自然のなかで歩行瞑想
ふかふかの絨毯のうえを歩くよう。集積した枯れ葉は、踏みしめると沈んでいく。こんな感触、いったい何年ぶりだろうか。横に目を向けると、丸くて立派な冠をかぶっているクヌギのどんぐりがある。枝つきだ。思わず手を伸ばした。
どんどん行こう。そうだ、お気に入りの道があったはず。狭くて両脇は木が繁っているなだらかな坂は、ちょっと山道の雰囲気がある。
そうそう、ここのはず……だけど、なんだか違う。ああ、木々が葉を落とした季節に来たことがなかったんだ。真冬だが温かい日差しが降り注ぐ今日は、ほんとうに気持ちがよい。そして、これまでになく足元軽く傾斜路を登っていけるのは、ストレッチと筋トレを毎日きちんとこなしているおかげだろう。
嬉しくなって、東京ドームの四倍の広さをもつ公園の外側の道をぐるりと一周するが、真冬だからだろう、ランナーもほとんどいない。
瀬音が聞こえる。公園内に設えた川には、緑色の羽のマガモたちが十羽以上泳いだり真下に嘴を向けて潜ったりいる。大木のメタセコイヤが幹と枝で影を伸ばしているから、葉陰がなくとも眩しくないだろう。
そう判断して寝転ぶ。見えるのは枝と空だけ。
……鳥の声だ。歩く時は視覚優先でなかなか音に注意が向かなかったが、やっと空にも鳥がいると認識した。枝と空しか見えないとなると、耳が機能していることがわかる。2年前に突発性難聴を患った身だが「大丈夫、ちゃんと治ったんだ」と安心感が広がる。
こんな風に空を見上げるのは何年ぶりだろう。しばらくそのまま動かずにいた。
しばらく経って、とはいっても十分くらいのものだろう、歩みを進めていくと、だんだん何も考えずに、交互に脚が動いているだけという状態になってきた。これが歩行瞑想だろうか。たしか瞑想とは「心のなかのおしゃべりが止んだ状態」を言うはず。さくさくと落ち葉を踏みながら、ただただ歩く。
二周めを巡って入り口に着いた。クレープのキッチンカーが出ている。今まで買ったことはないけれど、今日は「初めて」を体験しに来たのだ。さっきどんぐりに出合ったことだし木の実テイストがいいな。そうだ、クルミにキャラメルソースにしよう。
注文後、わくわくしながら出来上がりを待ってほおばる。生クリームはあまり好まないのでふだんは口にしない。生クリームであふれたおやつを食べるのも、いったい何年ぶりだろうか。生クリームとは、「ふわふわして、甘くて、口のなかですぐなくなってしまう」食べ物だったのね。
せっかくクレープを買ったから、別の道からもう一周しよう。
それにしてもクルミとキャラメルソースはよく合う。コーヒーがほしくなってきたので、自動販売機に小銭を落とし、1本求める。うん、クレープとコーヒーは鉄板の組み合わせだね。
おやつを終えたところで、さて、そろそろバスの時間だから帰ろうか。忘れていたよ、二十分間バスに乗るだけで「瞑想」環境に来られるなんて。近いうちにまた来ようっと。
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