ナナさんのこと

中学生時代、私はナナさんに恋をしていた。
女の子に恋をする事に全く抵抗はなかったのは、女子校だったからだろうか。小学生までは好きな相手は男の子だった。
ナナさんと同じクラスになったのは確か中2の頃で、2年間一緒だった。一目惚れではなかったと思うけれどどのタイミングで好きになったのかよく覚えていない。当時の日記を読めばヒントがあるかもしれないけれど失くした。
女子校は特殊な環境で、人気のボーイッシュな子はファンクラブができたりする。ナナさんは見た目は中性的だけれど男性的な魅力を女の子に見せつけるタイプではなくて、当然ファンクラブもなかった。それに私は彼女の少女らしい振る舞いにも恋心を抱いていたから、彼女に理想の男性を投影して想いを寄せていたのではなくて、ナナさんが好きだったのだ。
ナナさんはバレーボール部で、とても綺麗な脚だった。私は私で、体質上脚の細さを誉められることも多かったけれど、ナナさんより綺麗な脚を後にも先にも、どんなアイドルにもモデルにも見た事がない。校則を少し逸脱した長めの白いソックスがほとんど張り詰める事なくふくらはぎを包んでいて、それは見とれてしまう程だった。顔が綺麗な人、言動がロマンチックな人、少女の園で様々な噂が立ったけれどナナさんの脚には誰も噂を立てなかった。
ナナさんは字も綺麗だった。正円にぴったり収まるような、愛らしい丸みを帯びた字を書いた。私も真似してみたけれど、3日ともたなかった。
帰り道、私は他クラスの友人を待つ為に廊下で待っていたりしたけれど、もう一つの目当てはナナさんだった。ナナさんはたまに私と目が合うと快活に挨拶してくれた。胸が高鳴り、私はおずおずと微笑んだ。ナナさんには同じ部活の親友がいて、いつも一緒にいた(親友の女の子の名前はとっくに忘れてしまった。よっぽど興味が無かったのだろう)。彼女が羨ましかった。親友は子リスのように愛嬌がある、ちょっと崩したお洒落なおさげの子で、ナナさんとお似合いだった。
ナナさんは性格が良く明るいのでクラスのほとんどと仲が良かった。が、ナナさんと特に近しくしているグループは教室でほとんど喋らない私をいじめの標的にしようとしていた。
ナナさんから気持ちが離れていったきっかけはよく分からない。2年後のクラス替えまで果たして好きだっただろうか。3年生中盤のいよいよ虐められるようになった頃、私はナナさんを想うどころではなくなってしまった。
ただ、中3のクリスマス。任意参加のスキー合宿の最終日のことだった。部屋割の調整で奇跡的に私はナナさんと少しの間相部屋になった。練習で疲れ切ったナナさんたちは、雑魚寝で友人達と寝いってしまった。雑魚寝とはいえ、ナナさんと同じ部屋で寝られるなんて。幸せこの上ない瞬間だった。夕食の時間になってもみんなは寝ていて、私はこの時間を1秒でも長引かせたくて、起こせなかった。寝坊したみんなは「やばい、寝すぎた!誰も起こしてくれないじゃん!」と口々に言いながら食堂へ駆けて行った。起こせなかったんだ、とはもちろん言えなかった。

中高一貫校の為クラス替えのみではあるが、ナナさんと離れて高校に上がった。ちなみに、女性によくあるという恋愛の上書き保存はナナさんにも適用され、おそらく今ナナさんに会っても何も思わないだろう。ナナさんの少女特有の儚さこそ、恋する要素の重要な部分だったからだ。
高校生になると塾で好きな男の子ができた。でも、彼に振られるとまた友人の女の子を好きになった。その子とは酷い喧嘩別れをした。好きになった事が馬鹿馬鹿しくなった。
大学生になった時はすぐに好きな男の子が出来て、多分想いは伝わっているのにはぐらかされてうまく気持ちを伝えられなかった。そんな中で女の子から過剰なスキンシップを受ける度に、彼女と付き合ったらどうなるか考えたりした。でも、恋愛に発展することはなかった。
社会人になってからはすぐに彼氏が出来たのでそんな妄想はしなくなったけれど、でもなんとなく同期の女の子に魅力を覚えたりした。彼女の潤んだ黒目は見ていて飽きなかった。その子は私が先に彼氏が出来たので嫉妬していたけれど、そんな素直なところも可愛いなと思っていた。まさかそういう目で見られていたとは彼女も思わないだろう。
不思議なのが、高校の時に好きになった子は好きが転じて大嫌いになってしまったし、職場の同期の女の子は最初すごく苦手で気を遣っていたのが転じて好意に発展したことだった。これは興味深い。
自己嫌悪が過ぎる性格だけれど、ここまで奔放なことをつらつら書いても何も感じないのは、もう過去の事だからかもしれない。私はもう揺るがない家庭を持っている。
でも、もしも、1人になってしまったら。次は誰を好きになるのだろうと思ったりする。

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