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2022年6月の記事一覧

こころの中の窓辺の馬。

こころの中の窓辺の馬。

男の子は大人になり
上手くいかないことも多く
不調、不運、喪失など
人生は整わないままだった。
だから男の子はこころの中の
本棚を整理した。
こころの中の窓辺に
大切な馬の絵を置いた。
こころの中の庭の
大きな桜の樹の下でうたたねをした。
どんなときもどこにいても
そこは静かで豊かだった。

君が閉ざしている君の光。

君が閉ざしている君の光。

クマが子ぐまに言った。
海が君の中にあるように
森が君の中にあるように
宇宙が君の中にあるように

光も君の中にあるよ。
そしてそれを閉ざしているのも君さ。
君の傲慢、偏見、弱さ。

克服するのはなかなかむずかしい。
でも取り組むと光が見える。
時間をかけよう。休みながら。
君の中の光へ。

ゆうべ惑星を買った。

ゆうべ惑星を買った。

惑星。

ゆうべ惑星を買った。
惑星は寂しがりで
上着のポケットに入りたがった。
惑星を手のひらでくるみ
ポケットに入れ電車に乗った。
電車は海をすべり沖合の教会で降りた。
惑星はその庭が気に入って根付き
オルガンに合わせて
うたうように色を変えた。
惑星をおいてひとり
帰りの電車に乗った。

料理をしていると寂しくなかった。

料理をしていると寂しくなかった。

うまくいかない男がいた。
男はふと料理をしだした。
不器用でせっかちで
上手くできたためしがないのに。
けれど傷が料理を求めた。
祈るようにキッチンに立った。
料理をしていると寂しくなかった。
外部を遮断し身体が治癒される
ように感じた。
料理がお腹から
人生をあたためた。

ひとの中には夜明けだけがある。

ひとの中には夜明けだけがある。

世界の果てで男が言った。
なあ、あんた知ってるかい?

ひとの中には夜明けだけがある。

繰り返し失い続けても
あんたになんの価値がなくても
夜明けたちがいつも
あんたの中で眠っている。

夜明けはあらゆる階調の青で
できている。

あんたは名もなき青い夜明けさ。

常識を生きるか、きみを生きるか。

常識を生きるか、きみを生きるか。

葉の影で精霊が言った。
常識や正解や友達や社会に対して
きみは至らなかった
と思い悩んでいるなら
そういうきみもとても可愛いけれど
あらゆる恥をかいて
あらゆる間違いを重ねて
あらゆる無駄をしつくして
あらゆる痛手を負って
自分のおもうままに
どれだけ生きたかい?
きみはきみを生きたかい?

「dryad」発売。

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心の深くに浸透してゆく
新しい神話。

写真70枚
短篇22篇
144ページ
文庫サイズ。

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あなたがうまくいかないときも
疲れ果て嫉妬と悪意にとらわれ
わるいことだけを数え
気づけないときでも。

奥の奥の奥の奥底では
黄金色の音楽が続いている。