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【はじめてレッズをみた日】第2の人生が始まった日〜2017年11月25日〜

2017年11月25日、ACL決勝2ndレグの日。
埼玉スタジアム2002で、私はただただ圧倒されていた。

「これから何度も埼スタに来ると思うけど、これ以上の試合はそうそう無いよ」

当時付き合っていた彼氏が言ったこの言葉の意味は当時は分からなかった。ACL決勝のこの日は、婚約した彼氏の家に引っ越し、生まれて初めて埼玉県民になった日だった。

私は浦和レッズ初心者で、「新生活が始まった日に、優勝なんて幸先が良い!」程度にしか考えていなかった。この優勝の価値がわかったのは、それからだいぶ先の事だったと思う。

はじめての浦和レッズ、はじめての埼スタ

この日は朝から大忙しだった。今までひとりで住んでいた東京の家を引き払って、京浜東北線で新居に向かう。赤帽さんに荷物を自宅まで運んでもらい、荷解きもそこそこにRED VOLTAGE(当時はパインズホテルの隣にあった)へ行った。私は浦和レッズのグッズをひとつも持っていなかったのだ。とにかく防寒対策をした方が良いとのアドバイスを受けて、「R」の文字が入った赤いニットカーディガンを買った。

その時私が知っていた浦和レッズの選手は、槙野智章、柏木陽介、以上。その2人も浦和レッズということは知らなかった。槙野はよくテレビに出ていたので知っていて、柏木は代表戦を見ていたときにイケメンだったから覚えていた。(代表戦は欠かさず観る派だった)

夕方になり、初めての埼スタに向かった。電車に次々と乗り込んでくる赤い人たち。一体どれだけの人が来るんだろう、トイレに行きたくなったらどうしよう、人が多すぎて迷子になったらどうしよう…人混みが苦手だった私は、そのとき誰よりも試合以外のことを考えていたと思う。

2時間前にスタジアムに着き自分の席に座ると、ドリンクホルダーに赤いシートがささっていた。選手の入場時に掲げるものらしい。メインアッパー指定席だったこともあり、周りのサポーターは子どもからお年寄りまで幅広く、和やかな雰囲気で少し緊張が解けた。

しかしそれも束の間、ウォーミングアップの選手が入場してくると、文字通り割れるような応援(チャントという言葉を知らなかった)が始まり、また緊張がMAXになった。と同時に、赤い旗がはためく光景に「こんな応援が日本にあるの?」とテンションが上がった。恐らく多くのサポーターと同じく、この応援で浦和レッズに恋に落ちたと思う。

私がこれまで生で観戦した事があるスポーツはテニス、野球のみ。どれも本気で応援していたというわけではなく、ブーイングをしたことも一度もなかった。それだけに、イスラム圏から来たという「青い」ユニフォームの相手チームに送られる大音量のブーイングは衝撃的で、動画を撮った記憶がある。

国際試合ということで英語で行われるアナウンス、選手入場に合わせて掲げるビジュアルサポート。チャントに合わせて見よう見まねで手を叩いて、手が痛くなったけど、全てが新鮮で「何これ楽しい!」と思えた。

その時一番気に入ったチャントは「赤き血のイレブン」。余談だが、翌年のリーグ開幕戦、このチャントが聴けるかと思ったらACL限定と聞いて「チャントも色々ルールがあるのね」と思った記憶がある。

試合はスコアレスのまま終盤へ向かう。「0-0でもアウェーゴールの差で勝ちだよ」という彼氏の言葉に???となりながら、試合経過を見守る。試合はかなり押されていたと思う。相手選手がボールを持つたびに割れんばかりのブーイングが起こる。でもこの時間になると、ブーイングして勝てるならいくらでもする、そう思った。

そして85分、ラファエル・シルバがついにゴールを決めた。
「ラファだ!ラファだ!」彼氏が嬉しそうに叫ぶ。みんなが立ち上がって喜ぶ中で、私も一緒になって喜んだ。

「でもこれで相手に1点返されたら延長戦、それでも決着がつかなければPKだよ」
0-0なら勝ちなのに、1-1はなぜダメなのか。ルールは相変わらずよく分からなかったけど、その言葉で一気に緊張した。アディショナルタイムに入っていたが、なかなか試合は終わらない。「アディショナルタイムのアディショナルタイムはあるの!?」とにかく、早く試合が終わってほしい一心だった。

そして試合終了。笛の音がよく聞こえなくて、みんなが一斉に立ち上がったことで「あ、試合が終わったんだ」と気づいた。1-0。浦和レッズは2017年のACL王者となった。そして彼氏が冒頭のセリフ「これから何度もここに来ると思うけど、これ以上の試合はそうそう無いよ」と感激したように言う。

歌詞は全く知らないけど、みんなに合わせてWe are Diamondsを歌う。グルグルとタオルを振り回しながら、今は顔も名前もわからない選手たちとこの歌を、絶対に覚えようと思った。

失意の2019年。そしてコロナ禍

時は流れて2019年11月24日。埼スタで2年ぶりにACLの決勝が行われた。この2年間、彼氏から夫になった人と埼スタに通い続け、たまに遠征もしたりして、クラブ・選手への思い入れは2017年とは桁違いだった。でも、それと同時に「まあ勝てるでしょう」という思い上がりがあったのも確かだった。

結果は惨敗。11月なのにやけに暖かい日で、普段はタクシーで帰る道を呆然としながら夫と一緒に歩いて帰ったのを覚えている。その年のリーグ最終節もひどいもので、「青いシートは魅力ないチームの証。揺るがぬ意志で赤く染めろ」冷たい雨を浴びながら、そう書かれたゴール裏の横断幕をぼんやりと眺めていた。

でも、そんな悔しい思いすら懐かしく感じる出来事が起きた。
翌2020年、新型コロナウイルスの影響を受けて、Jリーグは第一節のみを消化して、長期の中断期間に入ったのだ。

すっかり生活の一部になったサッカーが観られない。先行きの見えない生活と相まって、とにかく息苦しい毎日だった。当初は1ヶ月程度と発表されていた休止期間が、1ヶ月、また1ヶ月と伸びていく。ようやくスタジアムへ足を運べたのは、5ヶ月後のことだった。声を出しての応援が禁じられている中で、私は初めて埼スタの空調のゴーッという音を聞いた。

チーム状況も低調、新婚旅行のハワイも中止、せめて近場でと計画した国内旅行もまん防の発表で中止に。希望が見えない2020シーズン最終節の横断幕は、その年に大流行した鬼滅の刃をモチーフにしたものだった。

5年ぶりの歓喜の瞬間

そして2021年。アジア制覇という文脈において、ここから2023年までの3年間はひとつの流れになっていると思う。今のレッズの中心となる選手が数多く加入したこのシーズン。リカルド監督の元、浦和レッズは天皇杯で優勝し、翌年のACLの出場権を手に入れた。

海外渡航からの隔離中で決勝の国立競技場に行けない中、TV越しに槙野の勝ち越しゴールを見て号泣した。それと同時に、「これでまた決勝に行けたら、出来すぎたストーリーだ」と思う自分がいた。

だけど、その出来すぎたストーリーは、同じく出来すぎの西の青いチームの協力のもと実現した。2022シーズン、浦和レッズは灼熱のブリーラムでの快進撃を皮切りに、10日間で3クラブと対戦し、準々決勝では全北現代とのPK戦を制した。特に全北現代との試合は、これまでとは全く違った緊張感があった。負けたらおしまい、そう考えると、座っているのに立ちくらみがした。

そして今年5月。レギュレーションの関係で翌シーズンにまたがったACL決勝が、サウジアラビア、そして埼スタで開催された。

埼スタのパブリックビューイングで観た1stレグは1-1。
5年半経って、アウェーゴールの意味も理解した。なので、2ndレグは「0-0でもアウェーゴールの差で勝ち」。でも勝ちたかったし、守りに行ったらやられると思っていた。

そして埼スタで迎える3度目の決勝戦。私が生まれる前からあるこのクラブのアイデンティティや立ち位置は、完璧には理解できていないかもしれないけど、この試合に勝つことがどれだけ価値のあることかは、2017年の決勝よりは分かったつもりでいたし、私にできるのは、とにかく大きな声と手拍子で応援することのみだった。試合後半1-0で浦和がリードする中、指定席に座る周りの人たちが次々と立ち上がってく。私も立ち上がり、いつしか全員総立ちで「We are Reds」コールがされる。

祈るような気持ちでチャントを歌い続け、ようやく最後の笛が鳴った。キャプテン酒井宏樹がピッチに倒れ込みながらガッツポーズをする。ベンチにいた選手たちがピッチ上になだれ込み、表彰式のステージが組み立てられていく中、「2017年以上の試合があったね」と夫に声をかけた。

浦和レッズはやめられない

シーズンを通してみると、苦しい時期も多い浦和レッズ。1週間楽しみにしてようやく迎えた週末のゲームでボコボコにされたり、塩試合だったり、辛いことも多いなあと思う。だけど応援をやめようとは思わない。9回負けても1回の勝利で全てが報われるし、もっともっと良い試合が観たいと思う。

最初は「非日常」といった感じでやや構えて行っていた埼スタも、試合観戦が生活の1部になってからは、起きたらユニフォーム着て埼スタへ向かい、ビール買って席についたら試合開始10分前という日もあるくらい身近な場所になった。

埼スタは大声援を物ともせずすやすや寝ている赤ちゃんがいたり、将来こうなりたいなあと思う年配のご夫婦がいたり、本当に幅広い年代・性別の人がいる。最近は自分達の席の近くにちびっこ応援団が登場したので、彼らを観ているのもとても微笑ましい。(多分私よりサッカー詳しい)

サッカーは楽しい。浦和レッズは楽しい。2017年11月25日をきっかけに始まったこの第2の人生を、これからももっともっと楽しみたいなと思う。

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