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暗闇さん、こんにちは

”ハロー、ダークネス”
直訳すると「やぁ、暗闇」とか「暗闇さん、こんにちは」なんて感じになる
その後にはこんな言葉が続きます

”マイ・オールド・フレンズ”
「古き友人よ」と言ったところでしょうか

サイモン&ガーファンクルの名曲『サウンド・オブ・サイレンス』
「静寂」ってことになるのだけれども、中学生くらいのときは、正直何を言わんとしているのか、よくわかりませんでした

「暗闇」と「静寂」
あなたはどんなつきあい方をしていますか?

或いはそれらをひっくるめて「孤独」と言い直してもいいのかもしれない
あなたは「孤独」とどう向き合っていますか?

子供の頃、夜中にふと目が覚める
トイレに行きたいけど、寝る前に見た怖い映画が頭にこびり付いて離れない
「そんなものいるはずもないのに」僕の目には暗闇に潜む何者かを想像していしまう

静寂の中で時計の秒針が時を刻む音と心臓の音かリンクする
不意に冷蔵庫が大きなあくびでもしたかのように唸り出す

僕がその音に気を取られているうちに暗闇に潜む「何者か」が僕との距離を少しだけ縮めた可能性を否定する材料が見つからない

父も母も死んだように眠っている――いつもはもっとはっきりと寝息が聞こえるはずなのに

もしかしたらすでに暗闇に襲われて冷たくなってやしないか
恐る恐る母に触れようと手を伸ばす
黒い髪から真っ白な耳が顔を出す
僕は人差し指と親指でそっと母の耳をつまむ
ひんやりとした感覚が僕を安心させる

触っているうちにゆっくりと血の通う温かみが指を伝わり、僕の凍りつきそうになっていたハートを落ち着かせる

ハロー、ダークネス
僕はちっとも怖くなんかない

少年時代、暗闇に怯えていた僕は、どこに行ってしまったのだろうか?

少年から青年、そして大人へと成長していく過程で、僕はすっかり暗闇に鈍感になっていった

気が付けば、僕は他人の暗闇に引きつけられて、それを振り切るたびに誰かを傷つけたり、自ら傷を負ったりした

だから、僕はずっとずっと距離を取ることにした
人の光の影には必ず暗闇がある
そこに踏み込まないように、そして僕の暗闇がその人の光に影を落とさないように気を使うようになった

ドント・ストップ・ミュージック
静寂が暗闇を連れてこないように、僕は寝ている間も、ずっと音楽を聴いていた
頭の中のジュークボックはエンドレスにレコードを回し続ける
使い減ったレコード針、歪んだ盤面、僕はカリフォルニアにあるホテルに閉じ込めらた先客と1969年もののワインを飲みながら、闇に潜む獣に怯えながら10年余りを過ごした

ハロー・ダークネス、マイ・オールド・フレンド

僕は気が付いた
君はずっと僕の傍らにいて、僕を見ていてくれたんだね
誰かを妬む気持ちも、傲慢さが生む軋轢も、無知ゆえの過ちも

薄暗い気持ちを無視し続ける僕を、君はずっと見ていてくれたんだね
誰にも相談できなかった、僕の過ち
大好きだったあの人に浴びせた酷い言葉
僕は彼女の闇を受け入れたはずなのに、怖くなって逃げてしまったんだ

10代の僕にはどうすることもできなかったのかもしれない
それを相談できるのは君しかいなかったはずなのに、ずっと無視してきたんだ

マイ・オールド・フレンド
僕は自分の中の心の闇を認め、そして他人の心の闇を認めることができた

ステレオのスイッチをOFFにして、静寂の中に安らぎを見つけた
闇にくるまって眠ることがようやくできるようになったころ、僕の明日に、朝日が昇るようになった

僕は自由を手に入れた
闇を恐れず、打ち明けられるようになったことで失敗を恐れなくなった

そしてついに光を手に入れて、暗闇は過去のものになった

賑やかな日々が続き、静寂も暗闇もすっかり影を潜めてしまうと、僕は止まってしまった

僕は静寂を求めて部屋にこもり、そこでようやく君に再会した

ハロー、ダークネス

再び時は動きだし、僕は暗闇と昔話に花を咲かせた
暗闇もどうやら僕に話があったようで、今ではいつも僕の傍らにいて話し相手になってくれる

いつしか暗闇と向き合う時間の方が長くなってきて、僕は少しばかり傲慢になっていたのかもしれない

こんな時にはまた音楽が必用だ
僕は、僕の音楽を奏で、仲間が集まり、祭りが始まった

闇は去り、それを少しばかり寂しく感じながらも、僕はまたいつか闇に出会うだろう

ハロー・ダークネス、マイ・オールド・フレンド
今度は何をして遊ぼうか?

僕にとって、暗闇とは、そういうものです


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