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個人がするミスその2 記憶の想起不良(英語・日本語)

「個人がするミス」シリーズの続きである。まず、言葉の仕事に関して「個人がする」5種類のミスから書いておく。
 1. 学習不足(未知であるためのミス)
 2. 記憶の想起不良(その場で正しく思い出せないためのミス)
 3. 計画不良(計画の立て方に問題があるためのミス)
 4. 注意不足(集中力不足等により起こるケアレスミス)
 5. 伝達不足(情報が正しく伝わらないためのミス)
 今日は、2の「記憶の想起不良」、とくに英語の記憶の想起不良により、翻訳および翻訳校閲でどんなミスが生じるかを述べる。

「学習不足」と「記憶の想起不良」の違い

 学習不足によるミスは「未知のこと」があるために生じる。対して記憶の想起不良によるミスは「既知のこと」から生じる。つまり、知っていることなのに、その場で瞬間的に思い出せないために生じるものである。
 「知らない」ことなのか、「知っているのに思い出せない」のかで解決策も異なる。

英語の記憶の想起不良により起こる翻訳・翻訳校閲のミス

 英語(文法・単語・イディオム)について記憶の想起不良から起こるミスは、文法の間違い、単語の取り違えからくる誤訳が挙げられる。

解決策:自分のミスを記録する

 自分が仕事や学習で間違えたき、それを記録しておくとよい。「記録」することで「記憶」に残る。もう一歩進んで、「この機会にきちんと覚え直そう」という場合には、次の方法を勧める。

アウトプットは英作文、インプットは自作フラッシュカード

 覚えるためには「英作文」を作ってみるのがよいとよく言われる。自分で作った英文が果たして正しいのかどうかは、AIで文法チェックをかければよい。
 具体的なツールとしてはGrammarlyがある。受動態や、オックスフォードコンマ(3つ以上の項目を並べ、その後ろに接続詞andかorがくる時に、接続詞の直前につけられるコンマ)を必ず指摘してくる点がややうるさいが、慣れれば本当によいアシスタントになる。https://app.grammarly.com/
 もうひとつ、インプット練習として「自作フラッシュカード」を勧めたい。PowerPointのスライドに、忘れかけていた単語やイディオム、文法事項などを書くだけ。そして「スライドショー」で自動再生すればよいのだ。1スライド1秒に設定すれば60枚を1分で再生できる、つまり復習できる。仕事にとりかかる前、あと、ランチの前、あと、寝る前など「1分」再生するだけで弱点が強化できるのだから使わない手はない。
「フラッシュカード」は子どもが英単語を覚えるときによく使われるが、大人は「知らない単語」をフラッシュカードで覚えるのは難しい。ただし「知っているはずの語」を思い出すためにはとても有効なのだ。ぜひ試してほしい。

日本語の記憶の想起不良により起こる翻訳・翻訳校閲のミス

 日本語(文法・表現・コロケーション)について記憶の想起不良から起こるミスは、不自然な訳文と、変換ミスに代表されるだろう。

解決策:他人のミスを記録する

 こちらについては、他人のミスから学ぶという方法がお勧めだ。Twitterをやっているなら、校閲関係のいろんなアカウントをフォローして収集すればよい。「これは自分もミスしそう」という語をマイリストに入力しておくだけだ。
 とくにお勧めのものを挙げておこう。
●毎日新聞校閲センター @mainichi_kotoba
 ノイズが少ないし、解説が丁寧。「毎日ことばPlus」という別サイトで解説されており、これには登録が必要だが無料である。
●東京新聞校閲部 @tokyo_koetsubu
実際の新聞から採った「校閲クイズ」が勉強になる。
●日経 校閲 @nikkei_kotoba
 ことばリサーチというアンケートがおもしろい。
●校正・校閲のヴェリタです @koseiverita
校正プロダクションであるため宣伝が多いが、ある語を校正により修正した実例を豊富に挙げてくれている。
 わたしはこの当たりから収集した語を「マイリスト」に入力しているが、それが面倒ならば、各社のtweetを読み流すだけでも勉強になる。

「記憶の想起不良」の解決策は「記録」すること

 というわけで、「知ってるはずなのに思い出せない」ために生じるミスの解決策としては「自分のミスも他人のミスも記録する」ことに尽きる。最後に挙げた、Twitterのお勧めアカウントのフォローは今すぐやってみてほしい。Twitterはフローコンテンツ(流れていくコンテンツ)だが、読み流しているだけでも面白い。面白いから覚えられる(記憶が想起される)はずである。

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