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目標を変えるべきか?【書評】諦める力~勝てないのは努力が足りないからじゃない 為末 大

為末氏は100メートルから400メートルハードルに転向した経験があり、そこで「諦める力」を学び取った。目標を持ったり、希望を持ったりするのは間違っていないけれど、自分には手の届かないものを目指し続けるのは、無意味なストレス。今の自分の目標が、自分の持っている適性の延長線上にあるのかを知ることが必要なのだ。

とにかく玉砕覚悟で目標達成を謳う世界で、為末氏のスタンスは異例なものだ。それでも、メダリストになった為末氏だからこそ語れる成功論がある。

勝ちやすいところで勝つ

「決勝に残るレベルではなく、本当に金メダルを狙うのなら、陸上以外のスポーツを狙ったほうが間違いなく勝率は上がるだろう。金メダルに軽重があるわけではない。 しかし、金メダルを獲得できる確率や金メダルを取るために必要な費用には、種目によって大きな差があるのは事実だ。だとすれば、取りやすいほうで勝負してもいいのではないだろうか。」
「自分の限界を認めることに対しては、激しい抵抗を感じた時期があった。しかしやがて気づいたのは、どこかのタイミングで「自分はこんなものでしかない」ということを一度受け入れなければならないということだ。「このぐらいが自分なんだ」ということを知る、といってもいい。 自分という存在のままこのフィールドで勝てるのか。それとも、もっと楽に勝てるフィールドが別にあるのか。僕はこう考えて、勝負する競技を思い切って変えた」

「花形」で勝負しようと思うと、結局、勝ち残ることはできない。そうであれば、種目を変えるのも知恵。これは中国の故事を思い出すよね。ビジネスの世界で言えば、ランチェスター戦略などもそう。(参考:鶏口となるも牛後となるなかれ -)

実は誰もが分かってはいるけれども、そこをスパッと切り替えられる人は多くはない。上に、上に、誰よりも上に、という風潮の中では、華々しく脚光のあたる世界に関心が集中するのだけれど、一見地味に思えるところが、実は自分が本当に活きる場所だったということもあり得る。為末氏は、これを「勝負の世界の入り口」という言葉で表現している。

「今の自分の力で「やりたいこと」をやるのか、それとも「できること」をやるのか、どちらを取るかということだった。熟考した結果、最も諦めたくなかったのが「勝負すること」だった。 自分のことを正確に認識し、その自分が通用する世界をきちんと探す。僕はこれが勝負の世界への入り口だと思っている。」

「そこにロマンはあるのだろうか?」「手が届かないと思っても、ひたすらそこにチャレンジし続けるべきなのではないか?」「夢をあきらめてはいけないのではないか?」そういう「神話」が優勢な中で、比較的近年まで活躍したアスリートが語る独白に胸を打たれる。真実の響きがある言葉なのだ。

それでも僕は夢を見る

現実は為末氏の言う「諦める力」に軍配があがりますが、「夢をあきらめないで」のほうが、一般的にウケはいいだろう。しかし、諦めることは、妥協ではないのだ。

「ハードルを全力で飛ぶと、自分で思っているよりももっと高く飛べるんだということもわかるし、今の自分では飛べない高さがあることもわかる。人間は本気で挑んだときに、自分の範囲を知る。手加減して飛べば本当はどのくらい飛べたのかがわからない。だからいつも全力でやってほしいと子どもたちに言っている。」
「飛べるかどうかわからない高さだから引っ掛けて転ぶこともある。そこで初めて自分の範囲を知る。これは飛べる高さ。これは飛べる幅。そこがわかってくることが大切なのだ。・・・全力で試してみた経験が少ない人は、「自分ができる範囲」について体感値がない。ありえない目標を掲げて自信を失ったり、低すぎる目標ばかりを立てて成長できなかったりしがちである。転ぶことや失敗を怖れて全力で挑むことを避けてきた人は、この自分の範囲に対してのセンスを欠きがちで、僕はそれこそが一番のリスクだと思っている。」

「諦める力」を発揮することは、チャレンジしないということではない。チャレンジした後に、自分の実力を冷静に見極め、時に「諦める」ことが必要ということ。それを本当に「体感」するためには、全力で挑まないとならない。そうでなければ、本当に自分にとって届かない高さの目標なのか?すらわからないのだから。

本当に一生懸命、限界を超えるくらいの努力をした人だけが「諦める力」を持ちえるのだ。為末氏の本には名言が多いなぁ。

そういえば、以前書いた記事。自分の考えだと思っていたけど、為末氏の言葉が何となく残っていたような気がする。

#為末大   #目標設定 #諦める力 #あきらめる #目標を変える


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読書感想文

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq