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梅雨とかき氷

僕は窓辺にある机の上の乱雑に置かれた資料をまとめようと椅子に座り、マーカーを持ったまま窓に滴る雨水と、窓から見える木に雨が当たっている様子を眺めていた。

ぼつぼつ____
さあさあ____
そしてするすると滴り落ちる雨。

窓に滴る雨水はそのまま流れるかと思いきや、
ぷよぷよという人気作のゲームのように雨粒同士が繋がり、そしてスピードを増してまた下へ落ちていく。
なんだかそんな不規則な点と点が繋がる様子が、星座みたいだな、と思った。



いやいやいや資料をまとめなくちゃ。
そう気持ちを切り替えて改めて資料に目を通した。
数時間作業をしていると、集中力が切れてきて、追っていた文字が途端に頭に入りにくくなってきた。
そんな時僕は、持ってるペンでノートの端に落書きをしてしまう。
なんの気も無しにノートの端に描いたのは、赤いシロップがかかったかき氷だった。

そういえば今日は夏祭りをしていた気がする。
でもこんな雨の日に屋台なんて開いているだろうか…。
ペンを机の上に置いて、改めて資料に目をやると、自分の脳が一回休憩しろとでも言わんばかりに文字をインプットするのを拒んでいる様だった。

これは、休憩をとってからまた作業に戻ろう。
そう思い机から離れた。


でも、一体何をしよう…。
一人暮らしの大学生が雨の日に出来ることなんて、ぱっと思いつかない。
なんなら僕は、これといった趣味がない。
悩んでいると、夏祭りの事を思い出した。

散歩と息抜きがてら会場に行ってみよう。
外は湿度が高くじめっとしているし、帰ってきたらまた資料と戦うことになるので、屋台が開いていたら何か美味しいものを買って活力をつけよう。
そう思い、玄関に置いてある財布と家の鍵、そして傘を持って僕は家を出た。


夏祭りの会場に着くと、屋台の何店舗かは開いている様だった。
いつも端から端まで見てから何を買うか悩む僕は、いつも通り屋台を見て行った。

焼きそば、金魚すくい、射的、わたあめ、からあげ、そして、僕が絵に描いたような赤いシロップがかかったかき氷をそのまま現実に持ってきた様な置物が置いてあるかき氷屋があった。

其々どれも看板に力が入っていて、文字で分かりやすく勝負している看板には目を奪われるし、何よりそういう屋台のご飯はとても美味しそうだ。
キャラクターが描かれている看板にはお子さんは勿論のこと誰でも入りやすい雰囲気があり人気だ。

ビニールの傘に当たるぼつぽつとした雨音がなんだか心を落ち着かせる。
屋台の屋根に当たる雨音も傘とは違う音を奏でている。
屋根の溜まった雨水のところを下から押したら、昔話題になった水枕のようで心地良いのだろうか。やってみたいとふと思った。


さて、どんな屋台が出ているのかわくわくしながら端まで来た。
次は何を買うか悩みながら戻る時間だ。

沢山の魅力的なお店があった。
その中から僕が選ぶのは、もう何年振りかもわからないかき氷屋だった。
かき氷屋の前に行き「苺のかき氷をください。」と店主に伝えた。
体格が良くて頭に白いはちまきを巻いている男性が、「あいよっ!ミルクはどうする、足すか?」と気前良く言ってくれた。
いちごミルクのかき氷を思い浮かべて、揺らぎそうになったが、僕は「いいえ、大丈夫です。」と少し笑って断った。
男性は「あいよ!」と言い、流石の手つきでかき氷を作り僕に渡してくれた。
「ありがとうございます。」と僕は言って、一旦かき氷を置き、いちごかき氷の値段である五百円を男性に渡した。
「ありがとよ!また見かけたら来てな!」とニカッと男性が笑い、かき氷を持って去る僕にそう言って見送ってくれた。
僕はぺこりと軽くお辞儀をして、かき氷が溶けない様に少し足早に帰路についた。


家の鍵を開け、一旦かき氷を鍵を置いていた棚に置き、玄関の外で傘を閉じて改めて中に入って鍵を閉めた。
鍵と傘を元あった場所に戻し、かき氷を持ってベッドに座った。

「ベッドの上でかき氷を食べるなんて、なんか背徳感あるな……。」
そう言いながらも、ストローの様なスプーンで一口ぱくりと食べた。

最後にかき氷を食べたのなんて、小学生以来だな。
シロップの味は実際は全部同じだと言うけれど、それでも僕はブルーハワイが一番好きだ。
だけど今回いちごにしたのは、僕のなんの気も無しに描いた絵が本当にそのまま出てきたかと思ったからだ。
絵に描いたものが出てきたらどれだけ幸せだろうと夢想してた時期があった為、凄く高揚していたんだと思う。
こんな日も幸せだなとそう感じる。

かき氷を口に何度か運んだ時、ぽとっ…と小さなスプーンからかき氷が零れた。
ベッドのシーツに小さな赤い染みがじわじわと広がり、不恰好な小さな円を描いた。
ベッドの上で食べているから、こうなる事も考慮していた筈なのに、後悔の思いが心を覗いた。

でもそれも時にはありか。
なんだかこれも日常にぽとっ…と零れてくれた特別な幸せなのかもしれないと、僕は不思議とそう思えていた。
これも、高揚していた気持ちのせいだろうか。
僕は残り半分を切ったかき氷を机の上に置き、赤い小さな水溜りが出来たシーツを剥がし、ぎゅっと抱きしめて、「綺麗になっておいで。」と言い、洗濯機へシーツを見送った。


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こんばんは。memoです。
今回もお題メーカーよりお題を出してもらい、
そこから物語を紡がせて頂きました。
今回のお題は、

     「机」  「ベッド」  「かき氷」


でした。

ぱっと思い浮かんだものを詰め込んだ作品となっております。
梅雨の時期に突入していますので、
雨が主役のこの時期。
じめっとしていて苦手な方もいると思います。
私も苦手の一人です。
が、去年は梅雨をあまり感じず終わってしまった
ので、今年は梅雨を少しでも味わえたらいいな
と思ってます。

夏や雨を楽しんでみようかなと思って頂ける様な
作品になっていたら幸いです。

読み難い点等あったと思いますが、
ここまで読んで下さりありがとうございました。


それでは、おやすみなさい。



お写真は、aratoarty様からお借り致しました。
イラストタッチのいちごかき氷が
とても愛らしく、惹きつけられました。
ありがとうございました。

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