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アリババ、リテールのデジタルトランスフォーメーション

『戦略をアップデートする』は、競争戦略コンサルタントとしてGAFA×BATH等の米中メガテック企業をはじめ国内外トップ企業の動向をフォローしている田中道昭が、日々行っているこれら企業へのリサーチの中から、その内容をnoteでシェアするものです。

今日の『戦略をアップデートする』に取り上げるのは、2回目と同じくアリババです。テーマは、アリババが「ニューリテール」(動画参照)の一環として推進するリテールのデジタルトランスフォーメーション

ニューリテールとは、ジャック・マー氏が2016年に打ち出した、「オンライン+オフライン+物流+テクノロジー」によって顧客の経験価値(カスタマーエクスペリエンス)を最大化するという、小売りの新しい概念です。

アリババのニューリテール戦略は、スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」などの直営、伝統的なリアル店舗をニューリテール店舗化するプラットフォームにわかれます。後者では昔ながらのパパママショップのリアル店舗がニューリテール店舗化されますが(動画参照)、これがまさにアリババが推進するリテールのデジタルトランスフォーメーションです。

アリババが昨年9月に開催した投資家向けの年次イベント「2019 Investor Day」でTmall Supermarket部門トップの LI Yonghe氏が登壇し、リテールのデジタルトランスフォーメーションについて語りました。

Tmall(天猫)とは、アリババが運営するB2CのECサイトで、中国EC市場で断トツのシェアを誇ります。そして、リテールのデジタルトランスフォーメーションで、家族経営のような零細小売店が、Tmallとの融合を通してデジタル化されるのです。

アリババは、零細小売店に対して、Tmallのネットインフラや物流システム、地域の消費動向データなどを提供します。そうすることで、零細小売店は廃業する前にデジタル化され、実質的にアリババのフランチャイズ店舗として存続できます。この取組みは、アリババがこれまで手薄だった地方小都市の消費データの取得にもつながります。データが蓄積されることで、アリババは中国全土を「アリババ経済圏」にすることができるわけです。

LI氏の講演テーマは、「Leading the Transformation of Traditional Retail(伝統的なリテールのトランスフォーメーションをリードする)」。アリババがどのようにしてリアル店舗をデジタル化して、サプライチェーンや集客の強化などを通して店舗を発展させていくのかが説明されています。

もう一つ、アリババのデジタルトランスフォーメーションに関連して注目すべきが「ニューマニュファクチャリング(新製造)」という概念です。

この概念も、ジャック・マー氏がニューリテールとともに2016年に提唱したもの。これからの製造業は、「ビッグデータ×AI」やクラウドコンピューティング、IoT、チップといったテクノロジーのもとに成り立つようになるということです。ニューマニュファクチャリングは、もちろん、ニューリテール戦略におけるサプライチェーンやマーケティングにも大きくかかわってきます。(「Asia Quality Focus」動画参照)

ジャック・マー氏は「たとえば5分間で同じ種類の2000着の衣類を製造するよりも、5分間で2000種類の衣類を製造することがより重要視される時代がやってくる」と説明しています。つまり、消費者一人一人の個性に対応するニューマニュファクチャリングです。同氏はアリババの年次総会「2018 Computing Conference」の基調演説で、こうも言っています「the future manufacturing is "made in the Internet"(将来の製造は「メイド・イン・インターネット」になる)」。

コロナ禍によってリテール業界が苦境にある中、アリババのニューリテールとニューマニュファクチャリングへの取組みは、いっそう注目していく必要があるでしょう。

田中道昭

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