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短いおはなし7

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2023年1月の記事一覧

僕は自信がないよ。

僕は自信がないよ。

僕は自信がないよ。子ぐまが言った。#お洒落なオカマのキツネ が言った。あんたね、自信っていうのは、早咲きの花にこんにちはって挨拶できたか、折れた水仙を摘んで生けたか、ふろふき大根を食べてもらいたいひとのことを考えてできたか、ゴミ出しが間に合ったか、なのよ。

暗い夜明けを、かきわけ、かきわけ

暗い夜明けを、かきわけ、かきわけ

きつねは今日も感情が
抑えられなくなっていた。
身体もこころもこわばり
余裕も優しさも減った。
食も生活も乱れていた。

もうひとりのきつねが分析した。
プライドと劣等感と依存が原因かな。
そして、暗い夜明けを
かきわけ、かきわけ
病んだ自分を、大切な自分を、
救いに行った。

夜明けの薔薇園

夜明けの薔薇園

これ。と男の子は不器用にくるまれた包みを女の子に渡した。包みの中身は夜明けの薔薇園だった。よわい雨の日のお散歩がおすすめ。棘が美しいから。2人は結婚し年老いた。女の子は亡くなる間際にベッドサイドの薔薇園を見ながら男の子に言った。今日は雨ね。棘が美しいわ。

人生って何?

人生って何?

人生ってなに?子ぐまが訊いた。
クマが答えた。
早春の水仙が連なるプラットフォームで
きみだけを待っている
行き先不明の長距離列車に乗ることさ。
繰り返す喪失で空っぽになったきみに
水仙の匂いの汽車の蒸気が満ちる。
きみは怖くて震える。
生きている、と思う。

みんなが小説を書いている町

みんなが小説を書いている町

世界の果てのある町では、みんな小説を書いていた。それは、お料理のように日常のことだった。寒い日には暖をとるような小説を、つらい日には過去の幸運を思い出す小説を、恋をしていたら秘密を育むような小説を書いた。そうしてみんな、時に人生を俯瞰し、そっと毛布をかけるように人生を愛しんだ。