白魔術師になろうとして失敗した話

白魔術師になりたい。

30歳もかなり過ぎた今年の夏、突然こう思ったのだった。

理由はというと自分でもよく分からない。でも、自分のためというより子供を護れるものがあったらと思ったようだった。小さい息子にちょっとした護符を書いてあげて、息子が目をキラキラさせて護符に守られてくれたら嬉しいと思ったのだった。

そこで本を買った。

「禁書 白魔術の秘法」(エミール・シェラザード著)

読んでみると、序盤は悪魔の呼び出し方、つまり黒魔術について書かれていた。次に白魔術として恋愛成就の術。片想いを実らせる、恋愛・結婚相手を見つける、別れた相手を呼び戻すなど。他には、スポーツやギャンブルに勝つ、家出した人を探すなど。

つまり、私がやりたい事と少し違うなと思い始めた。確かにツキを呼ぶ方法、魔除けもあるけれど少なかったり試しにくいものだった。

そもそも本によると、この白魔術は自分にかけるものであって、人の代わりにやるものではないらしい。つまり息子の為に行うというのは出来ないのだ。完全に勉強不足だった。

それでも内容は面白かった。手に入りにくい植物もあるが、身近な代替案を提示していて手軽で分かりやすい。失敗した時のリスクも書いてあるのでどの程度覚悟を決めて行うべきかも分かるのだった。

しかし、あらかた読み終えた後気づいてしまった。この本が家に来てから少しずつ異変があったのだった。

購入初日、私は腹痛と頭痛を起こし微熱が出た。

購入翌日、息子が突然40℃の熱を出した。プール熱と診断されたが潜伏期間的に心当たりがなく、目の病変はないので誤診と思われる。結局原因不明だった。

購入後4日目、夜泣きした息子に対して明らかにいつもとは違う、異常なまでに攻撃的な態度を取ってしまった。

購入後5日目、殺虫剤の全く効かない蝿がどこからともなく家に入り込み1日中飛び回った(最終的に帰宅した夫が叩き落とした)。

購入後6日目、住所はうちで間違いないのに宛名が全く違う不審な郵便物が届いた。いつも郵便物の管理は夫だったのに、たまたま私の手に渡るようなタイミングで届いていたのだった。そして、焼き鮭だった予定を急遽鯖の味噌煮にしたところ息子がアレルギー(正確には食あたりの一種らしい)を起こし蕁麻疹が出た。

気味の悪い出来事が次々と起こり、恐ろしくなったので購入して僅か1週間で処分を決めたのだった。私だけならともかく、護るべきだった幼い息子も巻き込まれているからだ。半紙に包み、清め塩を振って紙袋に包んだ。白魔術には全身全霊を込めて祈ることが大事だそうだ。全身全霊を込めてもう何も起こらないことを祈った。

翌朝のゴミ出しにまとめられたあと、最後の悪あがきのように私にも蕁麻疹が出て、更に右手中指の爪が突然剥がれた。もうこりごりだ。呪(まじな)いに手を出すのはやめようと思った。

私には霊感が全くないしオカルトは信じない方だった気がするが、今後は考えが変わるかもしれない。ちなみに夫には何も起こらなかった。夫らしい。多分この話をしても笑い飛ばす筈だ。私と息子を護ってくれるのは呪いの護符ではなくて、どんな呪いも跳ね除ける夫なのかもしれない。

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