セミマル・イン・ザ・ハウス(後編)
前編・中編はこちらからどうぞヽ(•̀ω•́ )ゝ✧
ドイツ製のいかにもヤバいスプレー
セミマルは姿を現さない。
「ちょっと見つからないですね・・・」
「はい・・・」
ここで、逢坂君が新たなる提案をしてきた。
「・・・・・・スプレー散布しておきましょうか?」
「(´めωめ`)ハイ?」
「これなんですけど、結構強力なやつで」
逢坂君が巨大なスプレー缶を出してきた。ドイツ製というそれは、よく見かけるキンチョール的なスプレーの3倍程度の巨体に、真っ黄色の塗装が施されている。スプレーの先端は20cmはあろうか。細長く伸びていて、隙間にもピンポイントで散布できるらしい。スプレーの側面は、🚫やCAUTION!的な文字でビッチリ埋め尽くされている。いかにもヤバそうなヤツだと如実に分かる、プロ仕様のスプレーだ。
逢坂くんによると、夏場は特に、家にGが出現した1人暮らしの女性からの依頼が多いとのこと。ただ、Gだけに探しても見つからないこともあり、その際にこの毒ガススプレーを部屋中に散布するらしい。
「Gに限らず、ほとんどの虫は即死します(✧≖‿ゝ≖)」
爽やかな顔でさらっとヴァイオレンスなことを宣う逢坂君。
「いや、それはちょっとかわいそうなので・・・」
「そうですか・・・(´・ω・`)」
なぜかしょんぼり顔の逢坂君。スプレー撒きたいだけ疑惑。
オイラを落ち着かせてくれた、ひとつの短歌
変なおじさん的キャーから1時間経過して、オイラは冷静さを取り戻していた。そして不思議なことに、セミマルに対しての恐怖心は、かなり弱くなっていた。いや、蝉は変わらず怖い。多分一生怖い。でもセミマルには、何となく、情みたいなものが生まれていた。大自然の中で悠々と鳴いていたのに、急に迷宮に連れていかれてパニックになり、その挙句に毒ガスで最期を迎えるなんて、あまりにも不憫じゃないか。
そしてもう1つ。オイラのセミマルへの恐怖心を、和らげてくれたものがある。逢坂君の捜索活動の間、オイラは、鶴亀杯で出会ったひとつの短歌を思い出していた。
仰臥するセミの世界は明るいか「黙祷」をかき消す蝉時雨
きっと今なら、セミマルが出てきても。いや、正直恐怖心はまだあるけど。あるけども。優しく対処できる気がする。四四田さんの短歌が、オイラを落ち着かせてくれた。
逢坂君から伝わってきた、プロとしての悔しさ
逢坂君に依頼した30分は既に過ぎている。これ以上負担をかけるのは、彼にも申し訳ない。
「あの・・・もう大丈夫なので・・・すみませんでした」
「え・・・」
「お約束の30分、過ぎてますんで・・・」
「いやいや!見つけられなくてすみません・・・」
「いえいえ、もう十分です。ありがとうございました」
「・・・・・・」
「延長して頂いた分も、ちゃんとお支払いしますので。おいくらになりますか?」
「・・・いえ、それは結構です」
「いや、それはダメです」
「本当に結構です。見つけられてないので」
逢坂君、実に悔しそうな顔をしている。
うん。そりゃそうか。プロだもんね、なんて思っていると
「あの、延長料金はいりませんので、あと10分、時間をくださいませんか?」
「(´めωめ`)エ?」
「何とか頑張って見つけますんで」
「いえいえ!もうホントに・・・」
「お願いします」
「(´めωめ`)イヤ・・・」
「10分だけでいいんで」
プロとして、己の役目を果たせていない。逢坂君の目から、悔しさが伝わってくる。分かる。その気持ちはすごく分かるぞ。何より、最初に依頼をしたのはこちらだ。オイラは、彼の気持ちを尊重したくなった。
「わかりました。でも延長料金はちゃんと受け取ってくださいね」
「いや、それは本当に結構なんで」
「いえ、お仕事としてご依頼してますので。受け取って頂けるなら、あと10分お願いします」
「・・・わかりました。ありがとうございます(*`ω´)」
セミマル絶対見つけるマン、爆誕の瞬間だった。
もういいもういいんだって見つけるマン
そこから見つけるマンは、まるで自分の家かのように、目の前の様々なものを、躊躇なく動かしたり、ひっくり返していく。そして元の位置に戻すことなく、次の物体に向かう。そこには「ここは他人の家である」という気遣いは感じられない。もはや蝉探しというより、模様替えの様相を呈している。
いや・・・見つけるマン・・・もういいんだよ・・・
これ、元に戻す方がむしろ大変だよ?
高校時代の物理の授業の残り10分は永遠にも感じられたが、この時の見つけるマンにとって、10分は2分だっただろう。彼には気の毒だが、これ以上模様替え地帯の被害が拡大する前に、非情の宣告をするしかあるまい。
「あの・・・」
「(*`ω´)ハイ!!」
「もう、あの時間なんで・・・ありがとうごz」
「あと、こっち側だけ探させてください!(*`ω´)つ」
「いや・・・あ・・・」
ガサゴソ(*`ω´)つ□
そう。元々お願いしたのはこちらなのだ。強くは言えず、ただ見守ることしか出来なかった。結局予定の倍の時間の20分を費やしたが、とうとう彼がセミマルを見つけることは出来なかった。いや見つかんねーのかよ。ここまで何文字書いてんのよ。
気持ちよくお支払いしたくなる、価値ある仕事
逢坂君は、漫画で出てくる、縦棒がイッパイ入ったような顔をしている。
「申し訳ありません・・・」
「いえいえ、本当に一生懸命探して下さって、ありがとうございました。すごく怖かったんで、心強かったです」
「いえ・・・すみません」
本心からの感謝のことばだった。キミが折り返し電話をくれた時。玄関で「お任せください!」と言ってくれた時。オイラはどれだけ心強かったか。逢坂君、キミには心から感謝している。気持ちよくお代を支払えるよ。
「・・・あ、散らかしてしまってスミマセン💦」
逢坂君も冷静になったのだろう。辺りを見回して慌てだす。
「ちゃんと元に戻しますんで」
「あ、いいですよ。1つ1つやってたら時間掛かりますし」
「いやいや、そういうわけには・・・」
「ホントに。こっちでやっときますから。ちょうど模様がえしようかなーって思ってたんで笑」
「申し訳ありません・・・」
思ってないけど、流石にもう解放してあげないとね。
ここで「お代はいりません」と逢坂君が切り出したらお説教するつもりだったが、何かを察したのか、延長分も含めて、ちゃんと満額請求してくれた。よしよし。それでいいんよ。キミはプロとして、ベストを尽くしてくれた。気持ちよくお支払いしたくなる、価値ある仕事をしてくれた。どうか、胸を張ってくれ。
何で急にセミマルの健闘を讃えてんだよ
諸々の手続きと精算が終わり、逢坂君が玄関へ向かう。
その時。
今度こそ、その時。
「あ・・・!」
「(´めωめ`)ン?」
「いましたっ・・・!」
「え・・・?」
「ココ・・・時計の・・・ココッ!」
「!!!!!(゚Д゚)!!!!!」
ファーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
セミマルは、まるで元々それにくっついてたオブジェの如く、ダイニングの入り口側の壁掛け時計の横っ面に止まっていた。おいマジかよ・・・生きてたのかよ・・・絶対ダメだと思ってたよ・・・一切鳴き声をあげることなく、ずっとここにいたのかよオマエさんは・・・(*✪д✪*)ウソヤロ
「アハッ、こんなとこにいたとは・・・w」
逢坂君がヒョイとセミマルを捕まえる。いやそんなことしたらまた大騒ぎ・・・と思ったが、セミマルは脚はバタつかせたものの、全く鳴くことはなかった。
「お待たせしました。捕まえました(✧≖‿ゝ≖)」
いやいや・・・逢坂君何よそのどや顔・・・めちゃめちゃ偶然やん・・・さっきまでドチャクソ凹んでたやん自分・・・急になんなん?てか、逢坂君よ。あれだけ探しておいて、時計のところはちゃんと見なかったのかい?
「時計に擬態するなんて、コイツもやりますねw」
いやいやいや・・・待て待て待て逢坂君!何安心して饒舌になってんだよ!何で急にセミマルの健闘を讃えてんだよ(ノシ*`ω´*)ノシ 河川敷で殴り合って、最後に互いのパンチが当たって、同時に倒れ込んで、暫くしてから「お前、やるじゃねーか」「お前もな」って笑いあって、それから親友になるっていう昔の不良の感じか(ノシ*`ω´*)ノシ←長いわ
てか、ずっとここにいたんだったら、頑張って見つけてくれよ(ノシ*`ω´*)ノシ てか、セミマルも少しは声上げろよ(ノシ*`ω´*)ノシ 近くでずっとガサゴソしてただろーよ見つけるマンが(ノシ*`ω´*)ノシ
心の中ではありとあらゆるツッコミが飛び交っていたが、逢坂君につられて苦笑いを浮かべるしかなかった小市民のアカウントはコチラです。
蝉と触れ合う無邪気な僕感
「・・・ちょっと弱ってますけど、まだ動けるみたいなんで、外に逃がしてきて良いですか?」
「あ、はい。お願いします」
「じゃ、いきましょうか」
「(´めωめ`)エ?」
いや何でオイラも・・・と思ったが、流れに逆らうことは出来ず、逢坂君と共にマンション近くの木に向かった。
「この辺でいいかな・・・」
呟きつつ、逢坂君はセミマルを優しく木の上に乗せる。我が家に侵入して以降、ついぞ鳴くことはなかったが、セミマルがまだ生きていることは、この目で確かめられた。いや良かった。キャラに似合わぬ感傷に浸ってると・・・
「お前、人様に迷惑かけちゃダメだぞ(✧≖‿ゝ≖)」
え?
「同じことやらかすなよ?(✧≖‿ゝ≖)」
待って。もしかして逢坂君、セミマルに話しかけてる?
「住居不法侵入は立派な犯罪だからなw ちゃんと反省しろよ?w」
何ちょっとムツゴロウさんみたいな雰囲気出してんだよ(ノシ*`ω´*)ノシ いやこの場合はセミゴロウか?(´めωめ`)ってどっちでもええわ(ノシ*`ω´*)ノシ
蝉と触れ合う無邪気な僕感を醸し出してくる逢坂君に若干引いていると、言い終わった後、な~んてねって笑顔で彼がこっちを見るので、やはりアハハ・・・と空笑うしかなかった。もちろん、心の中ではツッコミ通しだ。
逢坂君は鶴亀杯参加者か!
「夏も、もうすぐ終わっちゃいますね」
「・・・ですね」
いやゴメン。これはウソ。嘘っぱち。こんな会話してない。急にドラマっぽくしたかっただけ。何かあるじゃんこういうテイストのドラマ。
「水水水」
「・・・え?」
「水水水ッ!」
「・・・(ハッ!)・・・水氷水?(ニヤリ)」
「水水水☆」
「アハハ!」
「アハハハ!」
ねーわ!あるわけねーだろ!何だその唐突なやりとり!逢坂君は鶴亀杯参加者か!「水氷水?(ニヤリ)」じゃねーわ!
実際の会話は
「じゃ・・・(戻りますか)」
「あ、はい・・・」
でした。いやそんなもんよリアルは。
こうして、めろと逢坂の🎐チリンチリン物語は、妄想から1ミリも現実に近づくこともなく、オイラの海馬の奥の奥のそのまた奥で、静かに塵と化したのであった。
そして翌土曜日。朝から模様替えに精を出したオイラ。模様替えを終えると、久々にnoteの記事を書くべく、PCに向かった。(了)
えーっと、色々と言い訳したいことはありますが、集約すると「申し訳ありませんでした」の一言でございます٩(๑•̀ω•́๑)۶←反省しろ
いや、まさかね。時計の横っちょにいたとはね。何でも屋さんが1時間近く探して見つけられないとはね。これは中々のオチだぞ!と、土曜日に書き始めた時は勝算しかなかったんですが、今はその時のオイラを引っぱたきたい気持ちでいっぱいです。
何はともあれ、この3部作で、みなしゃまが少しでも楽しんでくれたり、笑ってくれたのであれば、それに勝る喜びはないです。地位も名誉も権力もいらぬ。あたしゃアンタの笑いが欲しい。めろでした。
(´めωめ`)ノシ マタネン
【two-we-thing】
まだまだ、みなしゃまの記事に全然遊びにいけてないんよ~(๑`→Д←´乂) 今夜からまたちょっとずつ顔を出すので、仲良くしてね~( ●´ސު`●)
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