マルティン・タキンボの映画批評先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021.日本.119分)星★★★★★


自称映画評論家マルティン・タキンボの映画批評

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021.日本.119分)星★★★★★
出演
黒木華 柄本佑/金子大地 奈緒/風吹ジュン
◆監督・脚本 堀江貴大
◆Story
結婚5年目の夏。夫が不倫をした。
それはよくある夫婦の出来事、のはずだった…
少女漫画家・佐和子の新作漫画のタイトルは「先生、私の隣に座っていただけませんか?」。それは、佐和子の夫・俊夫と編集者・千佳との不倫現場をリアルに描いたものだった。さらに物語は、佐和子と自動車教習所の先生との淡い恋へ急展開。この漫画は、完全な創作?ただの妄想?それとも夫の不貞に対する、佐和子流の復讐なのか!?恐怖と嫉妬に震える俊夫は、やがて現実と漫画の境界が曖昧になっていく…。

水野晴郎ではないが、いやあ、映画ってホントにいいもんですねえと、言いながら、雨の銀座、映画館、シネスイッチ銀座を気持ちよく外に出た。
 若夫婦の不倫話なので、また重くなるのかなあと心配したが、とんでもない。気をてらわない演出リズムに乗って、いつのまにか物語に気楽に入り込んでいた。ストーリーもさることながら、キャストが見事にハマっており、好きな役者ばかりだ。コメディ要素もふんだんにあるが、コメディコメディもしておらず、自然なお芝居に気持ちよく乗せてもらった。黒木華が、素晴らしい。このおさえた芝居ながら、不倫された女漫画家の妻のほとばしる心情を見事に伝えてくれる。
夫役、柄本佑、この人の喜劇役者の要素たるや末恐ろしい。妻の反撃として妻がわざと連れてくる不倫相手の運転教習所の先生に、柄本佑の夫がお茶をガンと出すところで、観客の笑いは、頂点に達していた。これまたコメディコメディの芝居ではなく、実にうまい。くすくす笑える。ネタ割れになるので、内容はあまり説明しないが、タイトルにある、先生、私の隣に座っていただけないか?という、意味が最後の方でわかるのだが、それがこの、夫婦不倫ドラマの、ポジティブで暖かくなる夫婦愛のテーマを含んでおり、観ながら思わず、膝を叩いてしまった。
それは、先日みた、映画ドライブマイカーにあるような、妻の不倫などを憂う、悲しみに満ちた世界観ではなくて、真逆に、あー、夫婦とは言いもんだと思わせてくれる明るさと爽快感があり、そこがこの映画を、単なるファンタジー映画を超えて昇華した良作にさせているようにおもう。
夫の不倫を、先行して漫画作品に書き上げそれを、夫に先に見せながらはらはらと進む漫画と真実と妄想のタペストリーは、今までにない斬新さがあり、カラーで描かれた漫画とのラブシーンのオーバーラップは、朝日を見るように美しかった。ラストはまた、なるほどというオチになるわけだが、脚本も練るに練られて見応えがある。
 唯一、大好きな女優の菜緒が、編集者として可愛い悪女を演じるが、ちょっと、彼女の本心と思惑がよくわからなくて、そこがもう少しケアされていたらと思ったが、結末をみて、そんな疑問は吹き飛んでしまった。
ファンタジー恋愛映画は、リアリティと空想との狭間で夢に誘う技量を問われるが、この作品は、うまく成功しているとおもう。漫画家夫婦を繋いでいる、かすがい、が、漫画そのものだからなのかもしれない。かすがい、は、大切であることも教えてくれる。カップルでみたい、美しくて明るい新しい不倫恋愛ファンタジーである。
シネスイッチ銀座で、1日一回18時上映、10月末まで。
新宿ピカデリー 朝8時40分の回のみ

公式ホームページ
https://www.phantom-film.com/watatona/


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