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大切にしている「調理用語」④ ~蒸す・蒸かす(ふかす)・蒸らす~

 さつま芋や赤飯は、蒸すのか蒸かす(ふかす)のか、どちらだろうか?
似ている調理用語、私たちは経験的に使い分けている。おおよそのイメージはつくが、厳密にいうと別物だ。

最近は、蒸し物料理や蒸かす料理は聞くことが少なくなった。ほとんどの家庭では調理済み食品を電子レンジでチンして食べるようになったからだろうか。

今回は「蒸す」「蒸かす(ふかす)」「蒸らす」について、私のとらえ方を書いていく。
 

■「蒸す」と「蒸かす」のちがい


「蒸す」と「蒸かす」は、似ているようだが違う調理方法として分けたほうがよい。
 
私流にいうと
〇「蒸す」は、水蒸気の熱と食材の水分で温めて食べる調理方法

〇「蒸かす」は、水蒸気の熱と食材の水分で温めるだけでなく、軟らかくなるまで加熱する調理方法

蒸す工程まではどちらも一緒だが、蒸すだけでは軟らかくならない食材に対して、軟らかくなるまで加熱することを「蒸かす」といっている。
 
食材によって「蒸す」と「蒸かす」の使い分けをしているので、食材を意識するとわかりやすい。
 
さつま芋やじゃが芋、かぼちゃは、野菜の中でも水分が少なく食物繊維が多いため、蒸気で軟らかくなるまで十分に加熱しなければ硬くて食べられない。軟らかくなるまで蒸気で加熱することを「蒸かす」と表現している。
後でふれるがもち米で赤飯を作る場合も、蒸すだけでは米が硬いので「蒸かす」になる。

言い換えれば、さつま芋やじゃが芋、かぼちゃ、もち米以外の材料では「蒸す」という表現でよいと考えている。
 

■蒸す


蒸し器に湯をわかすと水蒸気が発生し、その水蒸気の熱で食品を加熱し、食品自体の水分を使って温めて食べられるようになる。

また、蒸し器から出てきた水蒸気が冷えて水になるが、この水が蒸し器の下に落ちて、蒸す水に戻って上下が繰り返される。
食品の表面と蒸し水の間を何度も行き来するため、食品の味や栄養が少し失われてしまう。
水分の少ない食品(乾物の粉を使った例えば蒸しパン)であれば、食品の表面で蒸気の水が吸収されてしっとりと軟らかくなる。
 
「蒸す」調理方法は、食品が焦げないメリットがある一方、蒸す途中で味付けの加減ができないというデメリットもある。
焼売、中華まん、茶碗蒸し、ホイル蒸しなど、蒸す前に調味済みの料理に本来は向いている。

最近では、素材のまま蒸して蒸し上ってからお好みの調味料で食べるのが手軽で人気がある。いろいろな手作りの調味料が工夫されている。
 
《素材別に見る》
〇魚介類や肉類
魚介類や肉類を蒸すと、たんぱく質が凝固し、魚介や肉のうま味と脂肪が蒸気が液化した水と共に出てくる。
その水には味や栄養が含まれているため、できるだけ魚介類や肉類は器に入れたりホイル蒸しにして味や栄養を逃がさないようにするとよい。
 
〇茶碗蒸しや卵豆腐
茶碗蒸しや卵豆腐を蒸す時は、調味した卵液を器に入れて蒸すため、うま味が失われることはない。
卵は、加熱しすぎると卵に気泡ができて滑らかさが失われるため、加熱温度の調整を適切にしたいものだ。
 
〇野菜
野菜の蒸し物は、食物繊維が多すぎず十分に水分が含まれている種類が向いている。例えば、きゃべつ、にんじん、玉ねぎ、ブロッコリー、もやしなど。
食物繊維が多く水分が少ない芋類などの根菜は、軟らかくなるまで十分な蒸気で加熱する「蒸かす」調理方法が向いている。
 

■蒸かす(ふかす)


「蒸す」は、水蒸気で加熱して温めて食べるが、「蒸かす」は、水蒸気で加熱しながら軟らかくして食べられるようにする、という点に違いがある。

水蒸気であまり軟らかくならない食材は、蒸しながらふり水(追加水)をして軟らかくすることもあり、この工程を「蒸かす」のひとつと理解するのがよい。例えば、蒸かし芋や赤飯がこれにあたる。
 
蒸かす必要のある食材は、食物繊維が豊富で水分が少ない、さつま芋、じゃが芋、かぼちゃ、もち米などに限定されると私は考えている。

話の方向が変わるが、こだわる人によると、梅雨時の気候のあいさつで「蒸し蒸しする」とか「蒸しますね」と言うが「蒸かしますね」とは言わないから、「蒸かす」は食べ物に特化した使い方なのだそうだ。
 
〇さつま芋を蒸かす場合の例
さつま芋に含まれている水分のみで、さつまいものでんぷんを糊化(水を加えて加熱すると粘性が出て軟らかく食べられるようになる)することができるが、食物繊維が多く水分が少ない特性があるので、蒸すだけでは硬くて食べにくい。軟らかくなるまで加熱する必要がある。

さつま芋を蒸かすと、芋のアクが下の湯に落ちるが、甘味も流出する。
芋を小さく切った場合はより芋の味が失われるので、芋を蒸かす時はなるべく大きく、丸ごとの方がおいしく仕上がる。
大きいと温度上昇に時間がかかり、糖化酵素アミラーゼの作用(でんぷんに作用して甘みを作り出す)も受けやすく、芋はより甘くおいしくなる。
 
〇もち米や赤飯を蒸かす場合の例
もち米や赤飯を「蒸す」だけだと、米が水分を吸って重く粘り気が出てくるが、吸収する水だけではもち米が「こわ飯」になってしまい、餅はつけず赤飯も硬くて食べられない。
この場合は加熱しながら軟らかくなるまで「蒸かす」ことが大切だ。

途中「ふり水」と言って、米全体に適量な水をふりかけながら、こわ飯の硬さを食べやすい軟らかさにするまで水蒸気で加熱する。
 

■蒸らす


「蒸らす」は、加熱調理後火を止めてから残った水蒸気や熱の余熱で食品の中心まで十分に加熱する場合をいう。
主に料理の最後に余熱で仕上げる場合に使い、煮物や炊飯に使う場合が適している。

ご飯を炊いて火を止めてから、10分ほど蒸らして落ち着かせる時に使う用語。
 
「蒸らす」で好ましくないのは、中華まんじゅうや焼売を水蒸気で加熱後長い時間蒸らしていると、表面が水っぽくなるので避けたい。
 

■雑感


いつも思うが、料理の作り方を伝える時に、伝える側と受け取る側に違いがあると、全く別物の料理になってしまうことがある。
地域や専門分野、習慣などでも言い方が異なるので、互いに確認し合いながら使いたい。

今回取り上げた「蒸す」「蒸かす」は、経験上あまり意識せずに使っているが、その違いは料理の仕上がりに出てくるので、できるだけ適切に使いたい。
 
ご年配の方曰く、炊飯器(保温付き)や電子レンジが出る前は「おひつ」に残った冷や飯は、蒸し器で蒸して、温め直して食べていたそうだ。
そのため、どの家庭にも蒸し物専用調理器(蒸し器、せいろ、中華せいろ)などがあったという。

蒸し器は、鍋と比べて大きく、他の調理方法の代用もしにくいため取り扱いに面倒なイメージがある。とりわけ、大型の蒸し器は家庭では使い勝手があまりよくない。

だが「蒸す」「蒸かす」は余分な油や調味料を使わないヘルシーな調理方法としておすすめなので、簡易な蒸し器をひとつは用意すると便利だと思う。
 
蒸し暑いこの時季に、「蒸す」お話に最後までお付き合いただき、ありがとうございました。

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