文社、2014年。ISBN 978-4794968388
『ロッキング・オンの時代』晶文社、2016年。ISBN 978-4794969408

3.本を出すための業務分担

書籍を出版するためには、以下の業務が必要である。

1.著者(執筆者)
2.編集者
3.装丁者(デザイナー)
4.DTPオペレーター
5.資本家(出版経営者)
6.印刷関係者
7.取次関係者
8.書店関係者

 まず「著者」は代替が、きかない。書籍は、まず著者の書きたい欲求、多くの人に伝えたい意欲がなければスタートしない。

 編集者もまた不可欠である。編集者は、著者の最初の読者であり、著者に対して読者の視点で注文をつける役割である。著者というのは、おうおうにして、自分の言いたい欲求が強すぎて文章が暴走しがちである。それを、なだめて、より読者のところに伝わりやすくコントロールする仕事が編集である。もちろん、誤字や勘違いを指摘し、著者の作った構成案を再編成することもある。

 ただ、僕は僕自身が編集者である。編集者能力のある著者にとっては、出版社の編集者は、誤字誤植を指摘してくれる校正屋になってしまう。昔は、編集者というのは著者よりも博識で、何でも相談出来る親分肌の人がたくさんいた。しかし、どんどん小粒になって、単なる進行係になってきたとはよく言われていることだが、それは、違う味方をすれば、著者の側が編集者能力を身につけたり、セルフプロデュースに長けた人が増えたからではないか。

 次に、デザイナーだが、DTP(デスクトップパブリッシング)になってからは、装丁家がDTPまでやることが多い。DTP以前は、僕がやっていた写植屋という業種が、印刷のための版下作りをやっていたので、デザイナーと版下作りは別の業務であったが、パソコン上でデザインするようになって、版下もDTPソフトでやるようになる。

 装丁というのは、これはまた著者とは違う、一つの独立した表現活動である。自分で本を出すと、普通はデザイナーとのパイプはないだろうから、適当になってしまう。出版社には長年の蓄積で、さまざまなタイプのデザイナーとの関係があるので、著作の内容に合わせたマッチングをしてくれる。装丁家の選定も、編集者の大事な作業である。

 1984年に僕は古巣のロッキング・オンから「メディアが何をしたか?」という単行本を出した。広瀬くんが編集してくれて、装丁は平野甲賀さんに頼んでくれた。きちんと内容を読み込んでくれて、平野流のタイポグラフィーのプロの装丁の技を見せてもらった。

 2001年に日経BPから出した「インターネットは儲からない」という書籍の装丁は、編集の黒澤さんに頼んで、僕の友人の小泉吉宏くんにお願いした。彼は、可愛い熊さんがマウスを操作しているような表紙の絵を描いたが、表紙の折を広げると、これがマウスではなく、空気入れてカエルをはねさせる玩具が描かれている。気がつかない人も多いと思うので、持ってる人は、表紙を広げて欲しい。更に、カバーをとると、本文の表紙は、巨大な怪物が都市を蹂躙しているような絵がかかれている。小泉くんは、僕のインターネット観を読んで、表面的な可愛さの裏側に、既存の都市を暴力的に地上げするような大きな意志を感じたのかも知れない。ちなみに「インターネットは儲からない」というタイトルは、単に、インターネットバブルに陶酔していた当時の日経BPの読者を揶揄するもりではなく「インターネットは近代のビジネスを超えるのだ」という意味です。

 2010年に出したバジリコの「希望の仕事術」は、編集の安藤くんが、寄藤文平さんに装丁を頼んでくれた。当代一流のクリエイターである。もともとこの本は、バジリコの長迫社長が橘川の深呼吸する言葉を認めてくれて、2008年に「ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。」という本にまとめてくれた。売れるつもりで出したのだが(笑)あまり売れなかった。それではということで、深呼吸する言葉の中から、仕事に関することを集めて解説をつけた本が「希望の仕事術」である。寄藤さんは、一読して「これは聖書だ」というコンセプトで、真っ白な本に装丁してくれた。本物の聖書はバイブル・ブラックであるが、それとは真逆の。更に、本文の中に何も書かれていないレインボーカラーの用紙を文章の合間にはさみこんでくれた。印刷コストもかかるだろうし、通常、真っ白な本というのは、書店の店頭に並べると立ち読み客の指紋がつきやすいので、避けられる傾向にあるが、本のコンセプトを正確にイメージして、作ってくれた。今では僕にとっても大事な本である。安藤くんと寄藤さんに感謝である。「希望の仕事術」も売れなかったがw

 このように装丁という仕事は、それだけで一つのクリエイティブな作業なので、単にインデザでチラシを作るというのとは違う。しかし、これも、僕は編集者だし、デザイナーの友人も多い。むしろ完成した人よりも、勉強中の若いデザイナーに装丁の体験をさせたい気持ちがある。

連載2に続く


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