見出し画像

ラーメン屋である僕たちの物語1st 14

「酒と涙とヤクザと酒乱」



「Happy New Year 2004!」


「明けましておめでとうー!」



「今年もよろしく!」



「かんぱーい!」



ら〜めん専門ひなどりも無事、新年を迎えることができた!

昨年は僕の突き抜ける青さのせいで大変な年だった!
(この先も大変じゃなかった年などないことを、この時の僕は知る由もないw)

今年こそ更なる飛躍の年にしよう! 

僕たちは夢と希望の力で満ち満ちていた。


さて、当時改めて驚いたのだが

ここ鎌倉は、三が日の初詣客で


100万人の人出があるという!




商売人として、この機を逃すわけにはいかない!

Tっさんと相談し、ひなどりも正月営業をすることに決めた。


有難いことに、再び横浜ウォーカーよりお声がかかり、正月営業のラーメン屋特集に取り上げていただけることになった。

僕も張り切って「正月限定ラーメン」なんてのも用意した。

正月限定メニュー
蛤塩ら〜めん
「コトノハツシオ」


ありがたい、更なる追い風だ。


そして怒涛の三が日を満席御礼で無事乗り切り、ランチ営業後のひなどりでプチ新年会を催すことにした。

斜向かいのコンビニでお酒とおつまみをどっさり買い込み、店のテーブル席で酒盛りの準備を進める。

ちょうど正月休みの友人も遊びに来ていたので3人で宴を始めた。
(お袋も三が日手伝ってくれていたが、さすがに疲れたので帰るということで参加はしなかった)



「かんぱーい!」



年末年始、クタクタに酷使した五臓六腑と心に酒が染み渡る。

呑兵衛3人のために用意した酒はたっぷりあったが、ビール、酎ハイ、ワインがポンポンと空いていく。


「去年の店長は酷かったですねー」


「いやいや、包丁突きつけるのも相当ヤバいからね!」


「わははははは!」



酔いが回るほどに話も盛り上がり、更に酒が進んでいく。

そして、やはり僕は泣くのだw

「Tっさん、ありがとう…ほんとにありがとう〜おれは〜おれは〜…」


まだまだ泣きグセは治らなかった。

「まーた泣いてるよ、この人は」


「わははははは!」


2人の笑い声が嬉しかった。

「おや、お酒がなくなりましたね」

Tっさんが気づく

「ちょっと買いに行ってきます。他に何かいるものありますか」

すっと立ち上がりコンビニに向かってくれた。

〈あれだけあったのにもう無くなったのか〜〉

僕の視界は涙で霞み、頭の中をグルグルとアルコールが走り回っていた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


買い出しをTっさんに任せて、僕と友人は相も変わらず盛り上がっていた。

「Tっさん、遅くない?」

友人が時計を見て言った。

そういえば、彼が買い出しに行ってから、もう30分以上経っていた。

どこか他の店に買い出しに行ったのか?とも思い、店の入り口から斜向かいのコンビニを覗き見ると、


「…○☆…!」


「…☆×○☆×○☆×○☆×○!!」


「☆×○☆×○☆×○☆×○!!」



「…んだ!……てめえ…!」



コンビニの前で揉め事が起きてる様だった。

外は暗くてよく見えない。

〈正月早々揉め事起こしてる様な
おめでたい奴はどんな奴だ〜w〉

野次馬根性が湧き起こり、よく見てやろうと目を凝らした僕の酔いは…一瞬でぶっ飛んだ。



…げ!!




Tっさんだった。



Tっさんが…



「その道を極めた方」に
絡んでいるではないか!




そう、

彼はミスター酒乱、それも絡み癖のあるそれは迷惑な酒乱なのだ。


しかもその時の記憶が全くない「無双モード」に入るのだ。



そして、どういう経緯で揉めているのかはわからないが、相手はこの界隈でも有名な、僕たちが勝手に「親分(仮)」と呼んでいる鎌倉の金バッヂ付きのヤクザだった。

たまにひなどりにラーメンを食べに来てくれるので、僕たちは面識はあったのだが、Tっさんのあの様子では…




相手が誰であろうと関係ない



「無双モード」覚醒中だ





「ヤバい!おれ行ってくる!」


圧倒的に不足した情報を友人に投げつけて、僕はTっさんの元に向かった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


走って2秒


「はいはいはいはい〜こんばんは〜どうしました〜」


変なテンションで仲裁に入る僕。


「あ!店長!やっと見つけましたよ!」


Tっさんが僕を見つけて、親分(仮)たちを指差す。

〈指差すのやめーい!慌〉

「今日という今日は、あの時のお金払ってもらいますからね!」


再び親分(仮)たちに向き直り言い放った。


「なんだてめえ!さっきからわけわかんねえこと言いやがって!おれを誰だかわかって言ってんのかあ!?」


親分(仮)が凄む。

そしてこちらも…酔っ払いだった。

〈マジで勘弁してマジで勘弁してマジ勘弁してTっさんー!泣〉

「あなたに言ってるんじゃないんですよ!そこの人に言ってるんです!」


Tっさんが親分(仮)の少し後ろに佇む年配のホームレスの男性を指差した。

その蓄えた口髭や風貌から、僕たちが勝手に「仙人(仮)」と呼んでいた男だった。

この「仙人(仮)」、以前ひなどりでラーメンを食べた時に「実は今日は持ち合わせがない。明日持ってくる」と言ったきり、食い逃げしてた輩だった。(ひなどりは後会計だったのだ)


僕は勉強代としてもう諦めていたのだが、その後も「2万円ほど貸してくれ」などと金を無心に来たことがあった。
(当然断った。それから二度と来ていなかった)


そして、この仙人(仮)たちホームレスと親分(仮)が一緒にいるところを、この周辺で僕は何度か見かけていた。

おそらく、何かの「しのぎ」をさせている仲なのだろうと誰かが教えてくれた。


その2人を、運悪く「無双モード」に入っていたTっさんが捕まえてしまったのだ。

「わたしはそんなのしらない」


仙人(仮)がとぼけて言うのでTっさんの怒りに火が着いた。


「あなたね!しらばっくれるんじゃないよ!払いなさいよ!」

「だからてめえ!しつこいって言ってんだよ!
いい加減にしろ!」


親分(仮)がまた凄む。

Tっさんの矛先が親分(仮)に切り替わる。

「あなたね!あなたさっきからうるさいんですよ!だったらあなたに払ってもらいますからね!」

「なんだと!このやろう!」


こうなった時のTっさんは止まらない。

無双モード絶賛覚醒中だ。



これで一切覚えていないというから本当に腹が立つ。

でも今は腹を立ててる場合じゃない。

「えーっと!親分(仮)!すいません!こいつちょっと酔っ払っちゃってですね!
何言ってるかよくわかってないんですよ!」

僕はなんとか場を収めるのに必死だった。



うちみたいな個人店、こういう人たちにしたら潰すのなんて簡単だろう。


潰されてたまるか。


なんとか踏みとどまってきたんだ。


この先の景色を見に行くんだ。


「なんだぁ?ラーメン屋のあんちゃんじゃねえか。そうか、こいつあんちゃんとこの奴か!」 


親分(仮)が僕とTっさんを認識してしまった。

ヤバい。拗らせたら面倒な事態になる。


「親分(仮)!聞いてください!こいつもね!悪気はないんですよ!」


「僕たちもね!ここ鎌倉で頑張ってるんです!
だからこいつも悔しいって気持ちでつい言っちゃったんですよ!」


「僕たちは鎌倉が好きなんです!親分(仮)も鎌倉が好きでしょう!?ね!そうでしょう!?」


僕は必死に捲し立てた。


「ああ、そうだな」


よし!きた!僕の話を聞いてくれるぞ!

「でしょう!だったら、こんなことしてないでこれからも僕たちで鎌倉を盛り上げましょうよ!
ね!そうしましょうよ!」


「お、おお、そうだな。なんだ、あんちゃん!熱いな!」


そりゃそうだ!


僕は必死だ!

よし!もう一押しだ!


「じゃあ仲直りの印にみんなで円陣組みましょう!」


咄嗟に閃いた。



みんなで身も心も一つになればいいんだ!


「店長!ちょっと待ってくださ…」

Tっさんの口を塞いで目で伝えた。



〈お前黙らないとこのまま息の根止めるぞ怒〉


「さあさあさあさあ!みんな肩組みましょう!」

「さて!僭越ながら、コールさせていただきます!」


正月三が日の鎌倉の夜、コンビ二の前でヤクザとホームレスとラーメン屋が肩を組み、円陣を組んでいた。

はたから見たらどんな光景だったのか。


でも、僕は必死の必死だ。


精一杯の大声を出した。



「それではいきます!」




「鎌倉ー!盛り上げるぞー!!」




「おーーーーーーー!!!!」





僕たちの鬨の声が鎌倉の夜空に響く。



聞いてるか、頼朝よ。


現代の武士(もののふ)ここにありだ。




…決まった!

これで手打ちだ!



よし!急いで解散させよう!!



「じゃあ親分(仮)ありがとうございました!お疲れ様でしたー!」





親分(仮)にハグをして、大きく手を振った。



「おう!あんちゃんたちも頑張れよ!」


先ほどとは打って変わって満面の笑顔で親分(仮)が返す。


良かった。

良い酔っ払いで良かった。


ありがとう。親分(仮)。


ありがとう。。。



後ろでまだブツクサ言っているTっさんを押さえ込み、


「よし!飲み直すぞ!」


と連れて店に向かう。




Tっさんには帰って説教する


絶対する。




でも、なんて清々しい夜なんだ。

1月の寒空に大汗をかいた僕を夜風がクールダウンしてくれる。


正月早々ヤクザと分かり合えた素敵な夜だった。


幸先の良い一年になりそうだ!








|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|





突然、後方から大きなサイレン音と警光灯が騒がしく迫ってきた。


一台のパトカーが僕たちの寸前で止まった。

ヘッドライトが眩しくて車内がよく見えない。


どうやらコンビニの店員が、店先で騒いでると通報した様だ。


パトカーが止まるなり


警官が4人降りてきた。


げげ!!



ぞろぞろと降りてきた警官を見て、親分(仮)たちに視線を向けると、もうどこにもいなかった。


僕はまた面倒事が起きるのが嫌なので、そそくさと店に戻ろうとすると…






「あ!警察の方ですか!ちょっといいですか!」

「あなた達がちゃんとしてくれないから我々がこまってるんですよ!」





Tっさんが…




警官に絡み始めていた。



















!!






僕たちの初正月はこうして終わったのだった。



※「実話」です


to be continued➡︎








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?