プロジェクトの不確実性を味方につける、エフェクチュエーション理論で変革するプロジェクトマネジメント
プロジェクトが思うように進まず、締め切りや予算に追われる毎日。どれだけ綿密な計画を立てても、予期せぬ問題や市場の変化で計画通りにならない。そんな経験はありませんか?私も多くのプロジェクトでその壁にぶつかりました。
ここで自分自身への疑問ができました。
「従来のプロジェクトマネジメント手法では限界がある。」
その疑問を内に秘め、様々な試行錯誤を繰り返す中で5〜6年前に「エフェクチュエーション理論」と出会いました。
今回の記事では、エフェクチュエーション理論をプロジェクトマネジメントに導入する際の課題とその解決策、その意義について書いています。
読んでいくと沢山の疑問点が出てくると思います。破綻している部分も多いかもしれません、しかしこの記事を公開することで新しい対話のきっかけになれたら、プロジェクトマネジメントはもっと進化するかもしれない。こんな思いで書いています。
新たな視点を得ることで、プロジェクトマネジメントスキルは変革する可能性もあります。ぜひ最後までお読みください。
目次
エフェクチュエーション理論とは
エフェクチュエーション理論は、起業家が不確実な環境でどのように意思決定を行うかを説明する理論です。これまでの経営学が重視してきた、「目的に対して最適な手段(原因)を追求する=因果性を重視する」アプローチとは異なり、「所与の手段から、意味のある結果を生み出す=実効性を重視する」アプローチです。
エフェクチュエーションは5つの原則があります。
Bird-in-Hand Principle(手中の鳥の原則)
目的ではなく、手持ちの手段 に基づいて着手する。
私は誰か(Who I am)
何を知っているか(What I know)
誰を知っているか(Whom I know)
+余剰資源
Affordable Loss Principle(許容可能な損失の原則)
期待利益ではなく、損失の許容可能性 に基づいてコミットする。
起きうる損失 (資金、時間、信頼、別の機会など)が許容できる範囲で行動する。
Crazy Quilt Principle(クレイジーキルトの原則)
競合分析ではなく、自発的な参加者とパートナーシップを構築する
あらゆる関与者に多様なコミットメントの提供を問いかけ(asking)、未来を共創する。
Lemonade Principle(レモネードの原則)
予期せぬ事態を避けるのではなく、テコとして活用する。
偶然(出会い、情報、出来事など)をポジティブに活用し、新たな行動を生み出す。
Pilot-in-the-Plane Principle(飛行機の中のパイロットの原則)
予測ではなく、コントロールによって望ましい結果を帰結させる。
コントロールできる要素から着手し、コントロール可能性を拡大し、自ら未来の環境を作り出す。
エフェクチュエーション理論についてはこちらの本を是非
1. エフェクチュエーション理論の導入で起こる課題、または不安
1.1 計画性と柔軟性のバランス
エフェクチュエーション理論を導入すると、計画性が低下するのではないかという不安があります。確かに、状況に応じた柔軟な対応を重視するため、プロジェクトの方向性が不明確になる可能性もあります。
しかし、これは何も計画せずにプロジェクトを始めるわけではありません。目的地は設定しつつも、道中で最適なルートを見直すイメージです。目的地も「手中の鳥」であることを忘れてはいけません。
プロジェクトなら基本的な計画は絶対に必要、それを維持しつつ、柔軟な変更できる体制を採用することが重要です。市場の変化や新たな情報に応じて計画を見直し、最適な道を選択していくのです。
1.2 リスク管理の複雑化
柔軟な計画のため、リスク管理が複雑になる可能性があります。あらゆる事態を想定するとリソースが増えます。このバランスをどう取るかが重要です。
解決策は、あらかじめリスクの許容範囲を明確にしておくことです。どの程度のリスクを許容できるか事前に定め、許容可能な範囲を越えたらちゃんと終了するというマネジメントが必要です。
1.3 組織内の抵抗への対策
新しい理論の導入は、組織内で抵抗を生むことがあります。従来の方法に慣れたメンバーが変化を受け入れにくいのです。これは、新しいソフトウェアへの移行時に、古いシステムに慣れた従業員が戸惑う状況に似ています。
この課題を解決するためには、コミュニケーションの強化と変革しているという意識改革が必要です。
まずはエフェクチュエーション理論の目的やメリットを明確に伝え、対話を通して組織全体の理解と受容を促進します。新しいアプローチに対して前向きになるように導きます。
目的が明確で予測可能なことが多い場合は、コーゼーションが合理的に進められます。ゆえに無理して、エフェクチュエーションを導入する必要はありません。
1.4 成果測定の難しさ
柔軟な戦略では、従来のKPIだけでは成果を測定しにくくなります。プロセスや学習成果も評価に含める必要があります。
この問題については、新たな評価基準を設定し、迅速なフィードバックループを構築することが効果的かもしれません。
ここは探求すべき領域ですが、現時点でのキーワードは「プロセス指標」「学習成果」「メンバーのフィードバック」「モチベーション」でしょうか?これらを評価に取り入れる方法を考えます。
さらにデータを定期的に分析し、データを蓄積し、次の行動に活かす方法論も必要です。
2. エフェクチュエーション理論導入の意義
2.1 不確実性への強さ:変化に迅速に対応する組織力
エフェクチュエーション理論を導入することで、市場の変化や不確実性に迅速に対応できる組織を構築できるのではないか?
これが現在の私のテーマの1つです。
リスクを恐れず、新たなビジネスチャンスを積極的に探ることが可能になる組織体制をイメージしています。
例えば市場のニーズが急速に変化する中で、組織全体で意思決定が迅速になり、トップダウンだけでなく現場からのアイデアも取り入れやすくなる、人材の成長も促進され、変化に対応する力が養われます。
2.2 革新の促進:創造性を引き出す新たな風土
固定観念=コーゼーション思考的な考え方にとらわれず、独自のアイデアやソリューションを生み出す組織文化を形成できます。
例えば、プロトタイプを迅速に作成し、市場の反応を見ながら製品を改良していく。このスピード感と市場からのフィードバックはモチベーションの向上にもつながります。
2.3 組織の学習能力向上:行動から学ぶ文化の醸成
失敗を恐れず行動を起こす。そこから学び成長する組織を構築できます。継続的な改善が促進され、組織全体の学習能力が向上します。
そもそも失敗という定義も不要かもしれません。
具体的には、様々な事象を共有し、その原因や対策を組織全体で学ぶことで、同じミスを繰り返さない企業文化を構築する。資産を増やしていく発想。
2.4 資源の最適活用:手元の資源で最大化と手持ちの手段でパートナーを増やす
限られた資源でも創意工夫で高い成果をあげるというマインド。
そしてパートナーシップや顧客関係を強化し、外部資源をも効果的に活用していくマインド。
例えば、プロトタイプを作成し、そのプロトタイプによって新たなパートナーシップを構築できる。新しいパートナーも自分達の手中の鳥となる。そんなサイクルです。
2.5 優位性の獲得:競争から共創へ
競争ではなく共創です。1つの企業、個人ではなく、共創でプロジェクトを進めていく。不確実な世界において、競争で競合を倒すのではなく、共創で共に乗り越えていく。
このマネジメントも大事でしょう。
まとめ
エフェクチュエーション理論の導入は、従来の計画重視型のプロジェクトマネジメントからの大きな転換です。もちろんプロジェクトマネジメントがエフェクチュエーション理論だけで全てが上手くいくわけではありません。
プロジェクトの不確実性を、排除では無く取り込む姿勢は大事な要素です。
そもそもプロジェクトは不確実性の塊なので、排除して不確実性を極力少なくしていくコーゼーション思考のウォーターフォール開発の方が、私には違和感があります。
予測可能な部分と予測不可能な不確実性の部分を分けて両方取り入れたいと思っています。
また「エフェクチュエーション理論は学習可能」という点も重要です。
不確実性への強さ、革新の促進、組織の学習能力向上、資源の最適活用、競争優位性の獲得といった意義は、現代のビジネス環境で不可欠な要素です。組織や人材は変化に強くなり、新たな価値を創造できます。
繰り返しますが、エフェクチュエーション理論だけで全ての不確実性に対応できるとは思っていません。しかし繰り返しますが、「不確実性を排除ではなく取り入れる」この姿勢は大事です。(様々なプロジェクトの不確実性に関してはまた別の機会に。)
プロジェクトが思うように進まないと感じている方、不確実性の高い市場で生き残りたいと考えている方は、ぜひエフェクチュエーション理論を学んでみてください。
そしてその思考を頭に片隅においてプロジェクトマネジメントに取り組んでください。新たな道を切り開く可能性があることに気がつくでしょう。