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【サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ】それは静かな騒音…。

・突如として難聴障害に悩まされる事となった男性を描く『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』をバリアフリー字幕版で鑑賞して参りました。

・前評判が良いのは知っていましたので、どんな物やらと挑みましたが、期待を十分に上回る素晴らしい作品でした。突如として不幸な状況に苛まれて、荒んだ自分の心に対する折り合いのつけ方をリアリティのあるタッチで描く秀逸な傑作だ。音響の素晴らしい演出により、耳の聴こえない人の苦悩を擬似体験出来るのもこの作品最大の魅力といえる。今回鑑賞したのがバリアフリー字幕というのもあり、BGMや環境音に対する説明字幕が付いての鑑賞が出来たのも特殊な没入感を味わえる貴重な体験であった。

・こういうハンディキャップを描いた映画は最終的にはハッピーエンドで締める作品が多いのですが、本作はハッピーエンドやバッドエンドという概念には囚われない非情な現実味を帯びたままに締まる作品でした。

・メタルバンドのドラマーとして活躍していたルーベンは突如難聴となり、ごく最近まで存在した日常の音の喪失に茫然自失となる。そんな彼は共にバンド活動に励んでいた恋人であるルーと一旦離れて、聴覚障害者の支援グループで暮らす事になる。荒んだ彼の心の行き先は何処に答えを見つけるのか…。

ネタバレ含みます!

・彼は支援グループでの活動により、同じ聴覚障害者の人達や子ども達と触れ合い、共同生活を営みつつ手話などを身につけていく。ルーベンは少しずつ、自分の心と向き合い精神の落ち着きを取り戻しつつあった。しかし、ルーベンは最後まで希望を捨てきれず頭にインプラントを入れて音を聞こえるようにする手術を選んでしまうのだ。その際に支援グループの責任者を務めるジョーから「自分達の団体は聴覚障害を受け入れた上で生きていく事が信念にある。聴覚を取り戻す行動はルーベンの選択として尊重するが、他の人の影響も考えなければいけない為に君はもう此処には居られない。」と辛い表情で言われてしまう。ここが凄く良いシーンなんですよ、後の展開を踏まえてジョーが言うこのシーンでの一連の言葉の重みがこの映画の最後にずしりとのしかかってくるのだから。

・結果としてルーベンはインプラント手術に成功するも、残念ながら元の様に音が聞こえる事もなく。街並みの煩い喧騒の音は激しく歪んで聞こえるし、人の多い場所では会話すら困難であった。静かな場所で対面同士に会話するなら支障は無いが、かつての日常生活をもう取り戻す事が出来ないのは明白であった。そんな現状で再会したルーともお互いどこかがズレてしまっているのも認識せざるを得なかった、2人の間に愛はまだ確かにある筈なのに…。結局ルーベンはルーの家から荷物を纏めて立ち去ってしまう。そんな彼は騒音から逃れる様にインプラントの補助機を外して、ベンチで1人佇む佇む。寂しく孤独に映る彼はもう静寂と付き合い生きていくしかないのだ。現実に起きた凄惨な事象を受け入れて、飲み込み噛み砕き、それを淡々と消化するしかないのだ。

・人生とは時に冷酷で、起きてしまった事は仕方ないと言いたくなくても言う以外に選択は無い物なのだ。しかし今のルーベンは病気を発症した当初とは違う。支援グループで得た経験は既に彼の財産となり糧となり、今後の人生の骨組みを支えてくれる基盤と成り得ているのだから。この映画ではルーベンの顛末がどうなったのかまでは描かれていないが、恐らく彼は新しい自分の道を見つけていくに違いないであろう。私はそう信じています。

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