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【SS 1/28】悪夢

 こんな夢を見た。


 仕事を終えた金曜日、友人と思われる人間と飯を食いに行った。雰囲気としては、新宿や渋谷のような都会の街並みだった。
 飯を食い終えて街を歩いていた時、一枚の紙切れを拾った。暗号のような言葉記号の羅列だった。俺と連れはそれを解かなければいけない気がして、解読に躍起になった。

 その暗号は解かれ、警察署の目前にある古い雑居ビルの一室へ案内されるように足を運ぶ俺達。十二階でエレベーターを停める。指定された部屋に辿り着く。ドアノブに手を掛ける。鍵は開いている。扉を開く。

 待ち受けていたものは、まず入口にビタミン剤。

【お疲れ様です。こちらをどうぞ。】

 俺達は躊躇無く口に含んで部屋に入る。明かりは点かない。夜光が大きな窓から差し込み、照らしたものは、口から血を流し死んでいた人間だった。座り込み、目を完全にカッ開いて両脇にビタミン剤の箱を抱える様にして、止まらない涎が如く血を流し、微動だにしない亡骸がそこにあった。

 俺達は完全にパニックになった。俺は口に含んだままのビタミン剤を吐き捨てた。連れは警察に通報した。携帯をスピーカーモードにして、場所の座標を伝えた。

 警察官がやってきて、部屋の中を一瞥し、俺達は事情聴取を受けた。そして警察官は一台のタブレットを起動し、死体をタブレット越しに見る。

「あー、こりゃ完全にイッちまってるね。ヤクだよ、ドラッグ。見てみ、これと彼の両脇の箱真っ赤でしょ。これ、ヤクが反応してる証拠だよ。」

 脂汗が止まらず上着を脱いだ。連れは警察官と共に更なる事情聴取の為署に戻っていった。俺は後に刑事が来るから待機、と指示を受けた。俺は二人の姿が見えなくなった事を確認して、ビタミン剤だと思って吐き捨てたドラッグをポケットに突っ込んだ。

 またもや扉が開いた。
「今日この時間から窓の外で作業する事になってるから、部屋出てくれる?」
 作業着の男に言われるまま、部屋を追い出された。部屋の外で待機しようかと思った時、冷静になった脳が危険信号を告げる。中には死体。にも関わらず驚く様子も無く作業着の男は出てこない。点と点が繋がった心地だった。

 身の危険を感じて、エレベーターのボタンを連打した。開いたエレベーターには、刑事を名乗る男(吉田鋼太郎だった)と私服の男、女が一人ずつ乗っていた。

「君が、さっき電話くれた人のお連れさん?」
-はい。でも、室内には作業員が入っていきました。

 部屋を案内する。中には先程の死体のみ。作業員がいない。そして、この建物を封鎖し捜査する事が決定した。
 俺は無性にこの三人が奇怪に思え、震えが止まらなかった。エレベーターを使わずに、階段で降りていく。各階全てが非常口を知らせる緑の電灯の明かりしかなく、赤黒い絨毯は闇へと続いていた。

 三階まで辿り着いた時、咄嗟に口が開いた。
-身体冷えて腹痛くて、トイレ行かせて下さい。
 あっさりと許可が降りて、血の様な絨毯を歩き、【厠】と書かれた扉を開く。和式便所だった。窓から脱出を試みたが、生憎窓は格子型で出る事は叶わなかった。

 ひたすら時間をかけて、用を足した。そっと扉を開くと無人だった。そっと赤絨毯を歩く。エレベーターの前で刑事を名乗る三人が何やらこそこそと話している。
 隙は今しか無いと確信し、一気に階段を駆け下りた。非常口の電灯が出口を教えてくれた。夜の雨上がりの雑踏へ駆け出した。

 俺は追われた。謎の四人以上はいる集団に追われた。逃げた。一人途中で見知らぬ女が一緒に追われた。女は履いているハイヒールを脱いで投げ捨てた。

 駅前の踏切で、女は駅と反対方向の線路を走り出した。俺は駅の方へ向かって走った。駅のホームがカーブしている独特なホームだった。向かいのホームに夜行列車が到着した所で、俺はホーム下の避難口に身を隠した。

 追手が消えた事を確認して、ホームを這い上がりまた走った。躊躇ったが、出頭する事にした。あの建物の向かいの警察署に、怯え隠れるように向かった。

 受付の婦警にあらましを説明した。奥から出てきたのは建物に来た刑事を名乗る男(吉田鋼太郎)だった。俺は全身から冷汗が噴き出るのを確かに感じ取った。
 その男は俺と初対面の様な対応をした。ポケットに隠したドラッグを取り出し白状した。知らずに摂取したという事でお咎め無し、という事にしてくれた。

 警察署で顔を洗う為に便所を借りた。黒い床に白い電灯が反射した不気味で綺麗な入口だった。入口までは螺旋階段で、三周降りた所に目的地はあった。顔を洗い、黒光りする床の壁沿いに寄りかかって座った。腰が抜けていた。

 大学の同期の友人が女二人を侍らせて階段を登る。挨拶を交わす。階段を降りてくる足音が聞こえて身体が強張る。降りてきたのは、昼寝前に遊ぶ約束をした高校時代の朋輩だった。


 ここで目が覚めた。俺の悪夢はいつも妙にリアルで不気味である。全く困ったものだ。精神衛生上全く良くない。とりあえず冷え切った身体に暖を与えるべく炬燵に入ろう。

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