安田茜『結晶質』
まずは風変わりな装幀に驚く。梱包の中で表紙がずれている…?
輸送事故かとちょっと焦った。
「べき」とか「なければ」という強い結句が目を引く。私なんかもついそうするべき、そうあるべき、という考えを持ちがちなのだがこれは自責傾向の現れなのだそう。卑近な例だが、スマホの保護フィルムを貼るのに僅かな気泡が入っただけで私なんかには「大失敗」に思えてしまう。自分に対しての僅かな落ち度も許さない厳しさが、この歌集からは垣間見える気がする。
特筆したいのは身体と器物の距離感、だろうか。モノと対峙する主体はどこか遠慮がちに見える。「橋をゆくときには橋を意識せずあとからそれをおもいだすのみ」この一首はたまたま買った現代短歌2021年9月号の特集の中にあって、私が安田茜という歌人を初めて認知した一首でもある。思い出はあとから振り返るときに美しく感じるという一種の比喩であるかと思っていたが、歌集の中でこの一首に再会したときにはまた違った見え方をした。そこに見えるのは橋からなるべく無心に立ち去りたいという意識の表れであり、もしかすると橋に仮託された他者との過度な関わりを避けるべきという、自分への戒めではなかったか。
最後に作者の持ち味がよく現れていると私が思う12首を引いて結びとします。この度のご出版誠におめでとうございます。
(了)