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【感想】ズームバック×オチアイ特別編「落合陽一、オードリー・タンに会う」

現代の魔法使いとも呼ばれる落合さんと、オードリーさんが、コロナ禍・コロナ後の世界をどのように見ているかを知りたくて、メモを取りながら見た番組。落合陽一さん、オードリー・タンさん、どちらを見るのも初めてだった。一切の予備知識なしで見たのだけれど、とても楽しめた。

オードリー・タンさんのコメントのひとつひとつに知性が感じられた。オードリーさんは、appleで人工知能SIRIの開発に携わった経歴があり、台湾に戻ってからはIT閣僚として注目を浴びている。コロナ禍の中では、市民が十分にマスクを手に入れられるように、デジタルの力を駆使した政策が世界中で話題になった。

ちなみに、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の可能性は、これまでも各所で聞いてきたが、どの話よりも説得力を持って伝わったのが二人の対談だった。率直なところ、下記の番組で聞いたDXは具体性がなかったが、今回の二人の対談からはDXの明るい将来が垣間見えた気がした。(参考:【感想】NHKスペシャル パンデミック 激動の世界 (3)「停滞か変革か 岐路に立つグローバル資本主義」)。

まさに、デジタル世代と共に生きてきた二人の言葉だから説得力があるのだろうか。

デジタルは時空を超える

二人のディスカッションで、際立っていたのが、デジタルを活かす未来への希望だ。コロナ禍の中で、オードリーさんは、世界中の友達とオンラインで交流をしながら話し合っている。今回の対談もそうだけど、直接会わなくても、オンラインで十分な対談が可能だ。インターネットを介すれば、世界中が同じ時を共有して生きることが可能になっている。
これまでは、どうしても「直接会わないと話が進まない」みたいな呪縛があったけれど、コロナ禍は、デジタルを最大限活用するメリットを際立たせている。在宅勤務を始めた多くの人が「会社に通う」必要性さえないことを知ったしね。

デジタル空間は従来の経済活動さえ変える。これまでは、限られた資源(人的・物的資源)を奪い合い富を獲得するのが経済だった。「物」は限られているのだから、奪い合い(戦争)が生じるのは当然。しかし、デジタルの世界ではそうではない。デジタルデータは無限にコピーすることができる。デジタルの空間では、生産性に関する議論さえ無意味になる。業績を伸ばしているのは、ゲームや動画などのコンテンツだ。これまでの価値観、生産性という観点では価値がないように思える分野こそ、デジタルの世界で利益をもたらしている。

私たちの身体すら、デジタルデータに取り込めば、この肉体に縛られたものではないのだ。いくつもの自分を持つことができる。映画マトリクスのようにデジタルの世界だけで生きていくことも可能になるのかもしれない。すべての活動がそこで行われるなら、これまで生産的と考えられてきたビジネスのスタイルが大きく変わることになるだろう。SFの話のように思えるかもしれないが、今でさえ、かなりの程度、そうなっている。

GDPは意味を持たなくなる

コロナ禍で各国のGDP(国内総生産)はマイナス成長をしている。世界的な大恐慌状態だ。しかし、落合さんも、オードリーさんも「生産性」よりも「長期的な価値」を大切にする時代が来ると断言している。興味深かったのは、国連が2030年までに達成する目標としているSDGsの中で、GDPに触れているのは169のトピックの中で1項目だけだ。だから、GDPについて議論するのは169分の1で良いのではないかという。

大恐慌後の1930年にJ・M・ケインズは「孫たちの経済的可能性」という論文を発表した。その内容によると100年後には、科学の力で「人類の物質的な環境には空前の変化が生じる」こと、「金儲けのための仕事は必要がなくなり、人類は知恵と美徳を追求して生きる時代」について言及がある。

ケインズが予測した時代まで、あと10年。(番組ディレクターが「100年前のケインズの予言についてどう思いますか?」と尋ねた時、オードリーさんが「まだ10年ありますよね。」と言った切れ味がすごいなと思った。)オードリーさんによれば、世界が一致して科学の力(デジタルってことかな)を活用すれば、その予言を実現させることは可能だという。その時には、GDPという指標は意味を持たなくなるだろう。

以前、出口浩明さんの「最後の講義」の中で「GDPにこだわる必要があるんでしょうか?」と質問した女子学生がいた。出口さんは、GDPの大切さをコンコンと話していたが、オードリーさんと話すと旗色が悪いかもと思った。(参考:成り行きの人生哲学【NHK】最後の講義「大学学長 出口治明」)若者たちが主導する、新しい時代が来ているのかもしれない。

危機はチャンス

若い二人の対談ということもあり、コロナ禍をチャンスに変えようというポジティブな意識が伝わってきた。人類の歴史を振り返った時に、革新は、変化の時代に生まれてきた。

例えば、第一次世界大戦やスペイン風邪が流行した激動の時代に、ココシャネルはファッションを切り口に女性が社会に進出していく大きなきっかけを作った。これまで男性のものとされてきた、黒をデザインに取り入れ、上流階級のものとされてきた香水を安価で販売した。危機の時代を逆手にとって、これまでの「呪縛からの解放」をもたらしたのだ。コロナ禍は、特別な災いのように思えるかもしれない。しかし、実は、新たな時代の扉が開こうとしている前触れなのかもしれない。

まあ、とにもかくにも、オードリーさんの頭の良さや切れ味に感動してしまった。お見事。

#ズームバック ×オチアイ #落合陽一   #オードリー・タン #NHK  

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq