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イマイ、めろに相談があるってよ

中学時代、同級生に幼なじみの男の子がいた。仮に彼の名をイマイとしておこう。イマイとは保育園からなので10年以上の付き合いだった。

付き合いといっても男女のそれではない。「それまではただの幼なじみだったのに、突然・・・」「今まで何とも思わなかったのに・・・何か今日のお前・・・」こんなものはファンタジーの世界であり、我々が生きているのは現実世界なのである。家が近所だったので、一緒に帰ることもしょっちゅうあったが、そんな雰囲気になったことは一瞬たりともなかった。

ウィーン少年合唱団の方ですか

イマイは中学校に入り、俗にいう不良になった。彼は良くも悪くもヤンチャな先輩から可愛がられるタイプで、母校の中でも不良生徒の巣窟であったサッカー部に入部したのが運のツキ。先輩に影響され、イマイはガラの悪さを習得していくのであった。

だがしかし。だがしかーし。こんなものは見せかけのハリボテ不良である。まず、イマイは背が低かった。そして声が異様に高かった。未だ声変わりしていなかったのである。「テメー何見てんだこのヤロー!」不良の登竜門的セリフであり、何度かイマイのこの手の類の叫びを聞いたが、私にはウィーン少年合唱団が歌っているとしか思えなかった。

猫が好き。ケーキが好き。花が好き。お姉さんの影響で、少女漫画を読んでいる。小2くらいまで、夜1人でトイレに行くのが怖くて、お母さんに付き添ってもらっていた。イマイを良く知る私にとっては、コント「悪ぶっているイマイくん」を鑑賞しているに過ぎなかったのだ。

めろがいるとバツが悪いイマイ氏

無理は長く続かない。最初はその見た目と言葉でイマイを怖がっていたクラスメートの女子たちにも、徐々に本性がバレ始める。「なんかさぁ~イマイくんってなにげかわいいよね~w」 即座にイマイの顔に、完熟トマト果汁がぶちまけられる。「うるせーこのブス!!ぶっ殺すぞ!!」本当はアリ1匹も殺せないイマイが、甲高い声で返す。

「女子にブスとか言うんじゃないよ(´めωめ`)」
「な、なんだよ・・・」

私がいる場所だと、イマイの威勢は分かりやすく衰える。全てを知っているめろに、イマイは逆らえないのだ。書きながら思い出したが、中2のバレンタインの日。後輩女子がイマイパイセンにチョコレートを渡しているところに、ばったり私が出くわしたこともあった。

「おーおーモテるねぇ(´めωめ`)」
「う・・・うっせーよ!///」
ソプラノボイスで分かりやすい反応を示すイマイ氏。

「嬉しいくせにw 素直に喜んどけばいいんよ」
「べ・・・べつに嬉しくなんかねーし!!こんなのいらねーし!!」
「人が気持ち込めてくれたものをいらないとか言うな(´めωめ`)」
「いや・・・スアセン」

このように、イマイはそこそこモテてはいたのだが、私以外の女子への適応力が抜群に低かったため、彼女的な存在はいなかった。私も他人のことをとやかく言える立場ではなかったが。

リエちゃんはファンタジーのような現実だった

マンガやアニメなら、イマイと私がこの後どうにかなっちゃいそうな展開もありだろうが、何度もいうようにこれは現実世界である。中3になり、イマイと良い感じになっている女子が現れた。これも仮名でリエちゃんとしておこう。

リエちゃんはソフトテニス部で成績優秀でリスのようにカワイかった。それこそ、マンガやアニメから飛び出してきた設定のような女子だった。とある席替えでイマイとリエちゃんは隣同士になった。良く教科書を忘れていた&なくしてたイマイは、リエちゃんに机を引っ付けてもらって教科書を見せてもらっていた。休み時間も楽し気に話している。私は彼らを左後方から(´≖◞౪◟`≖✧)な表情で眺めていた。

その後、イマイとリエちゃんがデートしたのではないかという非公式情報が私の耳に伝わってきた。しかし現場を押さえたものは誰もいない。「そうなってほしい」という願望が生んだ噂だろうという結論に達し、この話題は近所の川に流された。

イマイ、めろに相談があるってよ

ところが。ところがよ。その数日後。私の部活が終わって校門に向かうと、イマイがいた。私を待っていたらしい。「ちょっと聞きたいことがあって・・・」 帰り道で相談に乗ってほしいとのこと。めろアンテナは即座にピーンと3本立ったが、面白いので泳がしてみることにした(嫌なヤツだ)。

「あのさ、何あげたらいいんかな・・・」
「(´めωめ`)ハ?」
「いや・・・どういうのが欲しいのかなって思って」
「オイラに?オイラだったら現金が良いです(´めωめ`)」
「オメーにじゃねーよ!!」

中3になっても「ねえ、消臭力~って歌ってみて」と言いたくなるくらい、イマイの声は実に甲高い。

「誰の話をしてんのw」
「いや・・・・・・」
リエちゃんやろ。早よ言って楽になれよ。

「その・・・女子ってどういうのもらったら嬉しいのかなって・・・」
「あのねイマイ、女子にもそれぞれ好みってのがあるんよ」
「わかってるよ・・・」
「誰にあげるものか言わなきゃ、相談にも乗れませんけど(´めωめ`)」
今振り返っても、めろは鬼である。

「リエ・・・・・・」
「(´めωめ`)ア?」
「・・・リエちゃんだよっ!!!!(>Д<)」
この時私は、初めてイマイにドキッとしたのを覚えている。ついにお前も、大人の階段を1つ登ったね(同級生だっての)。

リエちゃんがミッフィー好きなのをイマイは知らなかったようなので、ミッフィーグッズを推した。その中でも、毎日使えるものとして、目覚まし時計はどうかと私は提案した。約4千円。中学生には決して安くない金額だが、イマイはお小遣いを前借りして購入したようだった。

その後、イマイとリエちゃんは無事カップルになった。クラス全員が公認する健全なそれである。リエちゃんと付き合って、イマイは大人になった。冷やかされて、顔を真っ赤にして「ぶっ殺すぞ!!」と叫ぶイマイは、もうそこにはいなかった。私は、なぜだが寂しくなった。

イマイが愛された理由がここにある

時が経ち、中学の卒業式。朝教室に集まった私たちの中では、誰が最初に泣くか話題になっていた。

「イマイくんだよ絶対www」
「(´めωめ`)ダナ」
「うるせー泣くわけねーだろー!!」
中学最後にイマイのソプラノツッコミが聞けて、私は嬉しかった。

そして案の定、イマイは卒業生合唱の1曲目でギャン泣きしていた。教室では笑っていた私たちも、イマイの涙にもらい泣きをしてしまったのであった。

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ちなみに。かのミッフィーの目覚まし時計。もうアラームは鳴らなくなってしまったようだが、未だにイマイ家で時を刻んでいるそうである。

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