翻訳チェッカーには注意力が不可欠
いつも言っているが、翻訳そのものと翻訳チェックは別の仕事である。翻訳者になるためのスタートが翻訳チェッカーであるとか、それとは逆に良い翻訳者のゴールとしてチェッカーがあるという人もいるが、わたしはそうは思わない。翻訳と翻訳チェックは別の工程であり、別の担当者が遂行するものであり、一直線上に存在するものではない。
もちろんセルフチェックという工程もあるが、どんな仕事にもセルフチェックは必要だ。わたしが言っているのは、別工程としてのチェックである。
翻訳チェックで必要とされるスキルは、英日翻訳であれば、まずは英文法の知識と日本語のライティングスキルである。英文を構文分析、正確に読解する力も必要だ。
あれ? これって翻訳者に必要なスキルじゃない?
そう。つまり、スキル面においては、チェッカーに必要な能力は翻訳者と変わらない。
だが、「資質」という面で考えてみると、翻訳と比べると突出して必要となるものがある。
それは、第三者の訳文を見て「なにかおかしい」と気づくことができるかどうかである。「あれ、ここほんとうにこれでよい?」と思わなければ、誤訳や訳抜けを見落としてしまう可能性が高い。
もちろん英語のスキルがなければ誤訳に気づくことは難しいし、気づいたらあとは、調べ物をする技術も必要だ。だが、それ以前に「ミスかもしれない」と気づくかどうか。そして躊躇なく調べるプロセスに入れるかどうか。ここに、チェッカーが備えていなければならない最大の資質がある。
「気づく」能力、つまり「注意力」はチェッカーに必須の資質というか、性格面での適性ということになる。
わたしはよく「スキルは上がるが性格は変わらない」と言う。スキルは学び、実体験を重ねれば上っていく。けれど、持って生まれた性格はそうそう変わるものではない。
元々、あまり注意深い性格ではなくても翻訳者にはなれる。トップレベルまで行く人もいるだろう。けれども翻訳チェッカーになるのはまた別の話である。
母語であっても外国語であっても、言葉を見たり読んだりするときあらゆる角度から見ていき、「何か変な気がする」を拾い上げるために必要なのが「注意力」である。もちろん、「注意力」の中でも言葉に対する注意力が突出して高い必要がある。
というわけで、わたしは「文字への注意力」をアップするよう、明治大学・齋藤孝先生が監修した音読トレーニングを毎日欠かさずこなしている。英語のトレーニングも別途やっている。
だが、それに加えて、「文字以外の情報への注意力」を上げるトレーニングも欠かしていない。これについてはまた後日書くこともあると思う。
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