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2025大阪万博、夢洲まで行く電車が6両編成しかない問題

2025年に万博を控えた大阪。会場の夢洲まで直接乗り入れて万博輸送の主軸を担うのがOsaka Metro中央線。しかし中央線の電車は1編成あたり6両しかありません。『大阪・関西万博 来場者輸送具体方針(https://www.expo2025.or.jp/association/maintenance/category/traffic_access/)』においては1時間あたり24本へと増発するのは大前提でそれでも乗車率140%(つり革・手すりを掴めない立客が一定数発生するが新聞を読んだりスマホを触ることは楽にできる)くらいになると予想されています。この数字は大阪圏の乗車率平均126%を14ポイント上回ります。方針第三版内では「桜島線(桜島駅からバス輸送)との利用の平準化を図る運賃設定とする」としており、ソフト的な対策無しでは中央線の輸送力は不足してしまうことは万博運営側も理解しているようです。
でもOsaka Metroの路線は基本的に全ホーム8両対応じゃありませんでしたっけ…?Wikipediaにもそう書いてある。

過去にはけいはんな線学研奈良登美ヶ丘延伸時にも8両化が取り沙汰されたのですが、その時も8両化は見送り。今回夢洲での万博輸送に際して8両化が再び検討されましたがやはり却下されました。どうして大阪市は中央線の電車を増結しないのでしょうか?今回Osaka Metro中央線の全ホームの長さを調査して分かったこととは…。


ホームが8両分に満たない駅が存在した

結論から言うと、ホームの長さが8両分(18.7m×8=149.6m、即ち約150m)に満たない駅がいくつか存在しました。

高架区間(大阪港~九条)

中央線には高架区間が存在するのですが、この区間の4駅(大阪港、朝潮橋、弁天町、九条)においては九条駅こそギリギリ約152mのホーム長があるのですが他の駅ではホームが7両分くらいしかありません。
相対式2面2線のホームを持つ朝潮橋駅・弁天町駅については一応高架路盤には準備構造はあるようなのですが、機器が置かれているためホーム延伸のためにはこれらの移設が必要となります。

朝潮橋駅2番線ホームの森ノ宮方を望む
高架の幅が広げられている部分があるが、信号設備等が置かれている

島式ホームである大阪港駅は駅改良工事中でホームの端まで入れませんでしたが、ホームとしての構造があるのはやはり7両分。その奥は緩やかに合流するためホームとして機能する幅はあると考えられますが、工事は築港交差点を封鎖する大工事が予想されます。

大阪港駅(Google航空写真より)
写真中央部の線路の間の灰色構造物がホームの端で、ここからさらに1両分延伸が必要

阿波座駅

阿波座駅は相対式2面2線のホームで、どちらのホームも長さは約128m。6両分しかありません。
コスモスクエア方には幅の広い係員通路が約30mあるためこれをホームとして転用できれば8両分になりますが、この先はすぐ高架に上がるための急勾配が始まるのでホームとして使って良いのかどうか、勾配との兼ね合いが懸念されます。

阿波座駅2番線ホームコスモスクエア方を1番線ホームから望む
阿波座駅1番線ホームコスモスクエア方を望む
ホーム転用可能な幅はありそうだが、高架へ続く上りの急勾配が迫っている

谷町四丁目駅

ここまではまだ素人目には工事ができそうな駅が続きましたが、谷町四丁目駅は転用可能な空間がありません。長さは1番線が約146m、2番線が約136mでどちらも7両分しかありません。生駒方のホーム端部は壁であり、コスモスクエア方も幅の狭い係員通路があるだけでホーム転用は困難です。信号設備も迫っています。

谷町四丁目駅の2番線ホームからコスモスクエア方を望む
信号設備が迫っており、係員通路の幅も狭い

森ノ宮駅

森ノ宮駅は3番線はホームの長さが約130mで、ホームに転用可能な幅員の係員通路が生駒方に30mほど続いています。
一方1・2番線はホームの長さは約118mで、3番線同様に生駒方にホームの拡張空間は存在するのですが、階段の下に隠れてしまっておりそのままでは活用ができません。

森ノ宮駅2番線からコスモスクエア方を望む
柵の奥にホームドアの制御盤が見えるが、係員通路は狭くホーム転用はできないように見える
奥に見える3番線の係員通路はホーム転用できそうな幅がある
森ノ宮駅3番線から1・2番線ホームのコスモスクエア方を望む
写真右側のホームドア制御盤の奥に空間が続いている

階段の縮小工事を行わないとこの空間をホームに転用することはできませんが、この工事は柱位置の変更を伴うため難工事が予想されます。また生駒方においても長堀鶴見緑地線への連絡通路があり、柱が迫っているためホームに転用するためにはやはり柱位置の変更が必要になります。なお連絡通路部分だけを転用したのでは約10mしかホームの延伸ができず、8両分を確保することはできないほか、1番線側にはエスカレータがあるためこちらのホーム延伸は不可能です。

森ノ宮駅1・2番線生駒方
1番線側にはエスカレータ、2番線側には階段・エレベータに続く通路がある
森ノ宮駅2番線生駒方
柱が迫っており、ホーム転用は困難

けいはんな線延伸区間(白庭台~学研奈良登美ヶ丘)

けいはんな線延伸区間の白庭台、学研北生駒、学研奈良登美ヶ丘の各駅も6両分しかホームがありません。しかしこれは8両編成は生駒折り返しとすれば問題ないことを考慮すれば8両化の障壁としては大きくないと考えられます。なお、この3駅についてもホーム延伸用の空間が確保されていることは確認済みです。

まとめ

特に致命的な駅

以上より、現地調査の結果ホームの長さが8両に満たない駅がOsaka Metro所管の全14駅中6駅存在していたことが判明しました。この中でも地下空間に延伸余地が確保できていない谷町四丁目駅と延伸空間を階段の背後に追いやってしまった森ノ宮駅は他駅とは比較にならない大規模な工事が要求されます。
「8両分の空間が確保されている」という言説より、ホーム柵の撤去及び内装のリニューアル、一部信号設備の調整だけで8両化が可能と考えられてきましたが工程を精査した結果上記の問題が発生し、増結が断念されたと考えられます。

ところで何見て8両分あるって言ってたんですかね?

Osaka Metroの前身である大阪市交通局が掲げていた「8両分のホームを確保する」というのは他線区と共通のポリシーで、実際他線区では10両で運行している御堂筋線及び建設コスト削減のため最大6両対応とした今里筋線を除き8両分のホームがほぼ全駅で確保されています。しかしこのような事態になっているというのは、該当区間の設計が古すぎる上にその後の改良も無かったためと考えられます。
というのも、今回8両分のホームが無いことがわかった区間は1961~1967年の開業で、当時の中央線は17.7m車2両編成。この時代に8両分と考えて確保したホームが、時代と共に車両の大型化や他線区との連絡通路への転用、目先の混雑緩和のための階段拡張等で8両停車ができなくなったのでしょう。現在18.7m車10両編成の御堂筋線だって当初計画は16m車12両編成だったわけですから…。
しかし大阪の地下鉄は伝統的に御堂筋線や谷町線など南北系統の方が乗客が多く、東西系統である中央線は相対的に改良が後手に回ったのだと考えられます。

万博輸送は本当に大丈夫なのか

万博輸送のために8両化するのではという世間の予想の中、発覚したホームの長さ不足により8両化を断念した中央線。メインルートと目された中央線の輸送力に不安があると万博の成功にも暗雲が立ちこめるわけで、現在それを回避するために冒頭で紹介した来場者輸送具体方針でどのように来場客を誘導するかに頭を悩ませています。でも資金を投入して中央線の大改良ができればそれが一番良かったはずなのですが。万博の費用として四国や山陰の高速道路建設費を計上してたりするわけですからそれぐらいのレトリックは政治家も官僚もできたはずなんですよね…。
ともあれやるからには2025大阪万博は成功してほしいものです。

駅ホームの長さデータ

最後に今回の議論で使用した駅ホームの長さデータを掲載しておきます。
上り方:コスモスクエア方の立入禁止区域
下り方:学研奈良登美ヶ丘方の立入禁止区域
ホーム:プラットホームとして供用されている部分
です。
下線付きはホーム構造なしで空間のみ確保済み、
斜字は通路として使用しておりホームとしての転用困難な部分です。
また、単位は原則mです。

Osaka Metro中央線のホーム長さ
夢洲駅は開業前、長田駅はけいはんな線の表で示す
近鉄けいはんな線のホーム長さ

次に、これを車両の両数で表すと以下になります。
営業長:プラットホームとして供用されている部分の長さ(単位:m)
有効長:プラットホームの全長(延伸余地として残った空間を含む)(単位:m)
営業両:現在供用されている部分で停車可能な車両数(単位:両)
有効両:プラットホームとして存在している全長+延伸余地として残った空間を全て利用したときに停車可能な車両数(単位:両)
です。

ホームに停車可能な車両数(Osaka Metro中央線)
ホームに停車可能な車両数(近鉄けいはんな線)

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