たださっぱりするために、美容院へ行く

半年ぶりに、髪を切った。

どんなに短く髪を切っても、気づいたら伸びている。

束ねれば鬱陶しくない、日常生活に支障なしとは言っても、毛先が暴れに暴れ、増えに増えたこの髪をどうにかせんと、美容院を探した。

そう言えばここ数年、同じ美容院に何回も通うということをしていない。

美容師さんにやたら気を遣ってもらうあの空間が苦手で、できれば自分という人間を覚えられたくないし、覚えたくない。

会うのも1回限りだと思うと、会話もそこまで苦痛でないかな。

今回もネットで適当に探して、ほどほどいい感じに切ってもらおう。

＊　＊　＊

自転車で10分ほど走ったところに、当日予約可能なお店が見つかった。

即予約。即出発。

前々から予約しておく、という行為も苦手だ。できるならふらりと立ち寄って切ってもらえるところがいい。リスクが大きく思えてそんな度胸はないけれど。

つくづく美容院向いてないなと思いながら漕いでいると、すぐに到着。

道中見えたケーキ屋さんがキラキラしていて素敵だったな。上の空で入店、席に通され、滞りなく切ってもらった。

＊　＊　＊

約10日後、家に某美容院からハガキが届いた。

「ヘアスタイルのカウンセリングとシャンプー・トリートメントを無料でご利用いただけるサービスのご案内」

無料には絶対裏がある。とは思っていても、髪を切ってもらった日に美容師さんに乗せられて日時の予約、してしまったんだよな。

予約も同じ美容院も苦手だ、でももう知り合ってしまった人との約束を破って裏切ることはしたくない。行くしかない・・・。

人生で初めて、1ヶ月以内に同じ美容院へ行くことになる。

＊　＊　＊

その日はすぐに来た。

疑っていた無料の裏側はシャンプーの宣伝くらいで、強制物販も強制次回予約もなかった。

丁寧に洗ってもらえて、乾かしてもらえて、いい気分だ。

なんだ。いい美容院だな。

そんないい美容院にタダで頭洗ってもらっておいて、もう行かないのはなんだか気が引ける。

「またお待ちしております（笑顔）」って言われたしな。

とりあえずまた髪が伸びたらもう1回だけ、切ってもらおうかしら。

同じ美容院、苦手克服のチャンスかもよ。ふふふ。

なんて考えている自分がいる。

こうして、都合のいい客がひとり、増える音がした。