ショートショート 「悪行カウンター」
「悪行カウンター」
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ぜん‐こう〔‐カウ〕【善行】:よい行い。道徳にかなった行為。「善行を積む」
あく‐ぎょう〔‐ギヤウ〕【悪行】:人の道に外れた悪い行い。あっこう。「悪行の限りを尽くす」
「仕事を抜けられんのが一服の時間だけなんて、まるで俺たち昭和のサラリーマンだな。」
「そうですね。でもNさんはそれだけ活躍されて、信頼されてるってことじゃないですか?」
「ほー、お世辞が言えるようになったか。」
そう言って私は新しいタバコの箱を開け、空箱を喫煙所に隣接する川へ投げ捨てた。
いつものように部下を付き合わせ、一杯やってほろ酔いで帰ったその晩のことだった。
「んーなんだこれ。」
右腕の内側に数字のような落書きがあった。
それに気づくのと同じタイミングで私の携帯電話が鳴った。
「もしもし。」
「もしもし、こちらは悪行カウント局です。こちらで管理しているあなたの悪行カウントが上限に達したことをお知らせします。」
「はぁ?なに訳のわからないことを言ってんだ!」
「突然のお知らせになってしまい、申し訳ありません。しかし、こちらは国の管理事業になります。後日ご自宅に通知書が発送されますので、くれぐれも悪行には気をつけてお過ごし下さい。なお......」
まったくなんなんだ?
聞けば、悪行カウンターが上限を超えると国から取り締まられるらしい。
善行を1つ行えば、悪行カウンターも減る仕組みのようだ。
なんでも凶悪犯罪を減らすために水面化で数十年前から動いていると。
国民全員に周知すると世間は偽善で溢れかえり、収集がつかなくなることを国は恐れているため我々には知らされていないと説明された。
確かに最近は昔のような犯罪は減ったし、パトカーの音も聞かなくなっていた。
ほろ酔いの頭はすっかり冴え、パニックで言葉を失うしかなかった。
「...説明とご忠告は以上になります。何か質問はございますか?」
「い、いえ。気をつけます。」
「では、善き行いを!」
私はゴミ1つ拾って帰宅した。
数字は1つ増えていた。
例の電話の2日後、通知書が自宅に届いた。
どうやら”悪行カウンター”は本当らしい。
しばらくはなるべく善い行いをするよう意識し、数字を重ねた。
しかし、私の記憶力はそこまで優秀ではなかったため、数ヶ月後には数字のことは忘れていた。
「おい、一本付き合え。」
「あ、すみません、ちょっとだけ待ってもらえますか?」
「うるせえ、ストレス溜まってんだ。付き合え。」
「あ、はい。。」
部下の彼が望んでいないことはわかっていたが、
一通り私的な愚痴と合わせて、
いつものようにストレス発散の後輩いびりをした。
「ふぅ。」
一息ついたところで警察らしき人達がやってきた。
「悪行カウント局の者です。上限に達しましたのでご同行願います。」
長年蓄積した習慣は、すぐに改善することは難しいようだった。
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