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「輝く」ってなんなの

 小学校のころ、スローガンかなにかで「かがやけ10才たんけん隊」というのがあった。10才って言うからには、小学校4年生だったんだろう。学校がかかげるフレーズには、こういうのが多い。
 
 「かがやく」が何を意味するのかわからない。「たんけん」がどういう類いのものなのかも不明で、つまりは何も言ってない。なんとなくキラキラしとけばいいんでしょ、たかが小学生相手、しかも長い布に書かれるだけのただの言葉じゃん。そんな舐めた発想が背後にある。
 
 べつに怒っているわけじゃないけど、ただ冷ややかに「舐めてるよな」と思って見ていた。だれかが本当に探検に行ったら、どうせ先生たちはみんなして学校に引き戻す。背の順の列からはみ出るのだって許せない人は、だれかが抜きん出て輝くことも、ムカついてしょうがないだろう。
 
 そんな個人的な話は置いておいて、言葉には中身がともなうべきだ。
 
 たとえば、ある地域において「活気がある街にしよう」とは何を言っているのか。「活気」ってなんなんだろう。いちおう辞書には「いきいきとした気分。勢いのある雰囲気」と書かれている(※旺文社国語辞典、第11版)。
 
 文字通りあてはめると「勢いのある雰囲気がある街にしよう」と言っていることになる。なんだかこころもとない。「雰囲気」だけあったって仕方ないじゃないか。エアーじゃなくて、実際に勢いがないと困る。
 
 なら「勢い」ってなんなのか。もう辞書を引くのはやめて、現実的にどういう文脈で疲れているかで話を進める。街づくりに関して言えば、たくさん人がいて金回りがよく、インフラが整備されていて住みやすく遊びやすく、学びやすく働きやすい街は「勢いがある」と言ってさしつかえない。
 
 もっと具体的に言うなら、道がたいらで車も人も通れて、交通機関によるアクセスがよくて、仕事があり(企業があり)学校も建っていて商業&文化施設が充実しているような街を言う。それだけではなく、その地域独自の魅力があるとなお「勢い」がある。
 
 そうは言っても、ここまでできる街そうそうないよ。地元がさびれている身としては、ついそんなネガティブなことを口走りたくなる。ふるさとである秋田は、コンパクトシティ計画が失敗した市としてネットに載っている。
 


 でも目指すだけならタダだから、上で書いた条件をもうちょっとわかりやすくスローガンに落とし込もう。「よく働き、よく学び、よく遊ぶ」。これができる街がいい街。勢いのある街。
 
 働き、学び、遊べる場所。これくらいにシンプルにまとめると、なにを言ってるかなんとなくわかる。すくなくとも「かがやけ10才たんけん隊」よりは、意味のあることを言えてると思う。
 
 地元の都市計画が失敗した理由はいろいろあるだろうけど、自分はどうしても、小学校時代の雑なスローガンを思い出してしまう。どうせまた「輝く」がなにかも定義しないで、言葉を舐めたまま、空虚なお題目をかかげたんじゃないの。そんな白けた気持ちになる。
 
 世の中に、きれいな言葉は多いから。だからこそ、その一個一個が「具体的になにを言ってるか」は、もっと考えられていい。「女性の活躍」というときの「活躍」が、なにを目指しているのか。「子どもが輝く街に」とは、なにを意味するのか。
 
 ある子どもが「サッカーを学びにアルゼンチンに行きたい」と言ったら支援するのか。それとも「サッカーなんてしてないで、勉強をがんばりなさい」と言うのか。もしくは「自分でお金を貯めて行くならいい。アルゼンチンに関する資料を一緒に探すし、実際に行ったことのある人と会う機会をつくるよ」なのか。
 
 美しい言葉は中身がともなってこそ人を動かす。そういうときには「輝く」が適切だと思う。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。