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俘囚の長である安倍貞任と盟友の藤原経清の士気は高く、彼らの軍才は陸奥国守の源頼義と義家…
五位以上の位階を持つ貴族の邸は打ち破ってはならない。 検非違使が鉾と弓矢で武装した下…
仁木緒もまた、泥蓮尼、千歳丸と多紀満老人と共に歩き出した。 風が木の枝を揺らしている…
都の入り口である羅生門で、仁木緒はいつもの退紅色の狩衣に袴、藁沓といった看督長のいでた…
泥蓮尼が住まう小さな尼寺にも足を運んだが、もぬけの殻だった。仁木緒は逆上した。 ………
「恐ろしい光景を思い出させてすまないが、詳しく聞かせてくれ」 「……はあ、伎楽殿ではすで…
「稲若。なぜ、お前がここにいる」 退紅色の狩衣についた汚れを払い落としながら、仁木緒は稲若に問いかけた。稲若は悪びれない。 「ゆずかを探しに、ここへ来ていたんだよ」 「そ、そうか……」 すぐ泥蓮尼にも厳しい視線を向けた。 「あなたにも、聞きたいことがあります。稲若とは顔見知りですか」 能原門継との関りを真っ先に確かめるつもりだったが、とっさに口を突いて出たのはそんな質問だった。錦行連の言葉から、お互い見知っていることもたったいま知ったばかりだ。落ち着いているつもりが、か
そのまま真っすぐ千歳丸の住まいまで行ってもよかった。だが、仁木緒は荒彦が女を殺めて火を…
翌朝。 「舞姫さゆりの『笛吹童子』を演じていたという、ゆずかを検非違使庁へ連れて参れ」 …
稲若を自宅へ連れ帰ることにした。 朽ちた築地塀が崩れかけている路地が切れると、夕闇が…
尉の藤原有綱に従って、手燭を片手に仁木緒は暗い獄舎内へ進んだ。少し後ろを紀成房が重い足…
「官舎がある皇嘉門内から陽明門外の検非違使庁へご足労とは、よほどのことでありましょうな。…
石見丸の遺骸は獄舎裏の物置小屋に運び入れてある。雨じみの浮いた板戸を開き、稲若と共にそ…
薄暗い獄舎に近づくにつれ、すえた異臭が強くなった。男たちの罵声とうなり声、ケンカ腰に言い争う気配が耳朶をゆらす。 同僚の看督長・橘貞麿と放免三人がいた。格子がはまった集団房の前で鉾を構えているが、突入の間合いをはかって佇立しているばかりだった。同じ房内では多くの囚人たちがたむろしていたが、当然ながら誰も能原門継のそばに寄ろうとはしない。 「荒彦、まずはその子どもを放せ。このような狼藉をして仏罰が恐ろしくはないのか? 石見丸の傷を診なくてはならぬ。怪我だけなら罪は軽かろう」