ページを無くすと”読む”はどうなる?|Apple Vision Proと出版物の未来【後編】
こんにちは、MESONの山本です。MESONは空間コンピューティング技術を活用して、人々のまなざしを拡張するプロダクト開発をさまざまな企業様と取り組んでいます。
今回は「Apple Vision Proと出版物の未来【後編】」として「日経空間版」と「U-NEXT」のvisionOSアプリの体験を通じて、空間コンピューティングによって「読む体験はどう変わるか?」について考察します。
前編の記事では、MESONメンバーが制作した理想の電子書籍プロトタイプについて深掘りしました。ぜひこちらも併せてご一読ください。
📝 一緒に分析してくれる人
今回はMESONデザイン顧問の宇野さんと一緒に分析を行なっていきます!
宇野 雄 / Yu Uno
事例①:日経空間版
(山本)
まずは日経空間版について見ていきます。「Paperium (ペーパーリウム)」と「StoryFlow (ストーリーフロー)」という主な2つの機能があり、今回は「Paperium」に焦点を当てられればと思います。
Paperium - 新聞の全てのページを空間に浮かべる機能
新聞としての価値:情報が有限であること
(宇野さん)
実際に体験してみると、スマホアプリで紙面ビューアーを作った人たちが本当にやりたかったことが実現されている感じがして、とても面白いですね。
よく考えると、新聞のデザインってめちゃくちゃ手間がかかってますよね。レイアウトの割合やコンテンツの大きさ自体が情報の一部にもなっている。
ネットニュースは均一な文字サイズで表示されるため、新聞と比べて重要な情報が入ってきづらいと感じます。新聞は全体を引きで見ても、何が重要かが一目でわかるのはすごいことだと思います。
逆に新聞のメリハリのあるレイアウトは、ページの制約があるからこそ成り立っていると言えるのかなと。
Kindleではリフロー型の電子書籍は文字サイズを変えられるため、ページの概念が薄れています。でも新聞には残った。むしろ新聞のレイアウトはページの有限性によるものではないかと思います。
情報のヒエラルキーのフラット化
(山本)
有限性は重要な観点ですよね。枠に限りがあるからこそ、載っているニュースの厳選感が高まると思います。一面を見るだけで「今日を掴める感覚」を得られて、この紙面さえ一通り読んでおけば世の中の出来事を把握できる感覚を持てるのは新聞らしい価値ですよね。
また、新聞のページレイアウトや、紙面としての構成は、ある意味で情報のヒエラルキーを規定していると言えるのではないでしょうか。
「Paperium (ペーパーリウム)」のUIでは、一面にあたるページが右上にあり、視野全体では比較的目に入りづらい場所にあります。これはリアルな紙面に存在した情報のヒエラルキーがフラット化しているとも解釈できます。
(宇野さん)
確かに、スマホアプリでは一面のような存在はどうなっていたのでしょうかね?とはいえ、レコメンドされた情報を摂取すれば良いと考える傾向が強まっていますし、そもそも世の中全体を知ろうとする動機が社会的に薄れているのではという気もしています。
逆に、「これを知っておけば大丈夫」と思わせるような権威性を持っているメディアは新聞くらいしか残っていない状況なのかもしれませんね。
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事例②:U-NEXT
(山本)
では次にU-NEXTのイマーシブブックリーダー機能を見ていきましょう。
イマーシブブックリーダー - 視界いっぱいに広がる没入型読書空間
イマーシブな読書では、本という概念が無くなる?
ページの境界が取り払われ、視界いっぱいに広がる作品に包まれるような没入型の読書体験が実現されていました。体験イメージの詳細については、こちらのレビュー記事がとても参考になります。
イマーシブブックリーダーでの読書体験が当たり前になると、装丁が無くなっても良いのではと感じました。そして、それはすなわち本というパッケージが重要でなくなる可能性があるではないか、という仮説につながります。
(宇野さん)
それがまさに「Webtoon(ウェブトゥーン)」なのではないでしょうか。Webtoonがうまく作っているのは、画面の制約を活用してネタバレを防いだりしているところです。
すべてが横に繋がると、例えば重要なシーンの前では真っ暗なページを挟むようなことが重要になるかもしれない。紙面では考えられない表現ですが、スクロール形式のコンテンツに挿入しても違和感はありません。
そうなってくると、もはや字幕付きの映画を見ている感覚に近いかもしれないですね。紙媒体もより映像的な体験に近づいていくのだと思います。
空間においてもページというチャンクが重要
(宇野さん)
とはいえ、例えばもしWebtoonの漫画全100話がすべて繋がっているような作品があった場合、絶対読みきれない自信があります。最初から丸1冊を読みきるつもりの場合は良いですが、ちょうどいい区切りがないと心理的な疲れに繋がってしまうと思います。
ページの存在意義は、強制的な区切りを生むことにあります。昔電子書籍ビューワーで全ページが繋がってるものを利用したことがありますが、最後まで読み切れませんでした。Web上のライトノベルなども、あまりスクロールさせすぎないよう1話のボリュームは非常に短くできていることが多いです。
(山本)
一巻単位、一話単位、一ページ単位がチャンク(意味的な塊)になっていて認知負荷を下げているのですね。それが自分の意思でいつでも読書をやめられるという任意性にも繋がっているかもしれません。
(宇野さん)
今回のイマーシブブックリーダー機能では漫画を読んでみましたが、漫画は1話単位だからか、そんなに長さは感じませんでした。
紙面の制約がなくなっても、チャンクという考え方は必要なはずです。制限が全くなければ読む体験として良いものにならないため、ページの境界が取り払われたとしても、新たなチャンクとなる単位が再発明されるのではないでしょうか。
そもそも人は滑らかに見ることが苦手です。読み方は人それぞれではありますが、我々には基本的にパラグラフ単位で読む習性があります。どこまで行ってもその最小単位は残るのではないでしょうか。日本語でいうと「段落」という発明があります。メディアが変わっても、残り続けるメンタルモデルは存在するのだろうと思っています。
コンテンツの作り方も変わるかもしれませんね。言うなれば、ページの長さや表示サイズに新たな制約が生まれ、それが逆に創作の幅を広げることにも繋がりうるのだと思います。
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出版の未来として
(山本)
ここまでページという概念の変化を巡って、読む体験はどう変わる?ということについて考えてきました。
メディア事業者やIPホルダーが空間コンピューティング市場に参入する際、コンテンツとメディアフォーマットの整合性が重要だと思っています。特に出版や書籍の領域において、今回の分析が何かの参考になれば良いなと思っています。
(宇野さん)
無限にコンテンツを作れる場ではなく、あえて制約を設けることで、visionOSという新しいエコシステムの中で全員が活用できる形が生まれていくのではないでしょうか。また、従来の本で実現できなかったことや、新たな市場を活用できるノウハウをこれから進出を検討する方々に伝えることができれば良いですね。
これからもコンテンツの見せ方について、空間コンピューティングでのデファクトスタンダードを考えていきましょう!
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✏️ さいごに
今回のUX分析企画では、前後編にわたって「Apple Vision Proと出版物の未来」について考えました。
今回の記事にご興味を持っていただいた企業の新規事業やR&D担当者の皆様、ぜひVision Proのアプリを実際に体験してみませんか?ご紹介したサービスのほかにも国内外の最新アプリをご用意してお待ちしております!
MESONについて
MESONでは、企業の皆さまとApple Vision Pro向けアプリ開発を積極的に進めています。
❏ Niantic様とのPeridotコラボ
❏ 伊藤忠商事様とのApple Vision Proの常設展示コンテンツ制作
❏ 東京ガス様との3Dモデルビューワーアプリ開発
上記の取り組み以外にもいくつかの企業様とはApple Vision Pro向けアプリの開発を進めており、今後開発したアプリを発表予定です。
ぜひApple Vision Proを活用したアプリ開発に取り組んでみたいという方は以下のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
MESONについてもっと知りたい方はぜひ以下の公式ホームページを御覧ください!