見出し画像

飲み会での趣味の話どうすべきか問題

私は趣味が多いほうではない。

普段はその少ない趣味で充足できていると思っているから、そのことを不便だとか不満だとか感じることはない。

しかし、飲み会の場となると、途端にそうも言っていられなくなる。


知り合って日が浅い人もいる飲み会だと、「趣味は?」という質問をされるときがある。

そのとき答えられる趣味がなくていつも困るのだ。

少ないことはもとより、数少ない趣味のひとつである「読書」を迂闊に挙げてしまうと、「なに読むの?」と訊かれることを経験的に学んでいるからだ。


私はこの質問が大の苦手だ。

理由は単純で「なに」の指示内容があまりにも漠然としているからだ。

小説やエッセイといったジャンルを言えばいいのか。

作家名を答えればよいのか。

どの粒度で答えればよいのか分からず、答えに窮してしまう。


また、「誰を」と訊かれたときも反応に困ってしまう。

こういうときに、ベストセラー作家以外を挙げても場がしらけることを経験的に知っているからだ。

求められている回答は、東野圭吾か湊かなえか池井戸潤ぐらいなのだ。

そして、そういった作家を読んでいない私はまたしても答えに窮する。

長嶋有と答えるのは、絶対に違う。


あるいは、自分から本の話を広げてみるのも良いのかもしれない。

本の内容や作家の代表作について、面白さをプレゼンテーションするように滔々と語ってみるのだ。

そうすることで場が持ち上がるかもしれない。あるいは、そこから話題が広がるかもしれない。


しかしどういうわけか、「なに読むの?」と訊かれる時に限って、直近で読んだ本の内容が飲み会向きでないことが多いのだ。

反出生主義とか、加速主義とか。

これを出すのは違うかな――そう意識してしまうと、もうどう答えればいいのか分からなくなる。

そして困った挙げ句に結局「まあ、フィクションを、適当に」なんて言ってしまってしらけてしまう。

だから私は「なに読むの?」の質問が苦手なのだ。


もっとビジネス書とかを読んだほうがいいのだろうか。

あっと驚かせるような専門書――生物の進化の法則についての本とか――を読めばよいのだろうか。

あるいは、もっと飲み会向きの趣味を持ったほうがよいのだろうか。


私の趣味と言えば、ほかには文章を書くことと、音楽を聴くことぐらいだ。

文章を書くことと言えば、なに書いてるの? と深掘りされるだろう。

音楽鑑賞と言えば、「最近の歌手はわからないなあ」が飛んでくる。

だからそれらは挙げたくなくて、だから私は飲み会で趣味の話ができない。


飲み会のために、他人のために趣味を作るなんて馬鹿げた話だと思う。

しかし社会において、無趣味な人はお説教の格好の餌食になってしまうことを、私は経験から学んでしまった。

悲しいことに、これは私にとって死活問題なのだ。


飲み会と趣味の問題は、今日も私を困らせる。

文化系男子の苦悩は尽きない。


【今回の一曲】

忘れらんねえよ/ドストエフスキーを読んだと嘘ついた(2012年)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?