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『シン・仮面ライダー』のパターナリズムと「自己責任」論などを扱う


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注意


 PG12指定の映画『シン・仮面ライダー』及び漫画版『真の安らぎはこの世になく』の重要な展開を扱います。

はじめに

 幾つかの情報をまとめているうちに、今回は『シン・仮面ライダー』に絞り話したくなりました。

漫画版のパターナリズムと「自己責任」論の両立

 『シン・仮面ライダー』の秘密組織のショッカーに属する緑川弘について、自分達「大人の落ち度」で流出したナノロボットで暴走した動物に、自分の組織に属する保育園のひろみ達が襲われたときに、ひろみが不用意に戦い負傷し、事情を知らない保育園関係者などにより騒ぎが大きくなったときの言動が、パターナリズムと「自己責任」論の参考になると私は考えました。
 緑川弘は、ひろみに「保育園に行かなくて良いからしばらくこちらの施設にいなさい」と止めています。本当に心配していたようです。
 これは、善意で自由を奪うパターナリズムがありますが、もう少し冷たい人間ならば、「お前が勝手に行動して負傷したのも原因の一部なのだから、隠れるぐらいは我慢しろ」と、「困っているのをその本人の行動のせいにする」「自己責任」論と結合してもおかしくありませんでした。

2024年1月31日閲覧

本編のパターナリズムと「自己責任」論

 そのようなパターナリズムと「自己責任」論の結合は、よく考えますと、『シン・仮面ライダー』本編にもありました。
 元々事情を知らない一般人の本郷を、緑川弘が、ショッカーを裏切り立ち向かうための「手伝いをしてほしい」と、異形の姿で人を簡単に殺せるバッタオーグに「アップグレード」しました。
 それも事後承諾であり、謝罪もせずに命を落としました。
 緑川弘は、「最高傑作」、「アップグレード」、「超人」など、言葉の端々に、自分の研究を良いものだと思っている主観がみられ、一般基準では単なる異形の人体操作だという視点が足りないようです。少なくとも人工的な娘のルリ子には、「バッタもどきにした」と死後に批判されています。
 しかし緑川弘は、「君が強い力を望んだからだ」と本郷に説明もしていました。
 かつて本郷の父親が警察官として、犯罪者を撃たずに説得しようとして命を落としたことの「絶望」から、本郷が強い力を望んでいると解釈したようです。
 しかし、犯罪者を殺さずに止められる力がほしいという問題のはずが、逆に操られるだけの罪のないはずの人間すら簡単に殺すバッタオーグの能力を一方的に与えており、本郷が動揺するのも当然です。緑川弘は、明らかに力の与え方がずれています。
 「力を望んでいるから与えた方が良い」という、「それが本人のため」というパターナリズムと、「君が望んだのだろう」という「自己責任」論に近いものがみられます。
 ルリ子は「ヒーロー」という表現をしていますが、ヒーローにこのような、本人の選択に基づき危険な能力を与える物語もあるでしょう。
 しかし、本人の願望が曖昧な場合、望む利益とそれに伴う損害を与えるのを正当化する「自己責任」論と、望まない利益まで与えて迷惑に思われるパターナリズムは両立しそうです。

 さらに、ルリ子の兄のイチローは、全人類の「魂」に当たるプラーナというエネルギーを奪い取り、「嘘のつけない世界」に連れて行こうとしました。
 しかし、それを止めようとするルリ子もかつてはそれを望んでいたらしく、イチローはそれを指摘し、ルリ子は「あの頃の私は世界を知らなかった」と返しています。
 「俺は俺なりのやり方で人類を救う」と主張するイチローの行いも、「嘘をつけずに理解し合える方が全人類のためだ」という少数派のパターナリズムと、そのかつての賛同者に「お前は望んでいたことだろう」とその責任を問う「自己責任」論が、ある程度両立しています。

 こうして、緑川弘から本郷へ、イチローからルリ子へ、「お前のためだ」というパターナリズムと「お前が望んでいたことだ」という「自己責任」論の両者が向けられています。

本郷の「望んだ力」と敵

 ちなみに、皮肉なことに、本郷が逆らう人間を殺さずに止めたいならば、本郷が戦ったコウモリオーグとハチオーグは、人間を操る能力を持つので、かなえられる可能性がありました。
 クモオーグなども、自分の意思による操作かはともかく戦闘員を従わせてはいます。
 コウモリオーグのヴィルースはともかく、ハチオーグが人間を操るときは、機械が破壊されたときに一般市民に後遺症などはなかったようなので、特に医学的な害を与えずに一時的に動きを止められるようです。犯罪者を取り押さえるには効果的かもしれません。
 サソリオーグの能力を利用してハチオーグを倒した政府関係者は、やがてハチオーグの能力で、逆らう人間を操り止めるかもしれません。

政府や公安の「力」

 なお、ショッカー対策として、政府はアンチショッカー同盟を作るものの、通信などは全てショッカーに傍受されるので、ルリ子達からの連絡は「手を挙げるだけで良い」とのことでした。
 どのように観察するのかよく分からないところもありました。手を挙げるのに反応する発信機でも仕込んでいたのか、それならば通信をそれこそ傍受されてしまうと考えました。
 ハチオーグに操られる人間に追い詰められたときに本郷が手を挙げて、双眼鏡で見ているらしい人間が反応したものの、その距離にいるならばハチオーグに操られてしまうのではないか、とも危惧しました。
 ハチオーグの「洗脳」から逃れられるのは、プラーナを制御出来るショッカー関係者だけだそうです。
 仮にハチオーグの「洗脳」が、その対象の記憶ごと利用出来るとすれば、最悪の場合は、アンチショッカー同盟の情報が、その構成員がハチオーグに捕まるだけで知られる可能性もありました。
 すると、既に政府や公安は、ハチオーグ対策として、プラーナを研究していたのかもしれません。最後に本郷とルリ子のプラーナを管理しただけでなく、そもそも「手を挙げるだけで良い」という監視にもプラーナの技術があるかもしれません。

一文字とひろみ

 また、『シン・仮面ライダー』漫画版では、一文字隼人の父親らしい記者を、のちにハチオーグとなるひろみが口封じに攻撃する可能性があり、それが一文字の「絶望」なのかもしれません。

オーグメントの「少し考えれば分かること」

 『シン・仮面ライダー』で、ルリ子は緑川弘の研究について、「周りの生命エネルギーであるプラーナを吸収する装備を人間が付けても結局は奪い合いになる」と否定し、「少し考えれば絶望だと分かることなのに、理想しか持たない馬鹿」と表現しています。
 そう考えますと、『シン・仮面ライダー』の敵のオーグメントは、「少数の幸福」が目的であるため、その「少数」同士で争ってもおかしくないほど行動が噛み合わないところもみられました。

2024年1月31日閲覧

 さらに、「考えの足りない」と言えるところが幾つかあります。
 クモオーグは空中戦に持ち込まれて敗北しています。
 コウモリオーグはライバルのようにみなしていたらしい緑川弘の研究を深く調べなかったために自分のヴィルースの攻撃が効かずに負けています。
 サソリオーグも、相手の物量に負けてもおかしくない状況を理解していたか曖昧なまま敗北しました。
 ハチオーグも、やはり空中からの攻撃で妨害され、本郷と戦うときに無関係な人間を操って盾にすることも出来たのをあえてせず、「対等な条件」で戦うことにこだわっていました。
 K.Kオーグは、裏切ったルリ子や本郷を狙うにもかかわらず、何故か「仮面ライダー」という本郷の名乗りを知らなかったらしく、新しい「仮面ライダー」の一文字に、よほど立腹したのか、透明化を使わずに挑んで一撃も与えられずに負けました。
 チョウオーグは他のオーグメントの幸福を奪う自覚があり、だからこそ「俺は俺なりのやり方で人類を救う」と言ったのでしょうが、他のオーグメントはチョウオーグに協力している場合ではなかったとも言えます。
 こうしてみますと、オーグメントは「少し考えれば分かることに気付かない」とも言えます。

まとめ

 今回は『シン・仮面ライダー』でまとまりました。


参考にした物語


特撮映画

石ノ森章太郎(原作),庵野秀明(監督・脚本),2023,『シン・仮面ライダー』,東映

漫画

山田胡瓜,藤村緋二,石ノ森章太郎,庵野秀明,八手三郎,2023-,『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』,集英社


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