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「永遠の不在証明」の人間像と女神さまの視点

2019年、東京事変、作詞椎名林檎。アルバム『ニュース』収録。

 十八番の暗躍モノと称されたこの曲、艶やかで鮮烈。別曲を引用したのは筆者の妄想なので注意を。加えて名探偵コナンは何一つ知らず歌詞のみの印象を書きます。


 シンコペーションでカチっと引き金がひかれて、音もなく煙が広がっていく。「引き金を引いた途端立ち現わる白く空虚な時よ」。感嘆や呼びかけのような冒頭ではじまる。ゆっくりとした煙のスローモーションから、渦をまくカオスな闇へ。「果て無き闇の洗礼」、空虚と底抜けの闇が舞台。

 「重たい敵意込められた弾がほら緋く通ずる前に」。白い煙の真ん中を、直進する弾丸はずっしりと。真空をのびる無機物と、身を翻す生身の人間。浴びればあっけない。


 「追い付きたい突き止めたい」、人間的な欲望が湧き上がる。火花が散る世界に身を置く理由。


 「さあ隠し通せよ一層実は全部真っ黒だろうけど」。隠し通せとは、敵方への発破にも、自分への暗示のようにもとれる。「台本書き続けるか」、つまり何かを偽り続けるか。それとも「釈明しようか」、その舞台からドロップするか。釈明という言い回しは興味深い。偽り隠してきたことに言い訳して楽になろうという選択肢もある、ことを知っている。


 「加害者にはいつでも誰でもなれる仮令考えず共」。加害者と被害者が紙一重なら、自分もその危うさの例外ではないと知っている。「果敢無き人の尊厳」。人というものの尊厳など、、と、俗世間を見下ろすように嘆いてみせる。


 「追い越したい食い止めたい」、ただ明らかなものはいまここにある衝動。
 「ああ仮初めの人生」を、共に歩む相手は選べた。それを「どうして間違えるのか」とは、選ぶべき人を選べなかったということか。ここまできて最も個人的な吐露だ。自らを問う。自らが何よりも不可解だと。

 ここまでは、一人称の人物(一人称とすればだが)が、銃弾飛び交う世界に身を置いていることがわかる。そこは何かを偽り続ける仮初の世界であること、そしてそこからドロップもできると知りながら、なお突き動かす衝動がそこに身を置かせている。


 「世界平和をきっと皆願っている」個別から俯瞰へ。「永遠の不在証明」は一人称か第三者の視点かはっきりしないところがあり、例えば以降の「白か黒か謎か宇宙の仕組みは未だ解明されない」「沢山の生命が又出会っては活かし合っている」と、世界を俯瞰するような眼差しが出てくる。人間的な衝動に身を焦がし、「せめて誰かひとり」守ることを望む人物をあらわした曲ではあるが、俯瞰の視点も示されることと、自らを問うような態度から、求道者のような印象も受ける。冒頭の「空虚な時よ」も祈りの言葉のようだった。

 そして筆者は同時に、坂本真綾への歌詞提供曲「宇宙の記憶」(2019年、作詞椎名林檎)を連想した。「宇宙の記憶」は世界を見下ろす女神さまのような視点の曲だ。

あなたのまなこが なみだを湛えている/それは?うれしくて?かなしくて?「宇宙の記憶」      
何てかわいらしくて何てかわいそうなの/もう全部くださいな 瞬間を永遠にして「宇宙の記憶」

「永遠の不在証明」の人物は、女神の瞳にうつる、もがき蠢く人間のひとりかもしれない。

 「それは?うれしくて?かなしくて?」(「宇宙の記憶」)と投げ掛ける女神と、「喜びとは怒りとは悲しみとは灰色に悩んでいる」人間。「元々の本当の僕はどこへ」。最後に出てきた「僕」という一人称。寄るべない迷える魂に、「あなたは生きている」(「宇宙の記憶」)という結語がまるで対応するかのようだ。そのカオスこそ生だと。

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