何者にもなれない我々から我々へ。猫は正義。喪失しながら生きることについて。大学院生。な…

何者にもなれない我々から我々へ。猫は正義。喪失しながら生きることについて。大学院生。なかにちっこい14歳を飼いならす70年代生まれ。

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    最近クリスチャンになりましたが、昔書いてあった禅語エッセイがもったいないので公開します。

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あの人の声が聴こえる

研究がなかなか進まず、気が滅入っていた。 朝起きた瞬間にもう憂鬱で仕方がない。 2年前の修論の提出に追われていた頃の精神状態とすごく似ているけど、 これから取りかかる博論はやっとインタビュー調査を始めたばかりで、 執筆という道を走ることに身体がちっとも馴染んでいない。 この研究をやることに何の意味があるのだろうか。 もっともらしく研究意義を掲げてみたものの、 こんな論文が一本ひっそりと世にでたところで、 果たして誰かが救われるのだろうか。 草花を育てたりパンを焼いたり、 家

    • 『猫を棄てる』を読んで、コーラ瓶に集めたコインを憶う

      「家系図、作りたいんだけど」 そう書いて送ったショートメールの一文に、父はなんの反応も示さず、同時に伝えた別の用件にだけ返信をしてきた。 スルーしやがったな、と舌打ちする私。 生まれを辿ることは、彼の傷に触れることなのだろうか。そんなこともいまだによくわからないままだ。 単に、「家系図」という突拍子もない単語がでてくる意味がわからず、返事のしようがなかったのかもしれない。ちなみに「家系図案」は、私が最近感じていた自分の人生に対する言いようのない不安感からきたものだった。どこ

      • 不安と恋は似ている。ので、ひとまず猫を撫でてみる。

        コロナ禍のなか、ネットを開けば恐怖や不安という文字が、よく目につくようになった。 が、私はわりと平常心で暮らしている。 死の可能性はいつだってどこだっていろんな形で潜んでいるわけで、 と『北の国から』の純口調で斜に構えてしまう。 もちろん感染拡大を防ぐためのマスク、手洗い、外出自粛は実行中だ。 切実な問題が山積みであることもわかっている。 今誰かが抱えている不安な気持ちもないがしろにはしたくない。 けれどコロナ以前にも、不条理な死や生活に苦しむ人はたくさんいた。 戦争だっ

        • 「知覚の扉」とは何か? ドアーズというバンドが好きだった話から考えてみる

          ※写真は2019年に森美術館で開催された塩田千春展「魂がふるえる」で個人的記録として撮影したものです。 アカウント名の「扉」は、アメリカのロックバンドThe Doorsから拝借している。田舎(井戸)から上京し自分はひとりで生きているのだと思いつつ井戸の周りをぐるぐる周り続けていた蛙時代、東京の地下鉄通路をオラオラと虚勢を張って歩く用ソングがドアーズの「Break on throuth」だった。 初めてドアーズの1stアルバムを聴いた時のリアクションは、「ちょ、足から引きず

        あの人の声が聴こえる

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          なごり雪

          2020年3月29日、洗礼式の日に東京に雪が降り、 27年前の同じ頃に、東京に雪が降った日のことを思い出している。 大学4年も終わりに近づき、私はどこの企業にも内定を貰えないでいた。そんな私をみて、四ツ谷三丁目にあるバイト先の某カフェ社員さんが私に、ここにこのまま就職したら? と言ってくれた。 私は当時、就職するなら出版社!と考えていた。物書きに憧れていた私は、言葉に関わる仕事がしたかった。したかった、といっても本当は就職なんてしたくなかった。4年生になった途端に周りが一斉

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