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永久少年と妖怪姫 玉兎との激戰編

僕はメル、最近新しい仲間が増えて嬉しい不老不死の高校生だ。この前、サラの幼なじみのテンキが新しく友達になった。テンキは姫のサラとは少し違って、すごいボーイッシュな女の子。口調も男の子っぽくて目もキリッとしてるんだ。だけど、女の子っぽい面も多いけどね。そんな2人はいつも僕の事で喧嘩している。なんか、「メルの彼女はわたしだ!」ってずっと言い争ってるんだよね…僕はそんな事決めたことは無いんだけど…でも僕が口挟んでも聞かないんだよね…まあ、内容はともかく、喧嘩するほど仲がいいって言うしね…?

さて、そんなサラとテンキと一緒に今日は森に悪さをする霊たちの対処に来ていた。
「このっ!悪いことするんじゃない!」
テンキは2つの短剣を使いこなしていた。
1つは元々持っていた銀製のナイフ。もう1つは僕が妖怪の里にいる鍛治師に頼み込んで作ってもらった蝶柄のダガーナイフだ。
「メル!これすごく使い心地いい!ありがと!」
テンキも気に入っている様子で次々と霊を追い払っていた。
「テンキは両利きって言ってたから二刀でもつかえるかなって思ってさ。気に入ってくれたみたいで良かった。」
僕がそう返すと、
「…ねえ、メル。私が頼んだ杖は作ってくれてるの?」
サラがこんなことを言ってきた。
「もちろん頼んでるよ!ただ、杖は魔力を込めるのがとても大変な作業らしくてさ…あの鍛冶師さんでももう少し時間がかかるらしいんだよ。サラにはどうか謝っといて欲しいって言ってたから…もう少し待っててね?」
「ならいいわ。良かった。」
サラには申し訳ないなと思った。
サラと話していると霊をバタバタと退治してたテンキが、
「なあ、メル、サラ。こんな所に家なんてあったか?こんな森の奥に。」
と言ってきた。テンキの視線の先には、
「でっかい屋敷だなー…でも、こんなの見たことないぞ?」
サラの家とほぼほぼ同じくらいの大きさである屋敷が建っていた。
「この森に大屋敷があるのは知らなかったわ…」
「うん、僕も知らなかったよ。新しく住み着いた妖怪なのかな?」
「それは無いと思うわ。新しく来た場合は里のみんなに知らせなきゃダメだし。」
「うーん…じゃあ誰のなんだろう?」
「こんな時は長老に聞くのが一番ね。」
そうして霊退治を終えた僕らは長老に屋敷のことを話した。
「ふむ…あの森に屋敷とな?」
「ええ、そうなんです。一体誰の屋敷なのかと気になって…」
すると、思い当たる節があるのか書物を漁り始めた。
「わしの記憶が正しければじゃが…お、あった。
おそらくこいつじゃろう。」
そうして見せられた書には大きめの兎の絵が描かれていた。
「これは…兎…?」
「そうじゃ…いわゆる玉兎と言われる妖怪じゃの。」
「長老、玉兎ってなんだ?」
「玉兎とは、月に居たと考えられている兎の事じゃ。そいつもある種は妖怪に入るからの。」
「月って…あの月ですか?」
「そうじゃ、この妖怪の里に伝わる文献には、
『百の時を経て、月より舞い降り屋を立てる。その時里と対立する。』
と書かれておる…。」
「百の時を経て…?百年毎ってことか?」
「月より舞い降り屋を立てる…月の真下に屋敷を建てるってことかしら?」
「その時里と対立する…うーん、また何か一波乱ありそうな予感…」
「一波乱かは分からんが…最近里で妙なことが起きてるそうじゃ。」
「どうかしたの?」
「うむ、ここ数日で何匹と里の者が消えとるんじゃ。証言によると、この屋敷があるこの森に何かに取り憑かれたように消えていったそうなんじゃ。」
「なんだって…」
「加えて玉兎は狙った獲物は狂わせて地獄へ堕とすと言われておる。行くならくれぐれも気をつけるんじゃぞ。」
「長老、ありがとうございました。」
こうして僕らは長老の家を後にした。
「里のみんなが捕まってるなら助けないと…!」
「そうね、こんな事件を放って置く訳には行かないわ。」
「そうだそうだ!そんなのあたしがとっちめてやる!」
「そうだね、よし、行こうか。」
と僕が言ったその時、
「おーい!メル!お前らの武器が完成したぞい!」
鍛冶師さんが声をかけてくれた。
「ありがとう!早速見せてもらってもいい?」
「ああ、こいつだ、ほれ。」
そこにあったのはサラ用だろう、ピンク色に光る1本の杖が置かれていた。
「こいつは姫さまのだ。今ある杖よりも遥かに魔力を溜め込んでおる。姫さまがこの杖を扱えば、魔法の連射なんぞ、お手の物じゃ!」
「わあ!やった!ありがとう!」
サラは喜んでいるようだが、僕は首を傾げた。
「あれ?さっき『こいつら』って言いましたけど、僕の頼んだ刀が無いですよ?」
「心配するな。お前さんのは奥にある。ほれ、こいつだ。」
と言われて見せられた僕は、
「わぁぁ…」
思わず感嘆の声を出してしまった。
黒光りする刀、しかし黒光りの中にほんの少し赤味が混ざっている。そして刃先はものすごく研がれており、切れ味がすごいのが伝わってくる。
「そいつは炎月刀。今黒色だが、二段階あってな。二段階目はこうなる。」
鍛冶師が剣の持ち手の部分をグッと握ると、
シュゥゥゥン…!
「色が…入れ替わった?」
なんと黒と赤色が逆転したのだ。
「そうだ。赤色が多い時は炎の属性を追加してある。お前さんの持つ水竜刀とは真逆で相性が良さそうだ。」
「へえー…」
そう返しながら僕は刀を手に取った。
ずっしりと重くしかしどこか手に吸いつくような軽い心地がする。
「うん、僕に合いそうだ。ありがとうございます!」
「ああ、またよろしくな!」
こうして僕らは鍛冶師さんにお礼を言ってその場を後にした。

「さあ、武器も増えたことだし、兎を倒しに行きましょう!」
「一瞬で終わらせてやろう!」
「そうだね、これ以上里のみんなに危害を加えることは許さない…!」
僕達はさっき居た森まで戻り、屋敷の前まで辿り着いた。
「準備はいい…?」
「「オッケー!」」
頷いた僕達は静かに屋敷に侵入した。

「随分広そうね…まずは捕まってる里のみんなを助けましょう。」
とサラが言った次の瞬間、
「ガァァァァァ!」
なんと、凶暴化した里の民が襲いかかってきた!
「ふっ!」
僕がサラとテンキの前に立ち、
「少しだけ眠っててね…」
ドォン!
腹に拳を打ち込んで無力化した。
「ふぅ…この様子だとみんなこんな感じだろうね…多そうだし手分けしよう。テンキはこんな感じで皆んなを助けてあげて。」
「分かった!」
「僕とサラは玉兎を探す。オッケー?」
「ええ、分かったわ!」
「テンキは全員助けたらこっちに合流してくれ。」
「よし、やるぞ!」
そう言うとテンキは疾風のように走り去った。
「さあ、僕達も行こう!」
「ええ!」

テンキと別れて玉兎を探していると、
(ほう、私の屋敷に侵入するか。さてはお前、最近この里に来た人間だな…?)
頭の中に声が語りかけてきた。
「誰だ!?」
僕がそう叫ぶと、
(この屋敷の主、貴様らが探している玉兎だよ…。)
奴はそう返してくる。
「…!こっちだ!」
僕は声の方向を感じ取り、屋敷を駆け出した。
「ほう、声の気を感じたか…ただの人間では無さそうだな…」
そうして飛び込んだ大部屋の奥には書物で見た大きさより何倍も大きい兎が鎮座していた。
「お前が里のみんなを狂わせた元凶か?」
「ああ、そうだな。私がやった。これは定められた運命だからな。」
「運命ですって…?里の民を凶暴化させることが?」
「そうだ。狂気へ堕とすことが私たちがここに降りてきた意義なんだよ。」
「許せないっ…!あんたは死になさい…!」
そう言ってサラは魔法を放つ。
「そんな直線的な魔法、当たらんな。」
しかし、玉兎は軽々と避けてみせる。
「それなら次はこちらの番だな…!」
そして、とんでもないスピードでサラに突っ込んでくる!
「ぐっ!」
ガキィィィィン!
間一髪、なんとか間に割って入ったがかなり危なかった。
「ほう、我の一撃を受け止めてみせたか。面白い。私も全力で行かせてもらう!」
そう言った瞬間、玉兎はなんとさらに加速した!
「ぐうおっ!?」
ザクッ!
「メル!」
「大丈夫、かすり傷だよ…」
なんとか後ろに飛んで回避したが、玉兎の爪が俺の脇腹を浅く裂いた。
(クソが…めちゃ強いな…。)
「はあっ!」
「スピード、技術、どれも一級品だが、この私を倒すにはまだ足りんな!」
俺は連撃を繰り出すが、ことごとく弾かれてしまう。
「風よ、舞い踊れ!」
サラも魔法を放ってくるが、
「威力は高いがまだ直線的だな。」
すべて躱される。
(どうすればいいんだ…!?)

僕らが玉兎と戦っていた時、テンキは、
「おらおらおら!」
「甘い甘い!」
凶暴化した里の民を守る玉兎の手下と戦っていた。
「いい加減里のみんなを返しやがれ!」
「やなこった!お前こそさっさと手を引け!」
「あたしはメルに言われたんだ!みんなを助けてくれって!だからこんな所で負ける訳には行かないんだよ!」
「へっ!里の奴らが消えたって俺らには何の害もないんだよ!どうせこいつらは俺らの養分になるんだからな!」
その言葉を聞いた瞬間、
「何て言った……?」
テンキの空気が変わった。
「こいつらは俺らの養分にしかならないんだよ!ヒャヒャヒャ!」
それに気づかず、兎は醜いことを言い続ける。
「お前…地獄で後悔しとけよ…!」
次の瞬間、テンキは閃光のようなスピードで相手との距離を一瞬でゼロにした。
「な…はや…」
兎はそれしか言えず、動けていない。

「死んどけよ」

ザシュッ!
「ぐわぁぁぁぁ!」
一瞬で決着はつき、倒れた兎の死体だけがゴロゴロと転がっていた。
「みんなは、こんなあたしを受け入れてくれた…辛いこともあったけど、それは過去の話。それに天邪鬼のあたしを救ってくれたメルに言われちゃやらない訳にはいかないよ。」
そう言い残し、テンキは里のみんなを助け、その場を後にした。

一方その頃、
「どうした!私に着いてこれないのか!」
僕達は圧倒的なスピードとパワーを誇る玉兎に悪戦苦闘していた。
「はぁぁっ!」
防戦になりつつも放った一撃は
「甘い!」
全て簡単に避けられ、弾かれてしまう。
「大地よ、突き刺せ!」
サラが放った魔法も、
「生ぬるい!遅いわ!」
しっかりと見て避けられてしまう。
「くっそ…どうすればいいんだ…」
俺が手をこまねいていると、ふと鍛冶師の言葉を思い出した。
「そいつは今黒色だが、二段階あってな。」
そうだ!
俺は炎月刀をグッと握りしめ、
「炎月刀よ、我が力を持って解放せよ!」
言葉を紡いだ。すると、
シュィィィン!
機械音と同時に刀身が赤く光り始めた。
「まだまだ勝負は分からないぜ?」
俺は二本目の剣を握り直すと、玉兎に向かって突進した。
「馬鹿か…直線的な攻撃は通用しないと何度も言っておるのに…」
そう言って余裕綽々といった様子で弾こうとする玉兎。しかし、
「なにっ!?」
俺は瞬間的に加速し、
「もらったぁぁ!」
ザシュッ!
腹を切り裂いた!
「へっ、この刀は俺のスピードをさらに加速させてくれる!これまでのスピードとは比べ物にならねえな!」
「ふっ…確かに速いが直線的な動きではまだ避けやすいぞ!……なあっ!?」
「直線的だって?どこが?」
俺は水竜刀の力も加え、稲妻のように踏み込みを速くし、一瞬で距離をゼロに詰められる。しかも、
「桜の花よ、弾け飛べ!」
サラが新しく持ってきた杖はなんと、桜の花びらが爆発するという魔法だった。連射もできるため、大量の花びらが玉兎を覆い尽くす!
「むぐうっ!?」
どんどんダメージがでかくなっていき、俺とサラとの連携で玉兎はかなりの傷を負ったようだ。
「ふ…ふふふ…なかなか私を楽しませてくれるな…」
「その傷で言えることか?もう勝負はついてるんじゃねえの?」
「ふっ…お前らを倒すことだけが私の勝ちではないと言っておこう。」
すると奴から膨大な魔力が溢れ出し、
「はあっ!」
「ぐっ!?」
「キャッ!?」
なんと俺らの動きを封じやがった。そして、
「ははは…!この里ごとお前らも全て滅んでしまえ!」
「あれはっ…!」
自爆の呪文を唱え始めた!
「あなた、自分の命を犠牲にこの里を消すつもりなの!?」
「ああ、そうだ!私がここに来た理由はこの里を滅ぼすため!そのためなら私の命を犠牲にしても構わない!」
「くそっ!やめろ!」
止めようとしても体が取り憑かれたように動かない!
もうダメかと思ったその時、
「ここだぁぁぁぁぁ!」
なんと、一人が部屋を突き破り玉兎に向かって突進していく姿が見えた!
「なぁぁぁぁ!?」
玉兎はその突進をモロに食らい壁まで吹っ飛ばされて気絶した。
「「テンキ!!」」
「メル!ちゃんと里のみんな、助けたぞ!」
「ありがとう!テンキ!助かったよ!」
テンキのおかげで体も動くようになり、俺たちは気絶する玉兎のそばへ向かった。
「ふっ…私としたことがもう1人いることにも気づかんとはな…ぐふっ…だが、お前らのような強い相手と戦って死ぬなら本望かもしれんな…」
「ああ、そうかい。んじゃあ、眠ってくれ。」
シュッ
ザクッ!
こうして、僕達は無事に玉兎を倒すことが出来たのだった。

「それでさー、里のみんなを馬鹿にされたと思ったら急に自分のスピードが上がってさ、それであの兎やっつけれたんだよね。」
「きっと、テンキのみんなを守るって気持ちが現れたんだろうね。優しいな、テンキは。」
「えへへー!」
「ちょっと!そういう言い方すると私がみんなを大事にしてないみたいじゃない!」
「い、いや!そんなことは無いよ!?」
「ねぇねぇそんなことよりさ!メル!アイス買ってよアイス!」「ア、アイス?いいけど…」
「もちろん、私にもくれるわよね?」
「は、はい…」
「よし、決まり!じゃあ、買いに行くよー!」
「あ、テンキ!?分かったから引っ張らないでよ!」
「やれやれ…まだまだ子供ね…」
こうして僕達は元の平穏な暮らしに戻れたのだった。

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