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顧客の悩みを理解するコツ(PainとGain)~ビジネスプロモーターシリーズ③~

■今回のテーマ

<教授>
今回もビジネスコンセプトのベースとなる”ターゲット顧客の探究”というテーマを扱います。
バリュープロポジションキャンバス(VPC)のPainとGainにフォーカスをあてます。2つのテーマを扱いますのでいつもより少し長いですが、お付き合いください。

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※前回の内容


■野菜ジュースメーカーのCustomer Job

<教授>
まずは前回の宿題から議論を始めましょう。
「野菜ジュースメーカーにとってのCustomer Jobを検討する」でしたね。

Aさん、どうでしょうか?

<生徒A>
はい、まずはCustomerですが、具体的に顔が思い浮かぶ設定が大事ということで、「大学生になって独り暮らしを始めた、まったく料理をしない男子学生」という設定をしてみました。

<教授>
なるほど、一定の像が見えてくる感じですね。
Jobはどうでしょうか?

<生徒A>
Jobは特定のコンテキストの中で設定されますよね。
自分の学生時代を振り返ると理想の状態って、

”今後も長く付き合っていけるような友人を持つ”

ということだったのかと思いました。

<生徒B>
上京してきて独り暮らしをするようになると、新しい友達作りから始まるから、そんなJobを持っている人は一定いそうな気はするね。
でも、それとジュースメーカーがどう関係するのかな?

<生徒A>
そうなんですよ…。
自分なりに客観的に過去を振り返って言語化されていなかったJobを見つけたものの、これって野菜ジュースって関係なくない?って思ってて。
やっぱ、Jobは「健康で学生生活過ごしたい」とかなのかな?って少し思ってました。

<教授>
前回の振り返りになりますが、Jobに絶対的な正解はありませんが、”特定のコンテキスト”で”成し遂げたいこと”の視点で捉えられることが大事というお話をしました。

その視点ではAさんの捉え方は問題ありません。
野菜ジュースメーカーというケースにしていますが、最初から野菜ジュースを意識しすぎたJobを設定してしまうと、これまでの発想から脱却できなかったり、プロダクトアウト的な思考に寄ってしまいます。

頭の中をゼロクリアして、極めて客観的にCustomer Jobを捉えることが大事です。


■Jobを基点に顧客を探求する

<生徒B>
既存のプロダクトを意識しすぎずにCustomer Jobを考えていくことは納得できるんですが、そのJobに対して自社のサービスや商品を繋げていくのは難しいなと思います。。。

<教授>
そうですね、そのままJobを解決しようとすると上手くいかないでしょう。もう一段階、顧客を深掘って理解をする必要があります。

そこで重要な視点となってくるのがPainとGainです。

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<教授>
まずはPainです。
Painは、”Job(=理想の状態や成し遂げたいこと)を実現するにあたっての悩み。障害となること”です。

Aさんの先ほどのJob、
”今後も長く付き合っていけるような友人を持つ”
を成し遂げるにあたってどんなPainがありそうでしょうか?

<生徒A>
そうですね。。。
やはり仲間付き合いにはお金がかかるんですが、学生だとアルバイトするもののお金が足りず、そのあたりのやりくりには非常に苦労しましたね。

<教授>
他にはどうでしょう?
仲間と一緒に活動、行動、会話など、昔のシーンを思い出しながら考えてもらえますか?
嫌だったこと、イライラしたこととかありませんでしたか?

<生徒A>
段々思い出してきました…

ゼミって仲間づくりの大きな場の一つだと思いますが、実は合宿の直前に高熱が出てしまって参加できませんでした。そのあとしばらくは他のゼミ生との距離を感じましたね。。。

そういえば、そもそも気が置けない仲間ってすぐに見つかるものでもないじゃないですか。入学後くらいに初めてあった時は「なんだコイツ、絶対仲良くなれないな…」と思った友達が、今でも付き合い続けている仲間だったりしますね。

あとは…

<教授>
わかりました、それくらいにしましょう。

<生徒B>
質問の投げ方を変えるだけで、いろいろ出てくるもんですね。。。

<教授>
JobやPainを引き出す際には、インタビューの進め方が大事なんですね。そこに関してもテクニックはあるのですが、また別の機会にしましょう。


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■Painを掘り下げる

<教授>
さて、AさんのPain話を整理すると、
・仲間付き合いは大事でそこには学生なりにお金がかかるがやりくりが大変
・体調不良により仲間と過ごす大事な機会を失ってしまう
・自分に合う仲間の判別が簡単にはつかない、分からない
ということが出てきました。

<生徒A>
そうですね。
でも、ここから野菜ジュースメーカーのビジネスに繋がるんですかね?

<教授>
Painはいろんな視点から洗い出していくことが大事なのですが、ただ洗い出すだけでは表層的になってしまってその後の解決策には繋げにくいんですね。そこで、そのPainを引き起こしている原因を探っていくことが必要になります。

Aさん、急な体調不良というのは頻繁に発生したんですか?

<生徒A>
…だいたい半年に1回くらいで体調悪くなってましたね。

<生徒B>
それはなぜなのかな?

<生徒A>
今から明確にこれということは言えないけど、不規則な生活を送っていたのかなと。寝る時間はだいたい12時超えていて、食事も1日1食しかとらないこともありましたね。結果、風邪をひいてしまう…というような感じです。

<教授>
なぜ不規則になってしまったのでしょうか?

<生徒A>
独り暮らしが始まって、自由になったのが大きいですね。仲間と遊んだり、アルバイトをかなりやっていました。

<教授>
食事は1日1食しかとらないこともあったということでしたが、こちらはなぜでしょうか?

<生徒A>
まずはお金が限られてたということですね。
友達との飲み代や、服などのモノにもお金要りますし、教科書も地味に高かったな、と思います。その結果、一人で食べる夕食にはあまりお金かけなかったですね。

<教授>
一人での食事はどれくらいかけてました?

<生徒A>
平均で500円くらいですかね。たまにラーメン食べたくて1,000円弱することもありましたが、そんなことをした後は、牛丼チェーンやカップ麺、菓子パンがしばらく続きました。

<生徒B>
男子学生ってそんな感じなんだね。。。
なんでもっと体によさそうなものは食べないの?

<生徒A>
食べたくないわけじゃないんだよね。
ただ、コンビニのサラダって満腹感に対して価格は高いじゃない?
スーパー行って自炊することも考えたけど、一人で食べるには1個の野菜が大きすぎたり、高すぎたり…なわけです。

<教授>
まだまだ掘り下げることはできますが、一旦ここまでにしましょう。

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体調不良による機会の逸失というPainを掘り下げてみると、「不規則な時間の使い方」と「栄養の偏っている食生活」が見えてきて、さらに食生活を掘り下げると、
・栄養のバランスを採りたいとは思っているが、
・金銭的に制約を受けていて
・かつ満腹感を得られるものを優先してしまう
という話が出てきましたね。

<生徒B>
掘り下げていくと、解決すべきポイントが少しずつ具体的なってきて、自社のサービスに繋がっていきそうな気がしてきました。
本人は食事バランスを気にしているのであれば、何か野菜ジュースメーカーとしてできることはありそうですね。

<生徒A>
そういえば、食事が偏っていることを実家に帰省した時に話したら、祖母がお惣菜とか野菜ジュースを定期的に送ってくれるようになりました。

<教授>
原因を探ることで、その原因を解決するためのサービスに繋げることができるようになります。

本人の金銭的な制約という原因に対しては、
・提供するサービスの価格を受け入れてもらうまで引き下げる
・他の金銭的余裕のありそうな人に代わりに払ってもらう
など、打ち手は色々考えられるのですが、おばあさんが送ってくれるようになったというのは、この後者の解決要素を取り込んでいるんですね。

この解決策を考えていくプロセスは、バリュープロポジションキャンバスの左側のアクションになります。次回掘り下げていきましょう。

また、今回は体調不良のPainを掘りましたが、それ以外のPainを掘り下げてももちろん大丈夫です。

<生徒A>
Painを洗い出した上で、更に掘り下げていくというのは相当時間がかかりそうなんですが。。。

<教授>
いい意見ですね。

ビジネスの環境は刻々と変化しています。
Painの洗い出しは重要ですが、1つずつ深堀に時間をかけていてはダメです。そこで2つの意識すべきポイントがあります。

1つ目はPainを”深刻さ・切実さ”という視点でチェックすることです。
Painにも”どうしても解決しないと困るもの”から、”解決されたらいいけどそれほどは困ってはない”という幅があります。
「より深刻なのではないか?」と思われるPainから順番に掘り下げ、検証していくことが大事です。

2つ目がその検証のスピードを徹底的に高めることです。
ターゲット顧客のJobやPainの仮説を立てることは必要ですが、
いつまでも机上でコネコネし続けるべきものではありません。
仮説を素早く立てて、さっさとお客さんのところへ行き、行動観察したり話を聞くことを通して、クイックに検証を回すことが大事です。

仮説を検証する活動や仕組みのポイントはありますが、これは上級編ということでまた別の機会に話しましょう。


■Gainとは?
<生徒B>
Painは分かりましたが、Gainとは何なのでしょうか?

<教授>
GainはJobを実現する中で得たい結果・恩恵となります。機能的な結果だけではなく、感情的・社会的な結果も捉えるとよいでしょう。

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”友達と一緒に勉強したり、遊んだりして今後も長く付き合っていけるような関係を持つ”というJobにおけるGainとは何でしょう?

<生徒A>
なかなかこれも難しいですね。
長く付き合っていける仲間を数人は得られている、ですかね。

<教授>
そうですね、それもGainです。
他にはどうでしょうか?

<生徒A>
周囲から認められている・頼られている、みたいなこともありそうです。

<教授>
学生というコンテキストにおいて認められている、とは具体的にどういったことしょうか?

<生徒B>
私だったら、講義にきちんと出席して、分からないことや、自分が欠席して聞けなかった内容を気軽に教えてくれるような人は頼りがいがあるなって思います。

<教授>
この「講義にきちんと出席する」や「気軽に教えてくれる」がまた掘り下げポイントになり、その結果を得るためには何が必要なのか?を考えていくと自社のサービスへ繋げていくことができます。

<生徒A>
これもPainと同じですが、洗い出してから掘り下げるには時間かかりますね。。。
Painのような”深刻さ”・”切実さ”のような視点はあるのでしょうか?

<教授>
Gainの場合は”必要不可欠”~”あったら良い”という視点です。
あれば便利だよね、なおよしだよね、といったGainの優先度は低くなります。

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■Pain・Gainあるある

<教授>
長くなってきましたのでそろそろ締めたいと思いますが、最後に2つのあるあるをお話しておきましょう。

ここまでの一連の議論をしてきた皆さんであれば大丈夫だと思いますが、時折、PainとGainが裏返しになってしまっている人がいるということです。
例えばですが、
・Pain:つまらない時間
・Gain:楽しい時間
のような分析をしているケースが見られます。

<生徒B>
なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか?

<教授>
それはJobとPain・Gainを曖昧にしてしまっていることに起因します。
改めてですが、
・Jobは特定のコンテキスト/シーンの中での理想的な状態
・PainはJobを実現する上で障害となること
・GainはJobを実現する中で得られる結果/恩恵
です。

Gainを"良いこと/うれしいこと"、Painを"嫌なこと/辛いこと"という語感で進めてしまうと裏表の関係になってしまうのです。

<生徒B>
それだとせっかくのフレームワークの意味が薄まってしまいますね。

<教授>
あと、もう1つのあるあるが、最初に設定したCustomerやJob、そこに基づくPain/Gainに固執してしまうことです。

あくまで仮説であり、実際の生の声や振舞を踏まえて変化させ続けることが重要です。また、仮説が正しかったとしても、自分たちに対応できなさそうな内容であったら潔く捨てて、別のCustomerやJobを探すという切り替えが大事です。

<生徒A>
今回のケースの”良い友人関係を持つ”だと野菜ジュースメーカーが扱うには抽象的な気もするので、一段具体化した”大学にきちんと通って友人と時間が過ごせる環境を整える”という変化もありでしょうか?

<教授>
はい。このように検討や議論を経ていく中で、ブラッシュアップさせ続けることこそが重要であることを忘れないでください。


■次回までの宿題

再度、以前取り上げた24時間フィットネスクラブを題材に、
①:顧客の設定
②:設定した顧客のJob
③:その顧客のPain/Gain
を考えてみてください。

フレームワークや思考法は
・まず使ってみる
・その後にレビューしてもらう
・自分なりの解釈論を加えていく
この繰り返しで習熟していきます。

次に行く前に、自分の手と頭を使ってチャレンジしてみてください!

■今回のサマリ
① Jobを直接解決しようとするのではなく、Pain/Gainで深堀する
② PainはJobを実現する上で障害となること
③ Painは障害がなぜ起こるのか?の原因を掘り下げることが大事
④ GainはJobを実現する中で得られる結果/恩恵
⑤ Gainは求める結果のうち必要不可欠なものに絞り込むことが大事
⑥ 顧客、Job、Pain/Gainは検証活動により継続的にブラッシュアップする

※自社サイトにもまとめました
https://www.mercenaire.jp/service

次の回のnote


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