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【プリズナーズ・オブ・ゴーストランド 】俺のヤバさは放射能並み!!!

・園子温監督ハリウッドデビュー作、ニコラス・ケイジ出演。あまりのヤバさに(悪い意味)話題沸騰の激薬映画を見て参りました!!!

・昨今のニコラス・ケイジと言えば低予算映画だろうが何だろが節操なく出演し、その怪演ぶりを見せつけるとんでもない俳優というイメージが板についております。しかしそんな作品群の中でも結構大当たりがあったりするもので、色々と漁ってみるのも楽しい物です。『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』とかおすすめ。

・そんでもって『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド 』について、そろそろ本題に入りましょうか………。

・端的に申しますと「滅茶苦茶つまらんけど、ギリギリ鑑賞に耐えうる映画」です。ニコラス・ケイジが主役だから何とか成立している作品。

・舞台はサムライタウン、本編では語られていませんが明治維新が起こらなかった日本という設定らしい。アメリカでも西部路線が廃れなかったらしく、日本をウエスタンな連中が牛耳る世界観になっております。なのにスマホとか車とか現代的な物も登場する始末。こんな高度な機器が存在するにも関わらず、生きる人々の知能は何故か異常に前時代的。こんな齟齬を齎すなら、現代という設定は要らないのではと勘ぐってしまいますが、ビジュアルとして現代面が映える所も多少あるのでそこは目を瞑ります。その上こういった設定にプラスして程度の低いマッドマックスな世界観が合わさってると来たら、まあ燦々たる酷い有り様な訳ですよ。

・ただニコラス・ケイジがママチャリに乗ったり、片玉爆破で発狂したり、カタコト日本語を喋ったり、ガンギマリ顔を画面いっぱいに見せつけたり、剣舞したり、ニコラス好きに堪らない作品である事には間違いありません。ただそれだけですが…。

・しかも舞台劇で映える様なタイプの演出を要所に散りばめている所為で、薄寒いくだりが非常に多くて失笑してしまう場面もしばしば。むしろこういう酷さは貴重な体験かもしれません。全体的にテンポの悪い作りにもなっているので説明口調でうだうだと会話するシーンがかなり悪目立ちします。スージー演じる中屋柚香の演技も過剰すぎてちょっとなぁ…と、不気味な世界観にマッチしているのがまだ救いか。

・日本人監督が日本を馬鹿にする為に撮ったと揶揄されても仕方がないような程、奇妙で珍妙な世界観の日本像が体験出来る本作。知っている様で知らない異国を見ている感覚は正に悪夢と形容しても良いでしょう。

・デコトラ、廃墟、放射能、遊廓、侍、切り捨てごめん。似非文化な世界の映像を楽しむ作品としてなら一興あるやもしれんといった塩梅。

・アクションについても期待しないで下さい。PG12が冗談だと思うくらい、グロくも無いしょぼさです。強いて言えば坂口拓が演じる剣客ヤスジロウの剣劇ですね、普通にカッコいいです。

物語について語るのでネタバレ嫌な人は下記は注意です。この映画にそれを気にする人は多くないでしょうが。



・物語の主人公であるニコラス・ケイジはチンケな犯罪者であり、相棒のサイコと共に強盗を行うも失敗。相棒であったサイコは苦楽を共にした仲間であったが精神不安定な一面があり、強盗の最中に子供を殺そうとした為にニコラスが止めに入り計画はグダグダ。子供は死に多数の犠牲者が生まれ、ニコラスは逃亡、サイコは逮捕。そんなこんなで時は流れ、ニコラスは座敷牢に何故か捕まっていた。サムライタウンを牛耳る悪の保安官ガバナーは逃亡した孫娘バーニスを捕まえるべく、ニコラスを脅しその任務を命じる。逃亡防止の爆弾スーツを着せられたニコラスは渋々、バーニスを探す旅に出る事となった。そして彼はゴーストランドと呼ばれる囚人が暮らすマッドマックスチックなスラムへと誘われる。時が止まった場所ゴーストランドでバーニスを発見したニコラスであったが、彼は周囲の人間から予言の男だ、ヒーローだ、などと囃し立てられる。ニコラスはヒーローになれるのか…この物語の結末は一体…。

・長々書いてもアレなのでストーリー概要として、ここまでにさせて貰います。ここからは考察、意味深的な描写が多いので多少説明付けていこうかなと。

・ニコラスに対して、当初否定的であったバーニスは何故突如親切になったのか?バーニスが不遇な境遇に陥る羽目になった原因をニコラスが担っていた事もあり、彼は怨敵の1人と言っていい存在だったのにも関わらずです。しかしながらどんな手を使っても自分を支配していたガバナーに復讐をしたい、自分の中の止まったままの時を進めたいという感情が加速し、彼女は閉ざした心の殻から声を取り戻しニコラスをヒーローにするべく協力し始めたのだと考えます。

・ゴーストランドのマネキン。ここには人間にベタベタと作り物の皮を被せるハット姿の男(栗原類は私服で出演してるの?)が居ます。彼の行為とその作品に成ろうとする人達の意味とは?マネキンは止まった時を象徴する良い例です。その時の姿と心をそのままに全てを凍結させてしまうのは諦観、圧政に屈して個を捨て去るという事に美を見出す自傷行為と言えるでしょう。

・ゴーストランドには大きな時計塔が存在し、住民達は秒針にロープを括り付けて時を止めようと必死です。ガバナーが討たれるまで時を動かしてはならないと盲信しながら。これは彼等の圧政に対する持たざる者の小さな抵抗と捉えるべきでしょう。彼等は全てを諦めるような口調をするも、その実境遇が変わる密かなる期待を求めていたのです。その証拠としてガバナーが討たれ、時が進み出した瞬間に時計塔はドカンと音を立てて爆破されました。最初から爆薬を仕込んでいたという事は、悪しき物が消え去り祝える時が来ると信じていたからです。

・それでもってゴーストランドを取り囲む謎の存在の正体とは?彼等の正体は作中でも仄めかされてた通りガチの幽霊です。じゃあ何故彼等はゴーストランドに人々を幽閉していたのか?その理由は庇護、それに尽きます。ガバナーが存在する外界では彼から直接的な被害を受ける可能性がありますが、ガバナーすら手出しの出来ないゴーストランドに居ればガバナーの間接的な影響を受けるだけで済むからです。箱の中で生きるのは死んだも同然かも知れませんが、幽霊集団は人々を箱庭に閉じ込める事で時を止め生かそうと考えていたのだと思います。

・幽霊達のリーダーになっていたサイコ。サイコは受刑者輸送中に放射能事故に巻き込まれ、ゴーストランドの霊と化した存在です。生前の彼は罪を犯し、人々を虐げていたのに、何故こんな事を?恐らくそれは贖罪に尽きます。彼は自らの行いに思うところがあり、償いとしてガバナーの手から少数でも守ろうとしたのではないでしょうか。


・ニコラスことヒーローも亡霊に悩まされます。それはかつての自分が傷つけた人達だ。咎人である自分が誰かを救えるのか?救っていいのか?彼もまた自らの贖罪を求める存在となった。

・ヤスジロウは何故自らの味方を斬り捨てながらもヒーローに戦いを挑んだのか?それは彼もまた贖罪という死に場所を求めていたからでしょう。ヤスジロウはガバナーに妹を人質にされながら、手となり足となり同胞をその刀の錆に変えていきました。彼の魂は既に汚れ切り、清廉潔白とは程遠い物です。しかしその状況はヒーローと同じだ。だからこそ、自分の認めた男であるヒーローに対して一心不乱の男と男の差し合いを望んだのでしょう。金的のギャグシーンは絶対に不必要でしたが。

・言葉足らずな描写の数々に対して色々と良心的な解釈すればこんな所でしょうか。もっと手腕のある監督や脚本家であれば、この設定でも殊更面白い作品を作れる事は間違いないでしょう。しかし残念ながらこれが現実。

・まあ何と言いましょうか、予算がそこそこにあってセットもそこそこに凝っていてエキストラが多くて役者も良くても、微妙〜な最悪映画は得てして誕生してしまう訳です。本作で活躍したニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、坂口拓、etc。スタッフ陣も勿論監督も作品の評価はどうであれお疲れ様です…。

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