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輿石孝志個展「紙平線の向こう側」感想

 幾層にも重ねられた切り絵で、立体的な彫刻風アートを生み出す。
 彫刻切り絵師の輿石孝志さんは、黄金律やゼンタングル等をベースとし、 幾何学紋様、ゴシック、古代や中世の紋様といったモチーフを現代の解釈で組み立て、彫刻切り絵という形にして見せてくれる。
 twitterで作品の写真は拝見していたが、リアルで観ると圧倒的な迫力。背面から光を当てた彫刻切り絵もあり、目で追うだけでなく、首や肩、膝の角度をほんの少し変えるだけで、微妙に色や陰影が揺れ動く。光と影の織りなす魔法のようだ。
 設計はIllustratorを使い、レイヤー1枚ずつが型紙になるという。切るのはレーザーカッターと手仕事の両方。最先端の技術で効率を追求しながらも、より美しいものを探究し続けるのが輿石さんのスタイルである。
 仕上がった作品を壁にかけておき、眼鏡を外して眺めるとぼうっと浮かび上がった感じに見える。それを見て、「ここは逆のパターンの方がよいな」と、当該の段(紙)から設計して切り直す。そうして出来上がった作品の数々だという。
 単に自分の好みだけを追いかけるのではなく、依頼主の要望にも応える。「たとえば、依頼主が中国の方であれば、中国で縁起がよいとされている偶数を基本として、モチーフを展開していきます」と語る輿石さん。「依頼主の要望を入れて作りますが、オーダーどおりにデザインして切るだけでは、よいものにならないんです」ものづくりの根底をなす考えではあるが、その「考え」を「作品」として仕上げるのがどれほど難しいかは、アーティストなら誰もが実感するところだ。輿石さんも例外ではない。それでも日々デザインし、紙を選び、紙を切り、眺めてみてはやり直す。まさに魂が込められた作品だ。
 来場客はことばもなく見つめ、ため息をもらしてはその場で作品を購入していく。著書や絵はがきならば手頃な価格なので、こちらを求めてもよい。作品の写真撮影も許可されている。だが、なんといっても一番よいのは「自分の目」でしっかりと観て会場を出ることだ。
 そうそう、会場の入出口には、来場者特典の絵葉書と、「飴ちゃん」のいちごミルクが置いてある。「みんな意外と飴ちゃん持ってかないんだよなー」と輿石さんが首を傾げていたので、ぜひいただいて口に放り込むのを忘れずに。その日ずうっと幸せな気分が続き、原宿の街を闊歩できる。

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