見出し画像

プリンストン大学新卒5人の1年 Caroline Kitchener著「Post Grad」

著者を含めた5人のアメリカの新卒生が自立への道を探る1年。
この中に、いわゆる日本で言うところの「就職」をした人は一人も出てこない。
もちろん名門大のこと、prestigiousな進路に直行する人もいると書かれているが、彼女たちはよりどころを失って仕事、住む場所、リレーションシップ等々あらゆる面で不安定になっている。

全般に、学部で学んだことが仕事に直結していないのが興味深い。リベラルアーツ大学だからだろうが、やはりアメリカの専門教育は修士からなのだ。

私が共感したのは、兄と一緒に不動産データベースを作る仕事を始めたアレックス。
学部ではほとんどコンピュータ関連のクレジットなし。
なんとほぼ初心で「分かる人がやれば1日で終わるのに...」的な100万ドル規模のタスクをレファレンスと首っ引きで進める。
ビックリだが、それから、そういうプロジェクトありきのやり方が一番身につくのは確かなんだよな。
なんとか兄に捨てられることなく成功を積み重ね、プログラマではなくソフトウェアエンジニアになろうとオレゴン州立大学のクラスを取り始めたところで終わるが、順序としてすごくうまくいくと思う。

それから、教育関連のNPOでインターンをしながら医学部入学の準備をするデニスが、ニューヨークで教会ハントをするところも頷くところ多し。
プリンストンのクリスチャンコミュニティから放り出されて、なかなかスモールグループを擁するintimateな教会が見つからない...っていうの、すんごくわかる。

最後、全員が自信を得たり、家族と和解したり、パートナーと出会ったりして急に落ち着きはじめて、そんなにみんなうまいこと1年で着地するか?と思ったところで、1人が音信不通になって(語弊があるが)よかった。
彼女、オリビアはマレーシアの富豪の娘で母国で数人しかもらえない奨学金を得て留学してきた才媛なのだが、在学中はリレーションシップに悩んで著者を振り回し、卒業後はシュガーダディや宗教グルに走り、最後は親の資金援助も絶たれる。賢い彼女はビザが欲しければどうするのが最短かよくわかっていて、かつアイビーリーグ卒としてそれもそう難しいことではなかったと思うのだが、ドキュメンタリーを作るという道を選んだ。
ライターの著者はオリビアに切られたのだ。リアルだと思う。どこにいても元気にしているといいな。

今の日本の新卒生はどういう空気感なのかな。
私のときは就職氷河期だったが、演劇などヤクザなことをやっていたせいかまわりにプーになる人も結構いた。
初めて「就職?しないよ」という人に会ったときは、卒業後は就職が当たり前と思っていた私はパラダイムシフトと言っていいくらい驚いたが、なかなか内定が出なくても全然悲壮な気持ちにならずに頑張れたのは彼らのおかげだったかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?