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生化学者が暴く健康食品マーケティングの罠「グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則」山本啓一

生化学者と一般消費者では、CMや宣伝を見るときの見方が違う。いかに、巧みに宣伝がつくられているかが分かる。効能を訴えない範囲で「効きそう」と思えるように作られているのだ。

「グルコサミン」の分子は吸収されやすいように小さくなっているが、それほど小さいと体に及ぼす効果は無いも同然なのだ。もちろん、この本はグルコサミンのことを主に取り上げてる本ではない。グルコサミンを例に出し、健康食品の宣伝・マーケティングを冷静に分析した批判本だ。

健康本の中でもこういう本が出てくると、消費者としては助かるよね。ただ、ワクワク感はないので、こういう本は売れない(本当に必要な人の手には渡らない)だろう。

マーケティングに踊らされる消費者

実は研究者の間ではすでに効果が怪しいと言われつつもテレビなどで特集されて、消費者の間では爆発的に流行してしまう現象がある。センセーショナルな論文が一度発表されてしまうと、メディアは批判的な論文などは取り上げない傾向がある。また、追試論文も先入観を反映したものになり、しばらくは、その効果を裏付けるような論文が多くなる。

しかし、時間がたつにつれて、真実が分かるようになる。だから、ある意味で「最新」の健康法には罠が多い。

「そして別な実験方法で検証してみて、おかしいと気づく研究者が増えてくると、最初の間違った論文は、しだいに無視されるようになります。こうした間違いはなかなか一般の人には知らされません。学会ではすでにおかしいと囁かれている実験結果が、大手を振ってマスコミなどを賑わすことがあるのは、この時間差のためです。」

グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則 (PHP新書) Kindle版
山本 啓一 (著)

特にマスコミは、面白おかしい情報を煽り立てるが、正しい情報(修正情報)をちゃんと取り上げることは稀だ。著者は例として、ワインのレスベラトロールや、サーチュイン遺伝子を取り上げている。どちらもアンチエイジング界ではよく聞くワードだが、研究者たちの間ではすでに冷めた評価しか無いのだとか・・。

野菜神話が崩壊する話

著者が挙げる別の例として、野菜=体に良いものと考えがちだが、冷静に事実を見ると、野菜は必ずしも体に良いものではないという話を紹介したい。植物には自分の身を守るための毒物があり、ほとんどの植物は食べられるものではないという。

「私たち動物にとって、植物は基本的にほとんどすべてが毒だと思わなければいけません。現在栽培されている野菜のほとんどは、植物のなかでも毒の少ないものをさらに品種改良してつくり上げたものなのです。地球上には、およそ二〇万から三〇万種の植物が存在するといわれますが、日本で栽培されている野菜は、そのなかのたった一五〇種ほどです。安心して食べられる植物はそれぐらいしかないのです。

さらに、そうした野菜でも、青虫などから身を守るために殺虫成分をかなり含んでいて、発がん性の物質をもつ野菜もあることがわかっています。つまり野菜が身体によいというのは、野菜に含まれる毒物より、人間の身体によい成分のほうが少し勝っているだけなのだと考えたほうがよいのです。」

グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則 (PHP新書) Kindle版
山本 啓一 (著)

野菜ブームで、野菜のパワーばかり取り上げられるが、冷静に考えなきゃいけないね。自然に育った野菜を食べてその毒物で絶命してしまうリスクのほうが、農薬で健康を害するよりも大きいのだ。毒物を含む植物を何とか安全に食べられるようにしようと奮闘してきた人間の歴史・科学(化学)の発展も認めなければならない。

MEC生活を始めてから、私はいたずらな野菜信仰はないのだけれど、改めて「野菜=健康」という図式も唯一の正解ではないことを知った。

ちなみに、著者の食生活は、野菜食というよりタンパク質多め。お肉多めだそう。というのも、ビタミンは野菜より肉に多いから。成分量をちゃんと見るとこれも事実。

「玄米は、ビタミンがとても多いといわれていますが、丼一杯の玄米ご飯を食べても、たった一切れの豚肉に及びません。・・・動物の肉は、私たちの細胞とほぼ同じ成分を含んでいるので、食料としては理想的なのですが、動物を補食するのは容易なことではありません。そこで人類は、毒が少なく、かつ動かない植物を食べるという農耕の道を選んだのです」

グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則 (PHP新書) Kindle版
山本 啓一 (著)

米ぬかにはビタミンが豊富に含まれていると言われるが、実際には豚肉一枚に負けてしまう。もちろん、著者は野菜軽視論者というわけではなく、一般的な思い込みと事実(ファクト)を比べるため上記のような例を出している。そして、興味深い推論までたどり着く。

これは、ほとんどジョーク(なんでも飛びついてしまう我々への皮肉)のようだけど・・・この本を書くために調べていて、気が付いたビタミンの効率的な摂取方法があると論じている。

「私たちが食べる肉の赤身の部分は、動物の筋肉です。筋肉はビタミンCを消費する組織なので、通常ビタミンCはあまり含まれていません。ところが、『日本食品標準成分表』(文部科学省)を調べていたところ、ハムやソーセージ、ベーコンには、大量のビタミンCが含まれていると記されているではありませんか。このビタミンCは肉の色をよくするための発色剤として入れられているのですが、その量は一〇〇グラム当たり一〇~二〇ミリグラムで、グレープフルーツやミカンのビタミンC含有量に近い値なのです。皮肉なことに、現代では加工した肉類を食べればかなりの量のビタミンCを摂取できるというわけです」

グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則 (PHP新書) Kindle版
山本 啓一 (著)

この点だけに注目すれば「加工肉を食べてビタミンCを摂ろう」という宣伝・マーケティングが行われてもおかしくない。ま、これはほとんどブラックジョークの部類。ただ、こういう考え方も成り立つということが分かるう。野菜や果物を摂れば、ビタミンが取れるという宣伝への痛烈な皮肉だ。

*もちろん、加工肉には別のリスクがある。

感想まとめ

私たちが、最先端の論文を読みこなして、健康情報を蓄えるのはまず無理でだけれど、何年も、何十年も言われてきて、時の試練に耐えているものは、比較的信頼できるかもしれない。先日、丸元淑生氏の古い本を読んでいて、当時からオメガ6が多すぎてオメガ3を増やすように言われていたことが分かった。

加えて、常識的なものをと非常識なものを見抜く目を培うことも必要。自分の体の声も聴きこなすことも必要だ。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq