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シルクロード紀行〜翳の国より(西安編)〜

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2009年に西安・敦煌・トルファンに行った。
その頃も今のように新型感染症が流行していて、
丁度SARSがその役だった。
自由な思念の中心地だったニューヨークに行くか、
壮大な大地に、悠久の時間が刻まれるシルクロードに行くか
迷いに迷っていたのだけれど、結局それが決定打になり
シルクロードを訪ねることに決めた。

シルクロードの出発点となる西安の中心街の広場には
四肢がおかしな方向に捻じ曲がりながらも祈っている男性や
不具の子供たちがいて、中国の魔法使いが
この街や大陸の奥深くにいますよと言われても
「確かに。きっと魔法使いはいるだろう」と
思わせてくれる懐の深さがあった。

ハリーポッターのホグワーツ魔法学校へと続く
ロンドン・キングスクロス駅のように古代、山海経で記されていた世界観が
今もこの先に息づいている。そう信じさせてくれるのだ

西安で市民が寛ぐ広場

そういえば、中国はオンラインゲームが大人気で
路地裏にあるネットカフェの、そのまた路地裏にあった公衆トイレに
立ちん坊のゲイの男の子がいて、彼は口をあんぐりと開けていて
口の中は血で真っ赤であった。

陰の気が深くあり、彼が亡くなったら妖怪の道にに堕ちてしまうんだろうな
というか
今まさに彼がいる世界が既にそういう世界なのかもしれないと感じた。

僕がシルクロードを訪ねたのは二十二歳の頃であった。
その頃曲がりなりにも自分自身、翳の世界にいて
”半妖”というか、目の玉に昏い色を宿している人を
よく見かける機会があり、そういった世界に敏感になっていた。

その中でも”彼”の瘴気は凄まじいものがあり、
一体どういう人生を歩んだら、こんなにも暗い道に入り込んでしまうのか

一瞬見ただけで、恐ろしくて目を逸らしてしまったが
彼の存在感はそれから十年以上経った今でも脳裏に深く焼き付いている。

そのネットカフェからほど近いところに回民街があり
イスラム教を信じる人々が被る独特なかたちをした帽子を被った子が
砂埃の立つ路地裏を駆け抜けていた。
路地の奥にはイスラム教の寺院があり、長い鬚をたくわえた男性たちが
続々と院内に入ってゆく。

僕がシルクロードを訪ねたのは、二つの目的があり
中国の少数民族たちに実際に会ってみたかったのが一つ。
もう一つは、山海経の世界や、水木しげるが記した中国妖怪辞典の世界観が
今の中国にも息づいているか確かめてみたかったのである。

中国の風土は日本のそれと異なるのは
やはり中国大陸の地形的な特質が理由だろう。

日本の妖怪は島国のムラ社会から爪弾きにされた者や外縁が
畏れる対象だったこともあり、どこか物悲しい。
恨みやつらみはあれど、ダイナミックな”悪”という感じはしない。

しかし、中国陸塊は古来から戦乱や圧政
異民族の東進や南下で、血みどろの虐殺がいつあってもおかしくない
土地柄であり、恨みや呪いのような悲しい感情ではなく
人間の根源的な”悪”にフォーカスが定められている。

敦煌へ向かう大陸鉄道の中で
乗り合わせた中国の人々に、山海経のことを訊ねたが
中国の人たちは朗らかに笑って
「そんなもの昔のもので、存在しないのよ」と口々に言った。

僕は近代化してゆく中国では文字通り、そんなものは昔のものになったのか
文化大革命によって山海経が切り捨てられてしまったのか
よく判断ができなかった。

石造の路地裏で

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