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天文学専攻の博士課程学生がメルカリのデータアナリストのインターンに参加してみた

はじめに

この記事はメルカリのAnalyticsチームへのインターン参加記録です。インターン先を探している学生やデータアナリスト志望のインターン生を募集している企業の方々を読者と想定しています。

私自身、博士課程の学生ですので、特にアカデミアか民間就職か迷っているような方々に読んでいただけると嬉しいです。

自己紹介

Analyticsチームで2ヶ月間インターンに参加させていただいた御堂岡拓哉と申します。現在、東京大学の博士課程2年で、JAXA宇宙科学研究所にて天文学の研究に励んでいます。

ごくごく簡単に研究内容を紹介させてください。

全ての銀河の中心には太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが存在すると考えられていて、特に活動的なものはブラックホール周辺からX線が放射されています。私はX線放射機構を考慮した物理モデルのパラメータを観測データに合うように最適化することで、ブラックホール周辺環境の解明に迫ろうという研究をしています。

(なかなかレアだとは思いますが)興味のある方は個人HPをご覧ください。

インターン参加の経緯

博士2年に上がった頃、将来についてとても悩んでいました(今も悩んでます)。

自分の好きな研究を続けていたいが、この程度の研究成果でポストにつけるのだろうか。30代、40代になっても任期付きのポストで転々としているのだろうか。家族を養えるのだろうか。など真剣に考え始めました。

民間就職についても色々調べ始めましたが、調べるにつれ、そもそも働いたこともないのに研究を続けるか民間就職するかなんて決めきれないなという考えに至りました。そこで、研究に支障のないギリギリの期間で、働くとは何かをある程度知ることができるインターン先を探し始めました。

自分の興味対象は天文データの分析なのですが、天文という枷を外すとデータアナリストやデータサイエンティストは僕の興味にピッタリじゃないかと気づき、分析職のチームのある企業を調べました。BrainPadやALBERTなど受託の分析会社も考えましたが、インターンの短い期間で分析業務を知ることに専念するならプロダクトをよく知っている企業がいいと思い、最終的にデータアナリストの知人もいるメルカリのアナリストインターン選考に応募しました。

募集時期が4月と他企業より早く、勤務日数・期間が柔軟だったことも決め手の1つでした。ちなみに、アナリストインターンは毎年開催しているわけではなく2年ぶりの開催だったようです。書類選考と3回の面接の後、無事にオファーをいただき8,9月の2ヶ月間、週3日で勤務することを決定しました。通常は面接2回らしいので、激しい選考だったのかもしれません。

参加前のスキル

インターンに参加するのも学部生ぶりだし、データアナリストとしての業務はもちろん未知の領域なのでインターン前はかなり不安でした。ですので、業務に必要そう、かつ短時間でインプットできそうな内容はインターン前にできるだけ準備するようにしました。具体的にはSQLと統計学です。

SQL
普段の研究からPythonは使っていますが、SQLは全く触ったことがありませんでした。インターン2週間前に行われた顔合わせの際にメンターのtakahideさんに教えてもらった「10年戦えるデータ分析入門」を読んで、基礎的な文法は頭に入れてからインターンに参加しました。

統計学
研究で統計の知識は必要なためある程度は理解していたが、網羅的に勉強したことはなかったので、統計検定2級の過去問を数年分解いて欠けていた知識を補いました。

メルカリにおけるデータアナリスト

メルカリグループの三本柱であるメルカリJP(以下メルカリ)、メルペイ、メルカリUSにそれぞれAnalyticsチームが存在します。メルカリのAnalytics チームは、さらに3つのチームに分かれており、今回のアナリストインターンは1チーム1人、計3人のインターン生が受け入れ上限だったようです。

今回私がインターンとして所属したのは Product Analytics チームで、プロダクトの改善をデータ分析で支援するチームです。Product Analytics チームでのデータアナリストの業務のざっくりした流れを記します。

1. 課題を発見する
2. データを分析し課題の解像度を上げる
3. 課題解決に向けて施策を提案する
4. 施策をPdMと議論し精度を上げる
5. 施策のテストを設計する
6. テスト結果を評価する
7. 次の施策へ向けた改善提案


担当した業務

今回のインターンでは主に3つの業務を担当しました。

・登録skipしたお客様の行動を分析し、登録に向けた施策提案を行う
・ABテストを評価して結果に基づくアクションの提案を行う
・競合分析を通して、複数カテゴリ購買を促進するインサイトを出す

登録skipしたお客様の分析
インターン期間中で最も時間を割いたのがこちらの業務です。上で挙げた業務の流れにおいて2-4のパートを担当させていただきました。

メルカリアプリ初回立ち上げ時に出てくる会員登録画面の右上に小さく「スキップ」と書かれたボタンがあるのですが、こちらを押したお客様 (以下skip user)の分析というのはこれまでほとんどなされていませんでした。

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一方で、skip user はある程度多いことがわかっており、その分析が進んでいないというのは問題です。そこでskip userはその後どのような行動をしており、どうすればskip userの登録率が伸びるのかを定量的に分析しました。

分析で得られた結果とそこから導き出された施策案をPdMに共有したところ、別の角度から分析した結果も見たいと言われ、それは僕の頭の中には全くない観点でした。これにより、データアナリストは実現可能性やインパクトの大きさなど、実際に施策に落とし込む際に考慮すべき観点を常に意識しながら分析を進めることが重要だと気づかされました。それ以降も何度かPdMの方と壁打ちをすることで、より解像度の高い分析ができ、施策提案をまとめることができました。

現在、僕の分析を元に施策のテストに向けてチームが動き出しているので、結果を出せてよかったと思います。

ABテスト
アナリストとしてABテストも経験しておきたいということで上記の流れの5の後半と6に対応する業務もピンポイントリリーフのような形で参加させていただきました。yaginuuunさんの記事にメルカリにおけるABテストについて詳細に書かれていますので是非ご覧ください。

僕が行ったことはまずGoal Metrics(テストによって向上したらいいなという指標)とGuardrail Metrics(テストによって悪影響が出なければいいなという指標)を設定し、それらを集計するクエリを作成しました。とは言っても社内で他のABテストの際に用いられているクエリを改良しただけですが、集計指標が多かったので慎重に行いました。

テスト自体は8/11-9/30(予定)で行われ、結果としてGuardrail Metricsの増減はほぼなし、Goal Metricsは改善しました。テストした機能は今後オープン予定です。

競合分析
上記2つとは少し毛色は異なるのですが競合分析も行いました。

メルカリには「メンズ用品」や「本・音楽・ゲーム」などの商品カテゴリが存在しますが、単一カテゴリのみしか購入しないお客様が一定数存在します。そこでメルカリで「複数カテゴリの購買を促進したい」という大目標で競合分析を行いました。

実際には、競合分析ツールApp Annieを用いてアクティブユーザー数やretention rate (アプリを継続して使用する割合)など様々な指標を各アプリで比較することで、複数カテゴリ購買に成功してそうなサービスを絞り込みました。

その後、厳選したアプリを実際に使用して商品を購入し、複数カテゴリ購買に繋がりそうな観点を検索やクーポン、Recommendationなどの機能ごとにリストアップしました。

最後に「複数カテゴリの購買を促進」に対してロジックツリーを作成し、どの観点がメルカリの弱みで、他サービスのどのような機能が改善に繋がりそう、という提案をしました。

日本のみならず欧米や中国のサービスを分析したので、時には中国語のアプリと格闘したりもしました。最近魚さばきにハマっており、他社フリマアプリで「回転寿司になれる魚図鑑」という本を購入したのですがとても面白かったです。

成果発表会
サマーインターン生とBuildインターン生、計25名がインターン最終日に成果発表を行いました。5分発表、3分質疑応答と時間が限られているので、登録skipしたお客様の分析に絞って発表しました。

アナリスト以外の23名をエンジニアインターン生が占めていたのですが、彼ら彼女らの発表も一部聞くことができ、優秀なメンバーが集まっているんだなと実感しました。

毎週3,4人でのインターンランチが開催されたのでほぼ全員と喋ることができたのですが、エンジニアのサマーインターン生は複数企業でインターンを経験している方が多かったみたいです。

実際に実務で必要だったスキル・能力

SQL
SQLはかなり使いました。メルカリではBigQueryで集計を行います。
MySQLではできてもBigQueryではできないこと、またその逆もあるのでBigQueryに慣れる必要がありました。ただ、BigQuery特有の記法はAnalyticsチームがデータ民主化のために作成した講義動画、スライドで網羅してあったのでキャッチアップは比較的容易でした。

その都度調べながらではあるのでコーディングスピードは遅いですが、集計したいことを全てやり切ることができたのはインターン前にSQL記法をざっと頭に入れていたからだと思います。SQLだけはインターン前に勉強しておくことをお勧めします。

統計学
統計検定2級を取得して臨みましたが直接的に役に立つことはありませんでした。統計学の知識面で不安にならないためにも精神安定的な効果はあったかもしれません。とはいえ、常識的な統計の知識がないと集計の勘所のようなものは悪くなりそうな気もするので最低でも統計検定3級程度の知識は必要かなと思いました。

今回必要な場面が偶然なかった(もしくは統計的に敏感なテーマを避けてくれていた)だけだと思うので継続的な学習は必要だと思います。

R or Python
意外とRやPythonなどの分析言語は必要な場面が少なく、基本的にはSQLとスプレッドシートのみで集計から可視化までを行いました。アナリストの中にはGoogle ColaboratoryでPythonからSQLを呼び出して集計、可視化をし、ドキュメント化まで行っている方もいました。今回は業務以外の環境構築にできるだけ時間がかからないようにしていましたが、今後アナリストとして働く場合はこのやり方をやってみようと思いました。


また、統計学など数学の知識やコーディング能力以外に、他職種と共通して必要であろう能力をまとめました。

素早いキャッチアップ能力、環境適応能力
会社で働くことを筆頭に初めてのこと尽くしだったので、短期間で成果を出すためには環境適応能力も含め素早いキャッチアップは重要だと感じました。

自分で必要な情報を見つける能力
wiki、confluence、google doc、slackなど様々な場所に資料があり、ほぼ全ての資料にアクセスができるため、逆に必要な情報を取捨選択するのが大変でした。
参考にしていた資料が実は古いもので他のドキュメントでupdateされてるものも多々ありました。

わからないことを質問する能力、ためらわないメンタル
最初から最後までわからないことだらけなので、質問はできるだけメモしてメンターとの1on1のタイミングで聞くようにしていました。
僕は結構空気を読んでしまう方なので初回の定例ミーティングではわからない単語があっても聞けずじまいでその後の議論についていけないことがありました。去年のメルカン(メルカリの外部発信記事)や最近のメルカンでも「いい意味で図々しい人」がアナリストに向いてると書いてあったのを見てこのままではダメだと思い、2回目以降の定例ミーティングでは初歩的な質問も(少し躊躇った後に)するように心掛けました。とは言え初歩的な質問ばかりで進行を阻んでも良くないのでバランスは考え、鋭い指摘もできるように意識しました。

優先順位を決めてマルチタスクをこなす能力
今回は複数のタスクをそれぞれ別の方と進めていったのでマルチタスク能力は必須だと感じました。研究でその都度優先順位をつけてマルチタスクを進めていることが役に立ったかと思います。

インターンを通して

より良い形を目指してみんなが声を上げることができるチーム
特に定例会議をより良い形にしようという意識が強いなと感じました。自分がいる2ヶ月間でも定例ミーティングの形態が2回も変わったことがわかりやすい例だと思います。それもマネージャーからの指示とかではなく、チームメンバから自然とそういう発言が出てきてそれを試してみるという環境はいいなと思いました。

研究を通じて得たものが思ったより生かせた
この記事の随所にも出てきますが、研究で経験してきたものが意外と生かせたように感じました。学部生時代に新規事業立案を行う短期インターンに参加したことがあるのですが、その時と比べるとより自信を持って思考、行動できたなと思います。

研究での経験は専門知識や技術を得ることだけではなく、思考過程や検索力を養う上でも重要な役割を果たしているようです。
具体的には、〇〇を示すためにはどういう分析をすれば良いか、得られた分析結果をどのように解釈すれば良いか、結果共有時にどう説明すれば論理的でわかりやすいか、など普段の研究で染み付いている思考回路が役に立ったと感じました。

自分の専門分野と異なる企業へ就職する際も、これらのスキルは研究頑張ってきた方の強みになっているのではと思います。


また、以下にインターン中意識していたことをいくつか書きます。ここでも研究での経験がかなり生きたかなと感じました。

メンターとの1on1
普段の研究生活での個別ミーティングと同様に、分析結果だけでなく、結果の解釈まで考えていくようにしました。また、1on1してもらうか迷ったら入れるようにしました。結果の途中でも壁打ちしてもらうことで方向性が定まって進捗が早く、正確になります。メンターの方にはかなり時間を割いてもらいました。本当にありがとうございます。

質問をためらわない
上にも書きましたが、比較的大人数の会議でもできるだけ質問するように心掛けました(自分比)。

チーム外とのコミュニケーション
チーム外の方と繋がれる機会(ランチ会など)は全て参加するようにしました。また、唯一の新卒アナリストの方とも1on1の機会を設けてもらい色々進路について相談することができました。

全社でのシャッフルランチにも参加し、そこでエンジニアの方とカジュアルに話したことが施策提案の1つの元にもなったので、やはりカジュアルな場も大事だなと感じました。

研究においても専門外の知識をインプットしておくことや、普段の雑談が思わぬ財産となることも多いので今後とも続けていきたいと思います。

おわりに

結論、参加して本当によかったです。アカデミアか民間就職かを判断する上でとてもいい経験となりました。正直なところ、安定した生活を送れる上に研究の面白さを一部味わえるという点でかなり魅力を感じました。

個人的な反省点として、もう少し周りを巻き込んだりしたかったな、という気持ちはあります。少しお客様で終わってしまった感が反省点として残っています。

アカデミアに進むつもりの方も一度インターンに参加してみるというのは視野を広げる上でも良い選択なのではないかと思います。博士1年次にはある程度余裕があるかと思いますので、双方が可能でしたら博士1年で参加することを強くお勧めします。僕はインターンと研究の両立がとても大変でした。

8月の1ヶ月でしたがアナリストインターンを共にしたkurimotoさんのインターン参加記事もありますので是非ご覧になってください。

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