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私が言語聴覚士を目指し、そして辞めた今。(3)

 臨床実習で教えてもらった先生に、【バランスが大切】と教わった。実習生の時も新人だった時も私は、患者の気持ちに寄り添う割合が多くなり、冷静に医学的な判断を行ない目標やリハビリプログラムを設定し、無駄なくリハビリを実施するということが苦手だった。

 人間関係においても同じく、患者の話し方を悪ふざけで真似したり家族を悪く言うスタッフに対しては、一緒になって真似することも悪く言うことも頷くこともしなかった。新人なのに、[無反応]なのだから可愛くないと思われても仕方なかった。

 あっちに関しても、そっちに関しても、こっちに関しても、これに関しても、少しずつバランス良く取り入れて反応できていれば、仕事も人間関係も、人生もスムーズに進めたように思う。

 最初の職場で、先輩との人間関係が上手くいかず、私は逃げるように退職した。被害者意識が強かったけれど、自分を責める意識もまた強く辛い時期を過ごした。しかし、知人の紹介で私は3ヶ月後には臨床現場へ復帰することができた。そのとき「もう逃げない。私自身が納得するまでは辞めない」と決めた。

 人間として言語聴覚士として、経験を重ね少しずつ成長し、何度も立ちはだかる壁も何とか自分なりに乗り越えた。壁が立ちはだかるたびに、「辞めたい」と思うことも、そういう思考に及ぶこともなかった。ただ「まだだ、まだまだだ。やりたいこと、やってないことがある」という気持ちが強まっていった。

 そして、少しずつ【バランス】が取れるようにもなっていった。冷静な判断と患者や家族の想いに寄り添うバランスが取れ始めると、仕事に充実感が持てるようになった。一方で、耳障りな発言をするスタッフや力で人を抑えたり動かすスタッフ、何か違和感を感じる行動を取るスタッフに対して、私は見て見ぬ振りをしたり笑って誤魔化しその場を凌ぐことを覚えた。これによって、人間関係においてのバランスが取れ、波風は立たなくなり仕事はしやすくなった。

 子どもも小さく、いつ熱を出し会社を休んでしまうか早退してしまうか分からない状態で、職場に迷惑を掛けないように気持ちを切り替えながら効率化を重視して日々の仕事をこなしていった。このおかげもあって、悩んだり落ち込んだりする時間もほとんどなく、あっという間に時間が過ぎていった。

 その仕事振りが良かったのか、徐々に会社内での信頼度や発言力も上がり、上司からの数値的な評価も上がっていった。

 けれど、私の中に存在し続けていた“違和感“が徐々に頭を出し、顔を出し、声まで出してきた。「これでいいの?」と…。


(4)へ続く…