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『私は私のままで生きることにした』の人気の秘密とは? 日本の女の子が韓国エッセイを読む理由

最近、MERY世代女子たちの間で、韓国のエッセイ本が話題となっていることをご存じだろうか。Instagramで「#韓国エッセイ」「#韓国本」などのハッシュタグを検索すると、それぞれ1000件を超える投稿がヒットするのがその証拠だ。ではなぜ今、韓国エッセイがこんなにも人気を集めているのか。MERYの読者である20代の女子たちにインタビューを行いながら、その背景を探る。

2020年トレンドワード5選にも選ばれた「韓国のエッセイ本」


MERYは先日、MERY内で人気の検索ワードや記事、ユーザーの意見などをもとに厳選した「2020年トレンドワード5選」を発表しました。

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「インフルエンサー系コスメ」や「ネオ居酒屋」など、SNSを発端としたトレンドワードも並ぶなか、今回MERYが注目したのは「韓国のエッセイ本」というワード。MERY Lab内の記事『なぜU25の女の子たちは「韓国カルチャー」にハマるのか』でも取り上げたように、日本の若者たちの間では、依然として韓国アイドルや韓国ドラマが大ブームですが、それに加えて「韓国発の本」もトレンドとなっているようなのです。

実はMERYでは、『わたしこのままでいいのかな?タイミング別、今のわたしに5冊の韓国books処方箋』『私、何がしたいんだろう…。自分を見失った時、読んでほしい韓国のbook4冊』といった記事でも紹介していたように、2019年ころから「韓国発の本」に注目していました。

しかし、本格的なブームの到来を感じたのは2020年に入ってから。2020年に『スマホばかりの毎日に革命が起きる。今話題の“韓国エッセイ本”で読書を趣味にしよう』『人生の処方箋になる、韓国の素敵な本たち。お隣の国の物語を少し覗いてみませんか?』といった記事を公開したところ、例年以上に多くの反響が得られています。

ではなぜ、エッセイや小説といった文芸書の売れ行きが苦しいとも言われている現代において、こんなにも“韓国の”エッセイ本が注目を集めているのでしょうか。

韓国のアイドルやドラマから人気に火がついた韓国エッセイ本

ここからは、韓国のエッセイ本が日本でも人気を得たきっかけを見ていきます。

たとえば、『私は私のままで生きることにした』は、誰のまねもせず、誰もうらやまず、自分を愛することの大切さを伝えたイラストエッセイ集。今や世界的大スターであるBTSが出演していた番組内で、メンバーのジョングクさんの部屋に置かれている本書が映りこんでいたことから、ファンを中心にSNS上で大きな注目を集めていました。2019年に日本でも邦訳本が発売されると、「日本語版を待っていた」という声も多く、40万部を超えるベストセラーとなっています。

同じく、BTSの影響を大きく受けているのが『死にたいけどトッポッキは食べたい』。これは、気分変調症と不安障害に悩んできた著者が、精神科医とのカウンセリングを通し、自分自身を見つめ直した12週間についてつづられたエッセイです。韓国でベストセラーとなり、今年1月には日本でも邦訳本が発売されています。こちらも、BTS出演の番組内で、メンバーRMさんの部屋のベッド上に置かれている本書が映りこんでいたため、以前から日本のファンの間でも話題になっており、発売から半年で6万部を超える大ヒットとなっています。

韓国ドラマがきっかけで大きな注目を集めた本もあります。それが、全編を通して自己肯定の言葉が並べられた恋愛エッセイ『すべての瞬間が君だった―きらきら輝いていた僕たちの時間』。こちらは、日本でも大人気の韓国俳優パク・ソジュンさんが出演し、日本でも放映されたドラマ「キム秘書はいったい、なぜ?」で、キム秘書の愛読書として登場し話題に。ドラマで取り上げられた本書の言葉に心を打たれ、韓国版を購入していた人もいるようです。今年5月に邦訳本が発売されると、たちまち人気を博しています。

その他、東方神起のユンホさんの愛読書として知られていた『あやうく一生懸命生きるところだった』や、少女時代のスヨンさん、BTSのRMさん、Red Velvetのアイリーンさんなどがコメントし話題となった『82年生まれ、キム・ジヨン』なども日本でベストセラーになっています。

このように、MERY世代女子たちの間で韓国エッセイ本が話題になっているのには、そもそも日本で韓国アイドルやドラマがブームになっていることが大きく関係しているといえるでしょう。

韓国本、韓国エッセイが話題となっているホントの理由

しかし、好きなアイドルや俳優が読んでいるというだけでは、読むきっかけにはなったとしても、ここまでのムーブメントは起こらないのではないでしょうか。何か、もっと根本的な理由があるはずです。その理由を探るべく、MERY世代女子の代表として、MERYの読者3名に話を聞いてみました。

韓国ファッションやコスメ、アイドル、ドラマが好きだという社会人のRさん。SNSで話題になっていたことやBTSのジョングクさんが読んでいたことから、『私は私のままで生きることにした』に興味を持っており、実際に購入したといいます。

この本を購入した理由を聞いてみると、「仕事で悩んでいたこともあり、元気になりたくて買った」とRさん。同じく韓国のトレンドに興味があるという大学生のNさんも、「挫折した人が頑張らなくていいんだよという内容が心に響く」と話しています。

そもそも、今話題となっているエッセイに共通しているのは、「今のままの自分を肯定しよう」「頑張って生きなくてもいい」といったメッセージ。人と比べることはやめて、一度立ち止まり、ダメな自分も認めようといったような言葉が、ストレートにつづられているのです。

翻訳版の韓国エッセイ本

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「韓国エッセイが流行っているのは、MERYユーザー世代の自己肯定感が低いからでは? SNS疲れもあるかも」とRさんがいうように、SNSで誰かと比較することが日常のMERY世代女子たち。つい他人と比較してしまうことで、「あの子はあんなに素敵で幸せそうな生活を送っているのに、私はなぜ……」と、自分を卑下してしまいがちです。ところが、韓国のエッセイ本には、そんな辛い気持ちを代弁してくれるような、寄り添ってくれるような言葉が並んでいる。そして、その数々の言葉は、著者たちの実体験に基づいて書かれているからこそ、若者たちの心にも響くのではないでしょうか。

しかし、そうしたエッセイ本であれば、日本のものでも良いはずです。なぜ、韓国の本でなければならないのでしょうか。それにはこんな回答が。

●「表紙のデザインがおしゃれでインスタ映えする。人にもおすすめしやすい」(社会人Rさん)
●「本がおしゃれな装丁で、人に隠すことなく読める」(社会人Eさん)

他人と比較することに疲れた……頑張り続ける人生に疲れた……こういった悩みは、なかなか人には打ち明けにくいもの。本屋さんなどで、自己啓発本などを探していたり、電車などで読んでいるのを人に見られると、「あの人大丈夫かな?」「何か深刻な悩みがあるのかな?」などと、周りから心配されそうで、なんとなく隠したくなる方も多いのではないでしょうか。ましてや、SNSで発信したり、人にすすめるといったことはしないはずです。

しかし、韓国のエッセイ本は、イラストが可愛らしく、表紙にも優しいパステルカラーなどが使われていて、見た目がとにかくおしゃれ。深刻な感じではなく、手に取りやすい印象です。SNSでは、内容について紹介する投稿もさることながら、インテリアの一部、自分を彩る一部として紹介されているのです。

そういったSNSでの投稿を見て、おしゃれだと思い買ってみたら、実は心に響いたというパターンもあるのではないでしょうか。その人がまたSNSで投稿し、それを見たまた別の人が読んでSNSに投稿する……。このようにして、人気が加速していると考えられます。

また、情報網が発達したことで、「#MeeToo運動」をはじめとするジェンダーギャップの問題や、働き方改革など、若い世代でも社会的な問題に目が向くようになっていることも影響しているかもしれません。

韓国でベストセラー化し、日本でも映画が公開され大きな反響を呼んでいる小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が、その例といえそうです。

82年生まれ、キム・ジヨン

韓国エッセイ‗03

会社に入ったら女性社員は結婚・出産で辞めていくからと大きな仕事を任されない、出産を機に仕事を辞めざるを得ない、育児が落ち着いたので再就職したいと思ってもできない……本書で描かれているのは、そういった、女性が社会生活を送るうえで経験するであろう困難の数々。

本書に登場する女性たちのような体験を実際にしたことがある、もしくは、これからの人生で経験するかもしれない……MERY世代の女子たちはそんな辛さや不安を感じていて、誰かに打ち明けたいけれど、なかなかいいにくい。だからこそ、自分の想いを代弁してくれるような韓国エッセイ本を手に取り、その本の内容を引用しながら、自分の気持ちをSNSなどで発信しているのかもしれません。

こういった本に癒しを求め、そしてそれらが流行っているということは、「競争社会において他人と比較することに疲れている」、「社会が抱えている課題に不安を感じている」というMERY世代女子からのメッセージとも受け取れます。多様な生き方、頑張らなくてもいい生き方を肯定されることを若者たちは望んでいる。そういった若者たちの想いを、大人たちは真摯に受け止める必要があるのかもしれません。

本コラムはMERY LabがForbesJAPANに寄稿したものです。
https://forbesjapan.com/articles/detail/38874

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