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【007/ノー・タイム・トゥ・ダイ】さらばジェームズ・ボンド、さらばダニエル・クレイグ

・ダニエル・クレイグ演じる007シリーズとしては第5作目。他の一作完結のボンドシリーズとは違い、連作である事に拘って来たダニエル版ボンド。その最後の物語であり引退作となる『ノー・タイム・トゥ・ダイ』を鑑賞して参りました。

・第1作目である『カジノ・ロワイヤル』の頃より、ダニエル・クレイグ版は従来の007シリーズとは全く違う事を行い観客をビビらせてやろうというアンチテーゼ的な姿勢が見て取れました。そして本作である『ノー・タイム・トゥ・ダイ』もその信念を最後まで貫いた作品であったといえましょう。

・物語のアクセントの一つではありますが、数年前に噂された次のボンド役は黒人になる〜女性になる〜といった諸々の話題をこういった手で絡めてくるのかと思わず膝を打ってしまいましたね。あと、これ意図的なのか偶然なのか分かりませんが未だなお世界を苦しめるコロナウィルスを早期させるようなシナリオだったのには少々驚きでした。

・鑑賞前から懸念していた唯一のポイント、それは歴代最長の163分という尺。地味目な物語を編集カットの活用でスピード感ある作品に仕上げた2作目『慰めの報酬』は106分、他三作は大体150分未満。比べると本作がどれだけ長いかよく分かるでしょう。しかしながら本作でサフィンを演じたラミ・マレックはインタビューにて長尺映画である事の魅力を保証すると言っていました。結果としましては成る程納得、今回のドラマ性を映像化するには最善の選択だったのだなと感じました。前作に当たる『スペクター』は長い割には少しばかり消化不良といいますか、物語のピースが埋まる作品にしてはちょっと物足りないかなぁみたいな。逆に『スカイフォール』は上手くシナリオとアクションを噛み合わせており、満足感の高い映画だった印象。そして本作はそれ以上にアクションとシナリオによる完璧な調和。ワンカット風で荒々しくも美麗な戦闘シーン、ダニエル・クレイグ版の終焉を飾るに相応しい締め括りを体験出来る代物でした。

・『スペクター』も大概総決算らしいシナリオでしたが、今回はそれを上回ると言いますか…その残った問題を綺麗に締め上げる傑作だったと思います。少しばかり消化不良であった宿敵ブロフェルドとの真の決着や愛した彼女マドレーヌとの恋模様の結末、そして彼女が隠していたもう一つの秘密に対する答え。全ての終わりを迎える為のエピローグが今作であったのだと思います。

・過去の遺恨とは毒のように人を蝕み、それはまるで呪いのように人生に絡みつく因果だ。ボンドやブロフェルド、最後の敵として登場するサフィン、その他の大勢の人間達も皆そうだ。人々が組み上げた秩序は脆く、たった1人の手によって混乱に陥る事もある。しかしながら、たった1人の手によって救われるのもまた物語としての現実だろう。

・他のボンドよりも、繊細で暗く病みがちなダニエル・ボンドは美しくない世界に対して孤独と寄り添いあって挑み続けた。若く猛るような熱さを爆発させながら007を襲名した最初の頃から、数々の経験と深い慟哭に耐えながらも時にはアルコールに溺れ、何度も道を見失いながらも結局は誰かの為に戦ったジェームズ・ボンド。世界は彼に優しくなかったかも知れないが、彼に優しくしてくれる人達は確実に居た。なんだかんだでいつも協力してくれるマネーペニーやQ、M。ボンドが特に心を許している唯一無二の親友フィリックス・ライター。そして彼が愛し、彼を愛した女性達。

・ボンドは無差別的な恐怖と怨嗟を撒き散らす悪党達の前に何度も立ちはだかったが、その旅路の終幕が彼に何を与えたかは偏に語れない物だ。彼の人生に救いや赦しはあったのか?殺しのライセンスの名の下に人を殺めて人を救い続けた人間の生き様には何が待っているのか?是非、劇場で確かめて欲しい。

・次のボンド役は誰が射止める事になるのかは分かりませんが、次のボンドそして次のボンドの世界がどうなるのか。今から楽しみで仕方ありません。

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