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2022年ボカロ10選


ボカロリスナーのみなさん、あけましておめでとうございます!!(激遅)
2022年もお疲れ様でした。いろんなボカロ曲を楽しめたでしょうか?全然聴けなかったから今年はもっと聴いていきたいというリスナーもたくさん聴けたけど満足できないから今年はもっと聴いていきたいというリスナーも、自分が楽しめる範囲で今年もボカロリスナーやっていきましょう!

さて。2022年ボカロ10選の話です。
ようやく自分の10選について感想が書けたので、公開します!

10選のマイリストはこちらから。ぜひ曲を聴きながら感想を読んでみてください。
ではさっそくいきます!


※「カルチャ」にてオマージュ元と思われる作品の内容について言及しています。ネタバレ注意。



稲葉曇『ポストシェルター』Vo. 弦巻マキ

サビの強い曲は正義。

歪んだ形の階段を一段飛ばしで上り下りするような危ういバランスを持っていた最初期の曲調から、「ラグトレイン」以降でミドルテンポのダンスビートを採用してより明快なサウンドを手にした稲葉曇さん。以降の曲は、よりバンドサウンドから遠のくサウンドのシンセ音を展開したり、ビート先行による曲展開を強めたり、最初期を含めたそれらの特徴を混ぜ合わせたりと、現在は模索した曲作りをしているような印象を受けます。
そこへいくと本作は最初期の不安定さは強くなく、かといってキャッチーに寄りすぎることなく、音については完全なバンドサウンドとは言えないもののそこまで打ち込み楽曲としての色を濃くしないピアノを採用していたりと、様々な点で中庸をとっているような曲調。この塩梅が自分にとって非常に心地よかった。クリエイターとして挑戦したい尖った方向性とリスナーを意識したわかりやすい表現が過不足なく合致している、そんな感覚です。
・・・いろいろと言葉を尽くしてみましたが、実のところはただ歌の力強さにやられただけかもしれません。それくらいサビの歌メロにハマりました。サビの強い曲は正義。(2回目)

『にわか雨で濡れていた』『宛先』『誰かに貰ったペン』という歌詞。氏の楽曲を聴いていると、どうしても特定の人物に宛てた作品であるように感じてしまう自分がいます。私もまた同じ人にいまだ囚われているからです。この曲の歌詞を聴いていると心に暗い影を落とすような、そこにどこか救われるような、そんな気持ちになります。現在の手紙(=作品)はどうなのでしょうか。”誰かの字で乗り越え”られているのでしょうか。”宛先”は、今は変わっているのでしょうか。
他のリスナーによる稲葉曇さんの歌詞解説や考察があったら、ぜひ読ませていただきたいなあと思ってます。




ゼロになって / のぼる↑ feat. 夏色花梨

聴いた瞬間に「のぼる↑さんの傑作がついにきた!!」と快哉を叫びました。

重くハードなバンド陣にアイドルポップのような煌びやかな上モノの音というギャップが氏の持ち味の一つですが、本作は上モノの方がより強調されており、ポップなサウンドのギターロックという趣になっています。ボーカルを務める”高校3年生”という設定の合成音声「夏色花梨」のデモソングなので、おそらくそのキャラクターに寄せた音作りの結果と思われますが、これが絶妙にマッチしている!女子高生という肩書が持つある種の魔法のように感じられる偶像的なイメージと、そうありながらも確かに実在しているリアリティの二面性が、上述したのぼる↑さんの曲調によって的確に捉えられています。時折語りパートを挟んだモラトリアムな歌詞も良い。
そして夏色花梨のボーカルがこれまた絶妙。かわいさが前面に出た、それでいて背伸びしていない声。まさに女子高生然としていると言いますか。単に私が夏色花梨の声が好きだとも言えますが、彼女に魅力を感じたきっかけは間違いなくこの曲です。

本曲はのぼる↑さんの5thアルバム「ALTIMA」の収録曲です。この曲目当てで買ったというのが正直なところだったのですが、いざアルバムを聴いてみると実に名曲揃いでした。洋楽や歌謡曲を思わせるストレートなメロディ・曲展開が聴いていて気持ちいい。なかでも「夢のアリカ」「終末の街」「ボクラの境界線」が特に気に入っているのですが、なんといずれも新規書き下ろしではなく既存楽曲のリテイクで、個人的にここ数年の楽曲が刺さりきっていなかったため非常に驚きました。なんなら動画として投稿されている「キミノカゼニナル」なんかも確実に聴いた上で通り過ぎているので、自分の耳がいかに腐っていたかを痛感することになりましたwアルバム単位で聴くことで良さがようやく見えてきたのかもしれません・・・。
今はまだ「ゼロになって」を含めたアルバム収録曲を楽しんでいるところなので、落ち着いたら改めてマイリストを巡回しようと思います。新たな魅力に気付けるかもしれないと考えるとワクワクですね!




Reboot (feat. 初音ミク) / 或(aru)

ボカコレ2022春、ドラム大賞の作品です。
また本作は公式生放送「ボカコレ投稿作品を褒める生放送」、略して「ボカほめ」に出演した際に感想付きで紹介させていただいた作品でもあります。せっかく語ったので、気になる方はそちらもご覧いただければと思います。

タイムシフトだと40:28~あたりから「Reboot」の話してます!


さて、「ボカほめ」を始めとしていろんな場所で紹介させていただいた「Reboot」ですが、正直に申し上げますと、この曲が今回の10選の中で最も聴き方が偏っている曲だと思っています。ドラムが好きすぎていまだに他の音をしっかり聴けていないからです。ドラムばっかり聴いてる。
冒頭の特徴的なビートを主軸として展開する、理想的にドラムによってリードされる楽曲。音のバランスも聴き通しやすく調整されており、「ドラムを聴いてくれ」と言わんばかりです。

個人的に最も印象的なのが、曲の始終で用いられるビートと、その後半のパターンです。

ドラムのみ抽出したものを用意しました。
金物など細かいところの変化はありますが、イントロ、1番Aメロ、1サビ、間奏、そして最後でこのビートが採用されています。8ビートや4つ打ちなどの基本的なパターンでない、冒頭の3連バスドラから始まる特徴的なフレーズを軸に展開していくという点で、この曲はドラム的にコンセプチュアルだと言えます。コンセプチュアルであることの良い点のひとつに、コンセプトから外れた部分とその意味が際立つというものがあります。Bメロではサビ前でビルドアップして盛り上げる役割を果たすため、ラスサビではクライマックスで疾走感を付加するためにこのフレーズから離れたドラムを展開しています。中でも印象的なのが2番Aメロで、1番ではコンセプトに則っていたところをあえて外しています。ただボーカルラインやリズムを大きく変えることはなく、あくまでマイナーチェンジといった具合。コンセプトとなるビートの特徴である3連バスドラを採用することが十分に可能でありながらそれをすることはなく、ギターとベースも呼応するようにリフを若干変化させています。この一聴すると通り過ぎてしまいそうな程度の違和感に、作者の意図あるいは意志を感じ取ることができるのです。

続いてビート後半のパターンについて。
上に貼った抽出音源の中で特に注目していただきたいのが、0:04、0:07、0:10、0:13の部分です。
以下にMIDIノートをそれぞれ貼ります。

①0:04が赤丸部分
②0:07が赤丸部分
③0:10が赤丸部分
④0:13が赤丸部分

工夫せずそのままスクショしただけなのでわかりにくいかもしれませんが、赤丸部分がリズムパターンの最後部分(のバスドラ)になります。頻出度合いでいうと①>③>②>④です。一般に採用されやすいのは①で、②が使われることもそう多くないと思いますが、何より印象に残るのは③と④。③では1つ目のバスドラを裏のタイミングから16分音符ひとつ分後ろにずらし、2つ目のバスドラを裏のタイミングで鳴らしており、④では1つ目を裏のタイミングで、2つ目を16分音符ひとつ分前にずらして鳴らしています。まず③と④それぞれが「ここでずらそう」というアイデアがなければ使われることすらないフレーズなのですが、その”ずらし”のフレーズを2種類用いているのが本当にすごい。しかも③と④で採用度の優先順位を明確に設けています。④が使われるのはなんとサビでのたった1回だけ。たった1回です。曲全体において、フィルと言えるほどでもないビート内のいちフレーズが、たった1回だけ。
具体的に書きすぎたので可能な限り簡潔に書くと、「1つのリズムをビートマシンのように使い回すことも可能なドラムというパートにおいて、曲中で目立つ部分でもないところにたった一つだけ変化をもたらしている」といったところでしょうか。
繰り返しますが、本来は③がある時点で驚異的なフレーズ発想であり、そんな中でひとつだけ④という変化をもたらすという、いわば二重のギミックになっているわけです。ドラム好きとしては、こんな拘りの塊みたいなフレージングは触れない方が失礼というものでしょう。

・・・ということを本当は「ボカほめ」の配信内で伝えたかったのですが、あまりにも説明が長い上に必要となる前提知識が多いため、泣く泣く少し触れる程度となりました。それでも完全に尺をオーバーしていたのですが。

ちなみに”バスドラの16分ずらし”という技巧の稀有さと発想力を強調するためにこのような書き方をしましたが、スネアを加えたパターンやフィルなども考慮すると、上に挙げた4種類の倍以上のパターン数になります。拘りの鬼~~~~!!




プラネテス / seiza feat.初音ミク

2022年投稿の曲で私が最も歌詞を聴いたのがこの曲。
私は曲の聴き方としてはかなりのサウンド偏重型で、ものすごく好きだけど歌詞はよくわかっていないという曲があるくらい普段歌詞をあまり意識していません。私のようなタイプのリスナーにとってはストーリー性が重視されるような歌詞ほど最初から把握しづらく、逆により耳に残るのがこの「プラネテス」のようなタイプの歌詞だと思います。言葉を選ばずに言うと「すべてがパワーワードで構成されている歌詞」。
本曲は『君を幸せにできる魔法があればよかった』で始まり『さあ 誰も知らないふたりだけの世界へいこう』で終わる力強い歌詞ですが、道中にも『何光年離れても寂しくないよ』『君のいない正解を選ぶなら間違いでいい』『許しを乞うくらいなら罰を受けよう』『君のいない正解を選ぶなら間違いでいい』と、その部分を聴くだけでも思わず振り返ってしまうようなド直球な歌詞が散りばめられています。
そんなパワー溢れる歌詞ですが、曲のテーマが”星””天体”というスケールであるため、この極大な詞を使われるだけの説得力が十分にあります。つまり宇宙曲は正義だというわけです。(極大な言葉)

加えてボーカルとサウンド。今にも崩れてしまいそうなかわいくも儚いミクの歌声に、どこまでも透き通った清涼感と壮大さに一抹の切なさを落としたような音。これらの要素が歌詞から織り成される世界観に奥行きをもたらしているように感じます。二人の置かれている状況はかなり厳しいと推察されるものの、それでも絶望を感じさせず前を見続けるような姿勢に「君と一緒ならどんな場所でもどんな境遇でも幸せだ」と、音全体が、すべての歌詞が物語っているように思えます。「一人称視点の歌詞なのだから、ただの壮大な片想いかもしれない」なんて疑問を差し挟む余地もないほどの迫力に、ふたりの星間飛行がただ希望あるものであるようにと願わずにはいられません。

好きな歌詞を強いて挙げるなら、『だから最期の走馬灯に同じものを観よう』『こんな永遠なんて僅かな時間は跨いで』です。デカすぎんだろ・・・




漂白 / 紲星あかり

ここからは下半期。ニコニコ動画による匿名投稿イベント「無色透名祭」で投稿された作品です。(無色透名祭とは何かを知りたい方はこちらの記事を参照)
こちらは作者が明かされている作品で、ミミミミさんの「漂白」。直近だと、12月18日にニコニコ生放送にて開催された「結月ゆかり・紲星あかり誕生祭記念・公式生放送2022」で紲星あかり歌唱曲として披露されたのが印象的です。

ミミミミさんはイラストやMVも自分で手掛けるだけでなく、いわゆる調声も他のクリエイターから依頼を受けるほどに定評がある方ですが、曲調自体も氏の大きな特徴だと思っています。ボーカルをじっくり聴かせることを踏まえた歌モノとしての曲構成、シンプルで情報量の絞られた音編成。”情報量の絞られた”というとマイナスイメージに聞こえるかもしれませんが、そこで活きるのが緻密にエディットされたボーカルです。聴き通しが良いぶん歌声が音の真ん中を通ってくれるため、歌メロに集中しやすい。歌詞を咀嚼できるというよりは、詞が音として胸にまっすぐ届くような感覚があります。私は歌詞をあまり読まないのですが、サビの最後の『癒えてしまうよ 癒えてしまうのでしょう』『嘘をついた 嘘をついたのだ』の部分で毎回あまりの歌メロの力強さに涙腺が緩みます。
またミミミミさんの歌メロの特徴として、音程の差があまり激しくないという点が挙げられるでしょう。これによって、盛り上がりの強い曲と比べてカタルシスが抑えめになって渋いメロディ遷移となります。これがボーカルエディットによってくぐもった中に芯を感じるような、燻った感情が渦巻いているような印象を受ける歌に。これが氏の楽曲が持つ例えようもないエモーショナルな空気を語る上で決して欠かせない要素です。先に書いた涙腺が緩む部分は、この要素も大きく貢献していると言えます。

最後にドラムの話をすると、Aメロのクローズハイハットがシンコペーションしているバスドラのタイミングに合わせて強く叩いているところが好きです。シンコペーションのため通常の8ビートのハイハットにおいて弱く叩くところで強く叩いているのですが、この処理をあえて選択していることに作者の自我を感じます。作者の自我を感じるドラム、大好きです。こういうのが聴きたくてドラム聴いてんだよ・・・!




息回り / ornot feat.歌愛ユキ & 初音ミク

私の年間10選マイリストは毎回投稿日時が早い順としていますが、7/28に投稿された「漂白」から一気に10/7投稿の本作に移っています。つまり、”無色透名祭”から”ボカコレ2022秋”へ。意図したわけではないですが、間違いなく2022年を象徴するイベントの参加曲から選出しているところから、あぁ自分ちゃんと聴いてるなぁとマイリストを振り返ってひとりごちたりしました。

閑話休題。
本曲は先日投稿した「ボカコレ2022秋 10選」でも選出して感想を書かせていただいた「息回り」です。以下にリンクを貼っておきますので、そちらもお読みいただければと思います。

作者のornotさんは前作「声色」でデビューしたボカロPで、ギターに寄せた打ち込み音のシンセが入ったボカロオルタナといった印象の曲でした。一方で本作は、木琴類のようなコロコロとした音に暖かみを感じさせるシンセなどを用いた、ハイテンポなエレクトロニカといった雰囲気です。しかしイラストの背景で倒壊するビル群から伺える終末世界――いわゆるポスト・アポカリプス感だったり、不穏な気配を徐々に強めていく歌詞だったり、不安を煽るかのような変拍子といった要素が高度に織り込まれた結果、明るい曲だとも暗い曲だとも一口に形容できない、奥行きのある曲調に仕上がっています。
曲中の拍子は、イントロが6拍子と5拍子の交互で最後だけ6拍子、Aメロ前半は6拍子と5拍子の交互、Aメロ後半は6拍子→5拍子→6拍子→6拍子を2回し、Bメロはすべて8拍子、サビはすべて6拍子、サビ後の間奏から2番Aメロまでは1番と同じ、2番Aメロ後の間奏は基本5拍子で最後だけ6拍子×2、その後のラスサビと最後はすべて6拍子、といった感じです。伝わりにくい書き方に鳴ってしまったと思いますが、かなり複雑に作られていることはおわかりいただけると思います。6拍子と5拍子を軸としていますがどちらか片方だけのパートもあったり、併用するにもかなりパターンが豊富です。また一般に違和感が最も少ないであろう8拍子が登場するのはBメロただ1回であり、それが一番安定感のあるはずの拍子が逆に浮いているように思わせるよう仕向けられた構成となっています。また6拍子もしくは5拍子の部分ですが、基本ビートで3拍子のポリリズムが使われており、かなり複雑です。さらにサビではさりげなくポリリズムでなく6拍子のビートになり、リズムが落ちたような、”半テン”した時に近い効果が与えられています。この複雑なリズムの中でグルーヴを非常に巧みに表現しているのが素晴らしい。
歌詞については、実際はよく読んでいくと冒頭から不穏な内容であることがわかるのですが、1サビ最後で心停止のような音で引っかかりを持たせる形のブレイクと共に『死骸を』という残酷なワードをはっきり提示することで、明確に違和感を持たせるような仕組みになっています。そこで初めて尋常でなさに気付いて歌詞に目を向けると実はずっと穏当でなかったことが判明し、ブザーの音や雷鳴にも似た音、ラスサビの『絶命の歌を』といった歌詞に『コエモハランデ』というカタカナ表現、街が溺れていくような音を経て『死者ぼくたちよ』『始まりに戻る』という言葉で曲は締め括られます。
私は音を重視して聴く傾向にあるため歌詞が意識から漏れてしまうことが多いのですが、そんな私でも1サビ以降から歌詞に惹きつけられてしまうくらいに音の演出を使った丁寧な導線が引かれており、いっそ心地良いくらいに曲に翻弄されるような感覚を味わえます。序盤で期待していたエレクトロニカ系統とはまた違った意味合いでリピート再生したくなる曲です。あるいは『始まりに戻る』という最後の歌詞は、リスナーがまた最初から聴く行為のことをメタ的に指摘した言い回しでもあるのかもしれません。




ハイドレイト / 初音ミク

「息回り」に引き続き、こちらも「ボカコレ2022秋 10選」で紹介させていただいた曲です。

デビュー作である「お薬を頂戴」からダーティ・アングラな雰囲気を纏うメンヘラロックを奏で続けていた作者の匿名ゲルマさんは、#kznSongContest参加楽曲である「ユメみ」にてこれまでとは一風変わった曲調を提示してきました。そして曲作りの手札の多さと技量の深さをより強固に感じさせることとなったのがこの「ハイドレイト」。
これまでのシンプルな編成に聴き通しの良いサウンドとは打って変わった高密度さと体系的な音像を両立させているのが本作の大きな特徴です。これにはソリッドなギターと骨太なベースを効果的に使った曲構成もさることながら、ドラムによるフレージングが大きく貢献しているでしょう。上に述べた高密度さはドラムのスネア連打やスネア+フロアタイムのビルドによるものが大きいのですが、曲中ではそれと同じくらい、ハイハット(とバスドラ)のみのパートやスネアを通常の叩き方でなくクローズリムで叩くパートが登場します。またAメロではスネアのタイミングを後ろにずらすスリップビートが採用されており、他にもサビ前のハイハット部分の入りを遅れさせたりと、曲の秩序だった整列感を印象付けるクレバーな処理が散見されます。セクションとして目立つのはスネア連打かと思いますが、こうした気の利いたドラムを要所に配置することで曲を見事に下支えしているんです。ドラムへの理解の深さはもちろんですが、曲のコンセプトを明快に提示するためのフレーズ選び。「パートごとにどれを意識すればよいか、クライマックスに向けてどう盛り上がっていけばよいか」という視線誘導が非常に上手い。そしてここまで役割を果たしているドラムを必要以上に際立たせることなく、Aメロではギター、サビではベース、ラスサビ終盤ではシンセを強調することで音全体の調和を保っています。
初めて見せる作風でこれだけの完成度、これだけのバランスで表現し切ってしまう匿名ゲルマさん、2023年も注目です。




化けの花火 / Mizore feat.可不

この曲も「ボカコレ2022秋 10選」で選んだ作品。他でも何度か触れていますが、ボカコレ期間中に最も衝撃を受けたのがこの「化けの花火」。

ロジクワイン」「のうのまい」といったスマートな音作りと聴き手を翻弄する曲展開が氏の特徴ですが、本作ではさらに鋭く。メロウな音の一切を削ぎ落とすことで一寸先も見えないほどに張り詰めた進行、かと思えば一瞬で沸点まで達するような急上昇。サビでは緊張感を多分に残しつつも見晴らしの良い音の広がり。そしてサビが終われば、今までが化かされていたかのようにまた闇の中へ。予測不可能という意味ではいつもながら流石の展開力と言えるのですが、他にない怪しさを纏った本曲でもって氏の新たな一面を見せてくれました。
特にラスサビ前では、ただでさえ性急な盛り上がりが転調によってさらに上昇し、我々の想定をさらに一段階上回るボルテージに移行。糸がぷつりと切れるようなあっけない最後も素晴らしく、2分45秒とは思えない満足感が得られます。圧巻のサウンドコントロール。

この曲の登場によって一気に底が見えなくなったMizoreさんですが、これがターニングポイントとなるのか、もしくは依然爪を隠し持っているのか。この方もまた2023年必見のクリエイターです。




カルチャ / ツミキ feat.初音ミク

(ヘッダー画像はこちらのスクリーンショットになります。) 

2022年のボカロ曲で1選を決めるなら、この曲です。
何が良いって、氏のユニット「NOMELON NOLEMON」とはまた違う、クリエイター「ツミキ」としての作風を色濃く感じるギターサウンド!そして””今””のボカロシーンをまさに的確に捉えた歌詞!
『culture shock.』から『cult_you. re_shock.』の歌詞演出はツミキさんを知っている身とすればさすがのギミックだと感じますが、こういった手法はNOMELON NOLEMONの方でも使われていたりするのでしょうか?歌詞を普段読んでいないとこういうところがわからない・・・。

本曲のメッセージは、動画説明文に明記されています。

「初音ミク」という文化で、もう一度誰かにとってのカルチャショックを起こしてやろう。
誰も識らない音楽にこそ、価値がある。
折角先代が作ってくれた自由な市場なのだから、何も考えず、好きに我儘に音楽を演ろう。という楽曲です。
これからこの文化に参加される皆さんによって、このショックが伝承されることを心より願います。

動画説明文より

ツミキさんが述べている通り、ボカロシーンには既存の枠組みに当てはまらないような曲が数多く存在します。そして、昨今では数々の投稿祭を経てさらにその流れが加速しているように感じます。特にボカコレ2022秋のルーキー・TOP100楽曲群が顕著です。複数のジャンルをクロスオーバーさせたような曲、そもそも既存のジャンルに当てはめられるのかわからない曲、そんな作品で溢れています。これまでの時代より一層、個性を爆発させたような曲が多く投稿され、それらが評価される傾向にある。そんな時期にこの曲が投稿されたのが、そのものずばり!という時代即応な感覚を強く受けました。
そしてそんな潮流を強く肯定し、『誰も識らないミュージックに踊れや』とクリエイター/リスナーに発破をかけるのが本作。つまり、このボカロシーンで新しくて突飛な曲を作る/聴くことを大いに楽しめと。ともするとこれまでの音楽の歴史を否定するとさえ言えてしまいかねない、この攻撃的な歌詞が自分の胸に刺さりました。特に『誰もロックンロールスターなんて識りやしない?』の部分は、「既存の音楽の権威やその評価なんてどうでもいい、知る必要もない」という冒涜的な言葉にも解釈できます。『カルチャ・ショック』とは、”文化の破壊”と言い換えることができるのかもしれません。

サウンド面で特に気に入っているのは、Bメロ冒頭とラスサビ前の間奏途中にあるキメです。どちらも大きなスネアの音から曲のギアが上がる展開ですが、Bメロ冒頭ではハイハットがなく、ラスサビ前の間奏途中ではオープンハイハットが鳴っています。この細かな違いをつけてくるのはさすがツミキさん。


ちなみにMV中に登場する檸檬は梶井基次郎の「檸檬」という短編小説をオマージュしたものらしいので、読んでみました。
(以下小説のネタバレです!!)
個人的にこうしたオマージュ元の作品からの影響を見つけるのが物凄く苦手なのですが、私の見つけた限りでは、主人公の「見すぼらしくて美しいものに強く惹きつけられ」るのを表したのが『「浪漫に美醜を感じないで」』という歌詞だと感じました。あとは雑多に積んだ本の上に置かれた檸檬が丸善で爆発するさまを無双するところが、”丸善””書籍”といった既存の歴史や文化の象徴である場所が爆発するという意味で『カルチャ・ショック』を指しているのかなと。
・・・これくらいです。他に指摘部分があれば、ぜひ教えていただければと思いますw




残/ホノfeat.初音ミク

こちらは「ボカコレ2022秋 10選」で選んだ曲・・・とは別の曲です。そちらでもホノさんを選出しましたが、この作品は12/25投稿。

本作の大きなポイントとなるのが右側で鳴り続けるギター。初見時は『そのまま薄れてゆく』の後にギターだけになった時点で「この後右のギターは変わらずに歌と他の楽器がそっと入る展開だったらどんなに気持ちいいだろう」と期待していたのが本当にそのまま実現され、泣きそうになりながらため息を漏らしたのを覚えています。
これはホノさんの曲について何度か言ったことがあるのですが、この激烈にライブ映えするサウンドと展開が本当に好きで。この曲は歌モノとしてキャッチーな構成ではないかもしれませんが、ライブハウスで演奏されている情景がありありと想像できます。右のギターだけになった部分は、原曲より長く掻き鳴らされているかもしれない。そして長いギターの後、大きく吸い込んで歌い出すボーカル。ここだけBPMを下げてゆっくり、辿るように歌うかもしれません。イントロはドラムとリードギターが先行して始まり、ギターボーカルがMCで場を盛り上げてから曲に入ってもいいですね。原曲ではリバーブを上げてフェードアウトする〆ですが、ここはライブではどうするのでしょう。ここでもBPMを下げてドラムのキメに合わせて終わるのか、それともヌルっと次の曲に移行していくのか、はたまた。曲を聴いていると、そんな想像を自然としてしまいます。お願いだからZeppツアーでホノさんの曲を演奏してくれないか?

ドラムとしては、極めてシンプルなフレーズでありながら、ずっと続いていた4つ打ちが終盤でバスドラの多い8ビートになるところに「エモ」を感じます。
あと4つ打ちパートでフィル気味に使われる3連バスドラが、裏でなく表のタイミングで踏まれているのがとても好き。




おわりに

以上で10曲!これで思ってることは書けるだけ書けたかな?

ちなみに私事ですが、今年で「20○○年ボカロ10選」を公開して10年たったそうです。メデタイネ!!
過去の年間10選は変わらずニコニコ動画のマイリストで公開しているので、以下に貼るユーザーページから見ることができます。冒頭に貼ったリンクからでもいけるよ!気になる方はぜひ。


振り返ると2022年は転換点となる年だったのかな?という気がします。2021年はヒット作が数多く輩出されましたが、それが2022年にきてシーンの色というか風向きが変わったように感じています。
今年はどうなるのか?まだ誰にもわかりません。楽しみですね!

2023年もVOCALOIDやってくぞーーー!!


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