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医師の志を感じる医療批判本「9割の病気は自分で治せる」岡本裕

既存の医療には多少なりとも不信感がある。そんななか、医学博士が書いた医療批判本に興味を持ち手に取った。「おいしい患者」というのは、病院経営にとって「美味しい」「カモ」になる患者というくらいの意味合いだ。既存の医療従事者にとっては挑戦的(好戦的)な本。

著者の岡本氏はe-クリニックという主にがん患者からの医療相談を受け入れるウェブサイト上の活動をおこなっている。勤務医・開業医という枠組みから抜けたゆえに語れる本音本だ。

病院の経営事情

もともと岡本氏も「普通の医師」なので、診療を続けるうちに、ショッキングな事実に気がつくようになった。「医師がいなくても治る人は治っていた、治らない人は治らなかった」。それを言っちゃ、おしまいよ、という感じだけど、医師としてこの事実を認めるのは勇気がいることだっただろう。

長年の臨床を経て、岡本氏は、患者というのが3つのカテゴリーに分けられるということに気づく。

カテゴリー1 医者がかかわってもかかわらなくても治癒する病気
カテゴリー2 医者がかかわることによってはじめて治癒にいたる病気。言い換えると、医者がいないと治癒に至らない病気。
カテゴリー3 医者がかかわってもかかわらなくても治癒に至らない病気

(9割の病気は自分で治せる (中経の文庫) 岡本 裕P29)

著者の場合、診療のうち95%がカテゴリー①に属していたことに気づいた。このカテゴリー①の病気を、著者は「喜劇の病気」と評する。「悲劇」のヒロインにはなりっこない病気?だからだ。

「高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満症、痛風、便秘、頭痛、腰痛、不眠症、自律神経失調症」など、これらの病気は原則として自分の力で治せる!と言いきる。メタボに関しては、「単なる食べ過ぎ、運動不足です」と言う。確かに悲劇のヒロインが生活習慣病だったら嫌だ。

冷静に分析していくと、ほとんどの病は、定期的に病院に通う必要が無い。薬も不要、検査も不要、適切な養生によってのみ回復する。しかし、病院経営的には、カテゴリー1の患者を数多く抱え、適当な薬を出し、定期的に通ってもらう(リピーター)になってもらいたい。リピーターがいなければ、経営は成り立たないから。だからこそ「おいしい患者」が必要なのだ。

ちなみに、カテゴリー2や3はできるだけ抱えたくないのが病院の本音。病院の評判に関わるからだ。

おいしい患者

私は過去に整体畑にいたので、小規模ながら著者の言いたいことはわかる気がする。整体の世界で名医と言われる人と整体で成功(経済的に)できる人は違う。商売を考えた時、大事なのはリピーター。名医が一発で直してしまうようじゃ、経営的には困るわけだ。

そこで、簡単には治らず、でもその場では気持ち良い、マッサージもどき整体がどんどん成功?していく定めにあるのだ。ほんと、大人の世界ってのは簡単ではないものなんだよね。

この本の中で非常に評価できるのは「では、自分でどのようにカテゴリー①の病気に取り組むか?」という著者なりの処方箋にもしっかりページ数が割かれていることだ。医療批判に終わっていない。自己治癒力を高める14の方法が書かれている。

前かがみの姿勢をやめる
ときどきゆっくりと深呼吸
食にこだわる
便秘にはくれぐれも気をつけよう
ベースサプリメントを上手に用いる
気がついたら、ときどき爪モミ
ついでにツボ刺激!
温冷浴を習慣にしよう
血流をよくする「ふくらはぎマッサージ」
「易筋功」はとても簡単!
一日6000歩歩こう!
7時間睡眠のすすめ
自己治癒力を高める「海外旅行」と「読書」
薬は控えめにする

(9割の病気は自分で治せる (中経の文庫) 岡本 裕 目次より)

単なる医療批判本に終わらず、等身大の医師(白衣を脱いだ)が書く健康本として評価できる。本書には、岡本氏の本音がぎっしり詰まっている。本当は医師にとってやりがいがあり、やらなければいけないカテゴリー2の患者を集中して診ることができない医師の辛さがこぼれだしている。

カテゴリー1のおいしい患者が多すぎて、カテゴリー2を診る時間がないのだ。既存の医療システムを本気で変えたい!と願う岡本氏だからこその言葉だ。厳しい医療批判本の背後には、本当の医師としての「志」がある。

続編も出ているが、圧倒的に一作目のほうがおすすめだ。思いの熱さが伝わる。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq