パソコンはじめまして

「らすたぁちゃん」というソフトを、知っている人がどれだけいるのだろうか。「はじめてのインターネット」と言えばこれしか思い出がないのだけれど。

小さな女の子が主人公の簡単なゲームで、小銭を持ってお使いに行く話……だったと思う。お使いの買い物が上手にできると、お釣りの小銭でたこ焼きが買える。「らすたぁちゃん」がたこ焼きを食べる時に出る「パクパク」という効果音が、妙に違和感のある響きで癖になった。

その頃は今ほどパソコンが普及していなくて、父が仕事で使うからと、家に一台あるだけだった。父が自分用に「らすたぁちゃん」を買うわけはない。いま思えば、娘に遊ばせてやろうと購入したんだろう。なんであのソフトだったのかはよくわからない。

そのあとは、ナントカ太郎というローマ字入力ゲームをしたり、ペイントやメモ帳でちょっとしたものを書くようになったけれど、パソコンの記憶はそこまでだ。両親が別居して、私は母方に引き取られ、父も「らすたぁちゃん」もパソコンも遠のいた。中学生になって、同級生がYouTubeを視聴し、電子メールで連絡を取り合うようになっても、自分の手元にはそれらしき物はひとつもなくて、連絡は電話か手紙か対面、というアナログっぷりだった。

だから、まともに「インターネット」に触れたのは高校の頃、スタートは同級生のブログだった。名前をなんて言うんだったか忘れたけど、「ペタしてね」とか「キリ番ゲット」とか出る、あのブログ。当時、同じ寮に暮らしていたミュージシャン志望の女の子が使っていて、たまに覗くと「キリ番ゲット なにかコメント書いてってちょ」と出ることがあったけど、なに書いたらいいかわからなくて放置した。

ブログもSNSも怖いと思っていた。何か書いたらとりあえず炎上するイメージがあった。「文章を書くのが好きです」と言う自分に、高校の先生は「ブログとかやってみたらいい」とアドバイスしてくれたけど、二の足を踏んでできなかった。元気かな、先生。彼女も何かしらネットに書いていた人なんじゃないか、そんな気がする。

それから色々あって、YouTubeのチャンネルを作って消して、ブログを開設して消して、SNSアカウントを作るだけ作って放置したりしながら、いまに至っている。早くから私にパソコンを触らせていた父は、娘がエンジニアにも技術者にもならないのが不満らしい。なんで俺の娘がこんなことに、とブーブー言う。「らすたぁちゃん」は、単に「パクパク」という不可思議な効果音を私の人生に残して去って行った。


こちらは先日の記事。後日談、追加しました。




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本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。