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生まれつきの天才はいない【書評】「究極の鍛錬」 ジョフ・コルヴァン

自分よりはるかにすごい人を見た時に、いつも思う感情。この人と自分との違いって何だろうか?「才能」なのか「努力」なのか・・・。他の人の優れた点を「才能」「天才」なんだと思えば、その分、気は楽になる。でも、それでは自分の進歩にはつながらない。

一時期私が真剣に考えた点を深く深く掘り下げた本があった。才能なのか、努力なのかを考えている人がいるなら、ぜひ読んでほしい。数年前の書評記事を自分のPCの中に発見したので再掲載してみよう。

まあ、結局のところは「死ぬ気で鍛錬しろ、プロになりたいんだったら!」ということに尽きるんだけど、それでも、自分の奥底のマグマが目ざめるような気持ちになる。

知識にこそ、力の源泉がある。

「一般的な推論の方法で豊富な内容を持つプログラム(数学の論理力を持つものまである)も、特定の分野で乏しい知識しか持たなければ専門家レベルの仕事をするには何の役にも立たない」と記している。また3人の研究者は結論として次のように記している。」

「知識にこそ、力の源泉がある。」(P138-139)

以前、研究者たちは、偉大な業績は知識にではなく、推論方法や推論能力などに依存すると考えていたという。チェスの場合、人間は一手を考えるのに15秒かかるが、機械は1秒間に数千手をはじき出すらしい。どう考えても機械の圧勝と思えるが、実際には機械は人間になかなか勝てない。

ここで「知識」の重要性が際立ってくる。つまり人間の脳には、スーパーコンピューターよりもはるかに大量の「知識」が搭載されているということだ。チェスの実験も色々あり、セミプロと達人を比べてみたこともあったようだが、判断力や先読みはほとんど変わらず、違いは圧倒的な「知識」だった。

幅広い分野で、また、深い「知識」を持っている人の脳は、達人だけが持つ重要な一手を可能にする。成功者を考えてみると、時代を読む力とか、人脈とか、コネとか、いろいろあるけれど、ある一定期間を超えて実績を上げ続けているひとに共通しているのは、圧倒的な「知識」(または知識欲)だ。

これは否定できない事実だ。行動力ももちろんなんだけど。だからこそ、専門分野の勉強には、決して時間もお金も惜しんではいけない。そして、専門外の勉強には気を付けよう。それは気を散らすことだから。

専門分野で知識を深めることを目標にする。

「しかし、分野固有の知識が決定的に重要であることを考えると、知識獲得にぞんざいな方法とることがどうしても納得できない。その分野固有の知識を仕事から副産物的に得るのではなく、直接得ることを目的とすると、どれほどの違いが生まれるか想像してみればいい。」(P174)

自分が身につけたい技術が仕事上のものである場合、とにかく仕事に精を出していれば自動的にスキルは上がっていく・・・そう思える。けど、それは間違い。知識は能動的に取りに行かねばならない。とくに専門家になるためには、必死で知識の総量を増やさなければならない。

そのため(知識のインプット)の時間も取り分ける必要があるということだ。これは意識の差が大きく出てくるポイントだと思う。結局、専門技術を身につけるには、その仕事自体にも相当の時間や努力を割かねばならない。

たとえば、サイト作成を仕事にしたいと思えば1日10時間以上働くのは普通だろうけれど・・・(汗)、それに加えて、一定の時間を「学ぶ」ためにあてなければならないということ。HTMLを勉強したり、CSSを勉強したり、デザインを学んだり・・。集中的な努力を払ってはじめて、達人の位置へ一歩近づく。

以前、私が取引のあった方は「私は無意味な勉強はしない!」と公言していたけれど(それは、私が何でも「書籍を買って勉強します!」という口癖に対する戒めだったけど)彼は、確かに外注を使ってほとんどの仕事を組み立てていた。自分では一切、端々の知識は得ていなかったけれど、経営やマーケティング、資金の運用に関しては誰よりも学んでおり、知識も豊富だった。

結局、自分が「どの分野」の専門家になりたいのかという軸を決めることだ。1週間は168時間しかないわけで、その中の何時間を仕事にあて、睡眠に充て、飲食に充て、そして、インプット(知識の獲得)のために充てられるかは真剣に考えてみなくてはならない。

十年の沈黙

「作曲を始めて最初の十年やそこらの間は、こうした傑作も外部の人間が注目するものはほとんど一切何も生み出してはいなかった。ヘイズ教授は、この長くどうしても必要になってしまう期間を「 10年の沈黙」と名付けている。何か価値のあるものを生み出すにはこの10年の沈黙がどうしても必要となる。」(P215)

多くの年代から活躍した音楽家を76人選び、いつ最初に注目される作品を、傑作を生み出したかを研究した人がいるようだ(面白い研究!)。結果として「十年の沈黙」という期間があることが発見された。

画家や詩人という別分野でもそのようだ。66人の詩人を調査したところ、55人は十年以上のキャリアの後に、優れた作品をリリースしたという。面白いことにビートルズもそうだという。

ある分野に特化して一万時間練習し続けるという「一万時間ルール」は聞いたことがあったけれど、これに加えて、さらにハードルが高そうな「10年ルール」だ。成功は一日ではないことは分かるものの、10年は長い。今から10年前を考えると、もう今とは思考も嗜好も志向も全く別人のそれだ。打ち込んできたものが芽を出し始めるまでには、なんと長き時が必要なのか。

人間が、能力をフルで発揮できるまでの期間と、人間の寿命を比べると、それはそれは短すぎる。一万年くらい寿命があれば、いろいろな分野を試して、何が自分の特性に合っているかを探せるが、実際には自分探しをしている時間なんて、ほとんどないのだ、人生に。

特定の専門分野で究極の鍛錬

究極の鍛錬の要素は、次の5つだ。

1.実績向上のために特別に考案されている
2.何度も繰り返すことができる
3.結果へのフィードバックが継続的にある
4.弱点を絞り込み、集中して努力することが求められるので精神的につらい
5.けっしておもしろくはない訓練内容

厳しいなぁ。これだもん。

ほとんどの人がプロにはなれないわけだ。そして、結局、なにか一つの分野に絞らなければならないんだから。自分探しをいつまでもやっている暇はないぞ~。しかし、これって、考えようによればだけど、一つのものに集中しちゃう発達障害(ASD)に偉人が多い理由とも関係しそう。発達障害の才能の凸凹は、苦手なことを一切しない力になるから。得意なことしかできないからこそ、その分野で集中的に知識を蓄え、実践できるのだ。

ふむふむ。「究極の鍛錬」を読むと目が覚めるような気持ちになると同時に、この本に10歳くらいの時に出会っていたらという後悔の気持ちが同時に湧き上がってくるなぁ。

まあ、その時には、読めないけどね。

#究極の鍛錬 #読書感想文 #書評 #才能か努力か


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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq